体験レポート:ホラクラシー社内ミーティングのオンライン見学ツアー(応用編)
今回は、RELATIONS株式会社で実施されている社内ミーティングのオンライン見学ツアー応用編へ伺った際のレポートです。
RELATIONS株式会社ではホラクラシー(Holacracy)という組織運営法を導入しており、その特徴的なミーティング運営を一般に公開しながら、どのように運営がなされているのかを紹介してくださっています。
私自身、これまでにもホラクラシー(Holacracy)に触れ、実践してきた経験もあったこと、また、ホラクラシー(Holacracy)が他社ではどのように運用されているのかに興味もあったこともあり、以前は基礎編に参加させていただきました。
今回は応用編。ガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)というミーティングに見学した際のレポートです。
RELATIONS株式会社
RELATIONS株式会社は、『会社に生命力を(Exploring a Living Company)』をパーパスに掲げ、コスト改善、組織開発をはじめとするコンサルティングに携わる企業です。
私がRELATIONSとより深く関わるようになったきっかけは、代表の長谷川博章さんと令三社の山田裕嗣さんの対談に参加したことです。
この対談企画の中で長谷川さんは、トム・ニクソン『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』で紹介されたソース原理(Source Principle)のほか、ケン・ウィルバー『インテグラル理論』、そしてホラクラシー(Holacracy)を組織運営のための方法論・レンズの1つとして活用されていることをお話しされており、実際にRELATIONSではどのように活用されているのかが気になっていました。
その後、ホラクラシー(Holacracy)を活用した社内ミーティングのオンライン見学ツアーも毎月開催されているのを知り、前回の基礎編に引き続き、今回も参加することに決めました。
参加が難しい方はこちら【10分でわかる】ホラクラシー®︎という記事もご参考までに。
ホラクラシー(Holacracy)
ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。
フレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』にて事例に取り上げられたことで、役職に伴う階層構造型の組織から、自律的な運営を行う組織へと移行するための方法・哲学として国内においても実践事例が増えつつあります。
ホラクラシー(Holacracy) は、2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)社のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)と、トム・トミソン(Tom Thomison)により開発されました。
Holacracyの語源は、アーサー・ケストラー(Arthur Koestler)が提唱した Holon(ホロン:全体の一部であり、 且つそれ自体が全体性を内包する組織構造)という概念に由来します。
ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲法/憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)と継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。
ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下のようにホラーキー(Holarchy)なサークル図によって表されています。
ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。
このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。
ホラクラシーについては、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版の解説者である吉原史郎さんの以下の記事及び、新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。
当日の気づき・学び
関係性とホラクラシーのプロセスへの信頼
今回のミーティング見学で感じたのは、参加されているRELATIONSのメンバーの皆さんの関係性と、ホラクラシーのプロセスへの信頼感でした。
ガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)では、組織における役割・構造を扱うミーティングであること、また、参加している一人ひとり(起案者、その他の参加者問わず)の意見を尊重することを仕組み化されており、明確な進行手順が存在します。
時に、ある参加者がやや脱線気味な発言をする場合も、その方自身がプロセスを理解していること、また、それを汲んだその他のメンバーやファシリテーターも柔軟に受け入れ、通常の進行プロセスに戻っていく様子が見受けられました。
ここには、プロセスの理解はもちろん、参加している一人ひとりのこだわりや性格、パーソナリティについても互いの理解と尊重が進んでいないことには実現が難しいように感じられました。
最近では『心理的安全性(Psychological Safety)』という概念で説明されることもありますが、この心理的安全性もRELATIONS内で醸成されつつある様子が伺われました。
積極的にガバナンス変更の提案をする人、そうでない人の偏りは?
こちらは、少し気になったのでRELATIONSの皆さんに質問を投げかけてみました。
ホラクラシー(Holacracy)は覚えるべきルールや専門用語が多いという側面もあります。
そのような方法をいざ実践するとなった時、積極的に参加して取り組む人・消極的な姿勢で取り組む人の差は出るのではないか?という疑問がありました。
長谷川さんからは、以下のような回答をいただきました。
ホラクラシーを導入した際の一番の難所と、それをどう乗り切ったか?
この問いは、ミーティング見学にいらっしゃった別の方の質問であったものの、RELATIONSとしての探求の旅路に深く関わる部分のため、とても深く聞き入ってしまいました。
一番の難所としては、創業メンバー間でのホラクラシー導入への対応・反応の違いとして現れたようでした。
長谷川さんは、海外のホラクラシーの実践者であるトム・トミソン氏(Tom Thomison)、クリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らにも相談した後、
という問いに立ち戻ったと仰います。
そして、当初はパワー・オーバー(Power Over:トップダウン的なパワーの扱い)だったホラクラシーの導入・実践のプロセスが、徐々にパワー・ウィズ(Power With:仲間と共にパワーを持ち合う)スタンスへと変容してきた、とのことでした。
これからについて
RELATIONSでのミーティング見学の基礎編・応用編に参加させていただき、改めてこの組織運営法の可能性を感じました。
私自身、ホラクラシーについて探求を深めるためにオランダで開催されたHolacracyOne主催のトレーニングに参加するなど学びを深め、実践を仲間たちと分かち合ってきましたが、何かこの有意義な知見を必要とする方々へと届けていける方法はないかと模索も続けていたところです。
前回参加したミーティング見学ツアーの中では、ブライアン・ロバートソンによる『ホラクラシー(Holacracy)』の新訳版が出版されることが話題に上がりました。
旧訳版は既に絶版となっており、長らく日本語でホラクラシーについて学ぶための文献が少ない状態が続いていましたが、今回の新訳版の出版により、また新たな学びや探求の場を作っていくこともできるのでは?とワクワクしている自分がいます。
対話会なのか、研究会なのか……どのような形になるかは未知数ですが、微力ながら私自身もこの組織運営法にリスペクトと感謝を表現する形で、知見をお届けしていくお手伝いができれば幸いです。