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【記事翻訳】気候変動の適応に向かう、世界最南端チリの稲作産業

今回は、SRI(System of Rice Intensification)という稲作手法に関する英語記事の翻訳です。

SRIは、マダガスカルでフランス人宣教師により発明された手法であり、以下の主原則となる3つのポイントがあると言います。

・まだ苗が小さいうちに、田植えすること。
・苗は間隔をあけて粗植すること。
・水田は水分を保ちつつ、湛水しないこと

また、SRIは化学肥料ではなく堆肥を使い、慣行的な稲作と比べて水量が半分で済むため、水が十分に得られない地域でも実施できる。さらに、湛水状態にないから、メタン放出(メタンは二酸化炭素以上に温室効果の高い気体であり、水が満たされたような酸素の少ない土中に発生する)も抑えられる。

このような特徴から、自給率向上と環境保護を両立させることが可能である。

以上、見てみると、米農家としては申し分のない農法です。

このSRIは、循環畑実践家の吉原優子さんの研究の途中で紹介いただいたのですが、自分ではまったく知らなかった農法のため、調べてみることにしました。

その中で見つかった記事が、今回の英文記事です。

以下、見ていきたいと思います。(強調部等、筆者による)

気候変動適応に向かう、世界最南端の米産業

2021年4月27日(IICA) - デイビッド・カスティーリョ(David Castillo)とワシントン・ヘルナンデス(Washington Hernández)は、サンティアゴ・デ・チリの南約350kmに位置するマウル(Maule)地方の町、パラル(Parral)で稲作を行っている。彼らは20年以上にわたり、伝統的な稲作方法である湛水栽培で米を生産してきた。

この湛水栽培という栽培方法は、世界で最も水使用量が多い栽培方法だ。半キログラムの米を生産するのに約1,700リットルの水が必要であり、水不足や気候変動の状況下では持続不可能である。

マウル地方は、過去12年間にわたって進行している大規模な干ばつに見舞われている地域の端に位置しており、多くの生産者にとって危機的な問題となっていた。デイビッドとワシントンは、生産を続けるためには新しい技術を導入し、環境への適応を始めなければならないと考えてきたところだ。

チリ農業研究所(INIA)の稲の遺伝子改良プログラムを担当する研究者、カルラ・コルデロは「米の女王(the Queen of Rice)」と呼ばれている。コルデロは、この地帯の生産者にとって具体的な解決策として提案されているSRI(System of Rice Intensification)の導入を率先して行ってきた。SRIとは、集約的かつ直接的な乾式播種を可能にする農法だ。

『現在54カ国で1,000万人以上の生産者がこの方法の恩恵を受けています』コルデロはそう説明する。

『アフリカで生まれたSRIは、アメリカ大陸の温暖な気候の国でも導入されています。課題は、チリのような温帯気候に適応させることでした。チリは世界最南端の米生産国ですが、米作地帯の気候条件はジャポニカ米の栽培にしか適していません。チリは世界最南端の米生産国ですが、この寒冷地では病害虫が発生しないため、米の生育が促進されます。そのため、農薬や殺菌剤を使用せず、最小限の化学薬品で栽培することができます。この特徴により、私たちの米は、世界の他の地域で栽培されている米とは異なります』。

この研究者は、チリや他の温帯気候の国でこのシステムを開発するために、4年以上にわたって関連する貴重なデータや情報を収集してきた。

この方法論の応用は、米国の名門コーネル大学にも認められており、同大学はSRIインターナショナルネットワーク&リソースのウェブページで、「SRIは持続可能な生産への方向転換の一部であり、作物に使用される化学製品の削減を進め、除草剤を使用せず、同時に米に使用されている大量の水を節約することができる」と述べています。

米州農業協力機構(IICA)は長年にわたり、ニカラグア、コスタリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラ、コロンビアなどの国々と協力して、生産性、競争力、回復力、低排出ガスの米セクターを育成するための可能な代替手段として、SRI手法の普及、適応、検証を行ってきた。

チリでは、次の4つの基本原則を推進しています。

早期栽培(植え付け時期の柔軟性)

雑草を機械的に駆除することによる植物間の競争の低減

健全な土壌の維持(根の通気と酸素供給)

