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[#マンガメイキング] 狙って描くと自分ノリが無くなっちゃう

前回、「狙って描くとうまくいかなくなる」という内容の漫画を描きました。

あんまり考えずに作った作品の評価が高くて、こうすればいいんだろうかと考えて作った作品の評価が低くなるというのは、よくあると思います。私にとって漫画がまさにそれなんです。漫画は描いた原稿を出版社に見せて、編集者がいけそうと思ったらその後新しいネーム(簡単な下書きのようなもの)を一緒に作ったり修正したりして、二人とも納得するネームに仕上がったら最後まで完成させて、編集長が載せてもいいよとなったら掲載となります。私は25歳からそういうのを始めて今年45歳で、そういうやりとりを何十人とやってきましたが、一回も掲載されたことがありません。寸止めが20年です。普通それだけやってればどこかで載るか途中で嫌になってやめるので、結構特殊なパターンだと思います。

その原因の一つが、「無意識に編集者や読者受けを考えて作ってしまう」です。漫画は持ち込みの際に編集者に「あ、この人の漫画は面白い」と思われたら「では一緒に掲載向けのを作りましょう」となります。この「面白い」と思われた漫画はあんまり考えずに作った漫画です。いわば自然な私のノリです。それが面白かったのだからまたそのノリでいいはずなのに、編集者と一緒に作る漫画では無意識に受けを考えてしまうのです。不自然なノリになるということですね。そして編集者は「あれ?なんか微妙に違うな、まあここから修正していくか」となり、一緒に修正していきます。そして修正する際にも素直に編集者の指示通りに修正してしまうのです。そういう修正が連続することで一番最初の「面白い」と思われたノリから離れていってしまうのです。なので「なんか期待外れだったな」ということで掲載されずに終わることが多かったです。

ちょっと整理すると、最初の持ち込みの「面白い」漫画は「杉100%」です。そして次の編集者に出すネームは編集者や読者受けを狙っているので「杉70%読者30%」です。そこから修正が繰り返されるたびに杉%が減っていって、最終的に「杉20%読者80%」くらいになって、面白ノリも20%になってしまうのです。これは実はよくあることで、とある編集者は「みんな、ネームは最初のが一番面白くて、俺らが直すと70%くらいになるんだよねー」と言っていました。

無意識に編集者&読者受けを考えてしまう原因に、私の「迎合ぐせ」があると思っています。今回と前回の漫画で、私は小さい頃エネルギーが低く社会になじめなかったという意味のことを描きました。

結論から言うと「見捨てられ不安」からの「迎合」です。小さい頃社会に受け入れらなかった→見捨てられる不安があった→人に迎合して気に入られようとする、という流れです。本来はアダルトチルドレンに関連する用語です。アダルトチルドレンとは簡単に言うと親が毒親だった人です。小さい頃に親が不安定だったせいで社会から受け入れられないトラウマ(小さい子供にとっては親=社会です)を持ってしまった人です。八方美人や良い人症候群、どんなに疲れていてもみんなの前でおもしろギャグキャラでいて、後で鬱になる人などが近いです。裏を返せばみんな人から嫌われること(社会から受け入れられないこと)を極度に恐れているのです。私の場合、毒親育ちではありませんでしたが、エネルギーの低さから文字通り社会に受け入れられていませんでした。

そして、掲載に向けた漫画という自分の本質が試される作業の時に、その「迎合」が出てしまうのです。どんなに最初の持ち込み漫画のノリで描けばいいのにとわかっていても、無意識に迎合してプロの世界に受け入れられようとしているんだと思います。一番最近(去年)の例だと、もともと私の「杉村くん」シリーズはせりふ少な目で、読者にフワっと解釈してもらおうというノリだったのですが、編集者と一緒に作ったバージョンだと説明が多めで、フワっと解釈の部分が無くなっています。

こちらがオリジナル版(フワっと版)

こちらが連載版です(説明多い版)

現代の漫画は説明多めの傾向があります。なので、説明多め版のほうが作りとしては正しいです。読者も読みやすいです。…が、フワっとしたノリが「杉村くん」の持ち味だったような気もするのです。つまりどっちつかずということなのです。そのへんの判断は、連載が始まってからの人気具合でわかるかなと楽しみにしていたのですが、残念ながら連載は別の理由で流れてしまいました。もちろん、どの漫画家も「こうすればネームは通るかな?」は考えるものです。でもそこで譲れない自分ノリがあるはずで、「素直に編集者の指示通りに修正してしまう」ではいけないのです。

私は中学生に上がって不良グループに入って、そのダラっとした雰囲気にずいぶん救われていました。みんなたばことかお酒を摂取しだすからか、常にだるそうでした。エネルギーの低い私にピッタリです。そこで初めて世の中に受け入れられたのです。「杉村くん」シリーズは主にそのことについての漫画でした。

そして子供の頃のメインの経験が低エネルギー&不良という変な二種類なので、現在もちょっと変な大人に仕上がりました。でも、漫画を描くのが好きな人はだいたい変ですし、そこが面白さにもつながっていると思います。その一方、読者や編集者は普通サイドの人たちです。ちょっと普通に寄せたほうが読者は読みやすいです。それが漫画を編集者と一緒に作る理由です。そして漫画における才能とは、良い感じに変で良い感じに普通も持っているバランスの良い人だと思うんです。変ばっかりだと意味がわからないですし、普通ばっかりでも面白くないです。変でありながらも心の中の「面白い」がみんなにとっての「面白い」と近ければ近いほど、その人の自然なノリが読者に受け入れられます。それは漫画に限らずJ-POPでもお笑い芸人でも人気商売なら共通ですよね。

ただ、これはプロとしてお金をもらう漫画の話です。noteTwitterに載せている漫画や普段の人間関係では迎合せず自然にやっています。その自然なノリにいいねやコメントをくれたり仲良くしてくれる人たちの存在によって、私は世の中に受け入れられている実感が増し、エネルギーをもらい、そして無意識に迎合せず次のステップに行けるようになるのだと思います。いつもありがとうございます。次こそはデビューできるはずです。

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