乾いた土壌と湿った土壌の交互利用

これらの原則に加えて、高収量種子の使用、工業的品質の向上、短期栽培、新しい制限水条件への適応などにより、気候変動に配慮した稲作品種が生まれ、2年間の試験と実験を経て、生産者が大量に使用できるようになった。

IICAの農村改良普及専門家であるフェルナンド・バレラ(Fernando Barrera)は、

『この段階での課題は、農民、改良普及員、研究者、開発エージェントが参加する参加型の研究プロセスを継続することだ』

と述べています。

『実験レベルではすでに達成されているように、水の消費量を効率的に50%削減できるような農場レベルの灌漑戦略を考案し、乾式直播システムを調整して種子をより効率的に利用し、より生命力が強く、回復力のある高収量の品種を生産することを目指します』

『また、除草剤への依存度を減らし、環境にやさしい解決策を提供するために、機械化された雑草制御システムの開発にも引き続き取り組んでいきます。そして、SRIに最も適した遺伝子系統を特定するとともに、水ストレス条件への適応を可能にする生産管理手法を導入していきます。さらに、より持続可能な生産システムの価値を強調し、私たちの農村世界の最良の姿を表現するマーケティング戦略を考案することも目的としています』

IICAの専門家によると、実験段階の後には、技術を農家に移転する期間と、農家のニーズに合わせたツールや知識を提供することに重点を置いたサービス普及の段階があり、この持続可能な生産の新しい形にインパクトを与え、受け入れられるようにすることを目指しているとのこと。

地域プロジェクト「気候変動適応のためのイノベーションと応用科学」

このプロジェクトは、マウル州政府の競争力革新基金(スペイン語の頭文字をとってFIC)が資金を提供しており、この分野の研究、革新、競争力を促進している。このプロジェクトは、約1,100軒の稲作農家のほか、農家の技術アドバイザー、企業、ODEPAやINDAPなどのチリの公的機関を含む、この分野の関連団体および関係者に利益をもたらすことを目指しており、プロジェクトの推進はまた、チリ国内の米消費者にも間接的な利益をもたらすことだろう。

INIAキラマプ/ライウエン州の地域ディレクターであるロドリゴ・アビレス(Rodrigo Avilés)は、パラル地区はチリの米生産量の約60%を占める最高レベルの地域であると指摘する。

『INIAの遺伝子組み換え稲作プログラム(genetic rice improvement program)は、気候変動、灌漑用水の制限、環境関連の市場需要の増加などを特徴とする新しい農業シナリオへの農家の適応を支援するために、この代替案を特定し、IICAと共同でディグア(Digua)の実験農場で実証しています』

INIAとIICAのチームは、デビッドとワシントンを招待し、彼らの田んぼからわずか数キロ離れた野外の実験場で、この栽培システムの進歩を自分たちの目で確かめてもらった。

クユミラコ地区の生産者たちは、水不足の問題を誰よりも強く意識しており、100ヘクタール近い土地を耕して精米所に直接販売している。

この方法論を紹介された2人は、気候変動に適応した気候スマート米を生産するこの生産方法への完全移行に向けて迅速に進めるために、自分たちの田んぼの1ヘクタールにこの方法を導入することを約束した。

本記事を通して感じたこと

先日、ゴールデンライスという遺伝子組み換え米の商用栽培が認可された記事を紹介させていただきました。

2021年7月時点で、遺伝子組み換え米が世界初の商用栽培を認可されたわけですが、各国の研究機関において、実験栽培という形では既に様々な場所で米の遺伝子組み換えが行われていることに、何か言葉にならない気持ちを感じます。

また、遺伝子組み換えの話とは別に、米はその品種と農法によって収量が異なり、環境に配慮した農法が見直されつつあることには、希望も感じられました。

本記事内において、それは「遺伝子技術により高収量を得られる品種のDNAを特定し、その品種を水の使用料を大幅に抑えた農法を活用することで、旱魃や気候変動に適応したこれからの農法を研究・実践していく」というストーリーでした。

気候変動と農業に関して、私自身の体験に照らし合わせてみると、今年の8月、日本では災害級の大雨によって各地で洪水等の被害が出ました。

私の田んぼは直接、洪水等の被害は無かったものの、日照不足により稲刈りの時期が例年より10日近く後ろ倒しとなりました。

気候変動に対する農業のあり方として学びになる一方、どのような農業が今後、この国で求められていくのか、考えながらになりますが、将来世代のために続けていければと思います。


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