花火大会に命を賭ける駅員さんの話


夏が大嫌いである。

なぜなら暑い。暑いってのはもうどうしようもない。
加えてこの世で1番嫌いな雷が夏は頻発するし
2番目に嫌いな虫も大量発生する。

温暖化による気温上昇と共に年々夏の到来の憂鬱度は増していく。
なんなら前年の冬の終わり頃から、もう夏が来ることを憂いている。

こんなんじゃいけねえ。
いかにしてこの憂鬱な夏を受け入れるか。
簡単なことだ。楽しい思い出をたくさん作ればいいのだ。


ということで、8月は上旬の舞台出演以降落ち着いていたので、今年は夏の遊びを堪能することにした。

プール、山、海、お祭り、かき氷、スイカ、梨、電車、花火。

今回はそんな楽しかった思い出達の中から、花火大会の日のとある微笑ましいお話。


地元の花火大会が久しぶりに開催された。
コロナ禍以降4年ぶり。
といっても郊外なので、派手な花火大会ではない。ローカル花火大会。

例えば
Mr.Childrenの「HANABI」をBGMとして使用した花火の演出も
「〜決して捕まえることの出来ない〜♪花火のような光だとしたって〜♪」

「〜決して〜♪」
の部分で打ち上がれば決まりそうなものなのに、
「〜光だとしたって〜♪」
の部分で打ち上がって、なんでそっちやねんみたいなモヤっとさせられる、けれどもなんだか癖になる、愛くるしい花火大会。

でもいいのさ、派手でなくても。開催されることが重要なんだ。ありがとう職人さん。ありがとう行政。


待ちに待った花火大会当日、車移動は混雑が予想されたので、あたいはほんの数分の電車移動を選んだ。

難なく会場最寄駅に到着。会場まではあと少し。足取りも軽くなってきたところでふと、ある意味異様な光景が目に飛び込んでくる。


「押さないでくださーーーい!!!!」
「3列に並んでお進みくださーーーい!!!」
「Suicaは確実にタッチを!!!!!」
「モバイルスイカの方!!チャージ残高の確認を!!!!!」


駅員さんの活気溢れるアナウンス。
スムーズに人が流れるように工夫をこらし、大声を張り上げる。
人員数も尋常じゃない。普段のこの駅からは考えられない。おそらく沿線の駅員総出。


しかし。

ここはローカル花火大会の最寄会場。

ローカルなのだ。

つまり



そんなに混んでないのだ。



各セクションに門番が立つ。

「帰りの切符は今の内にご購入下さーーい!!!!購入列最後尾はこちらです!!!」

2人しか並んでいない。

「水分補給行って下さい!!熱中症対策を!!」

ありがとう。大事だね。お兄さんも水飲んでね。顔真っ赤だぞ。

「ここから先階段です!!ここから!!!お気をつけ下さい!!!」

うん。見えるよ階段。普通に見える。
でもそうだね。浴衣だと足元危ないもんね。

「Suicaは確実にタッチをおおおおぉっ!!」

いや、もう逆に緊張するわ!
今までどうやってタッチしてたかわからなくなるわ!!


ぶっちゃけ言おう。
昼間たまたま用事があって行ってきた、
通常どおりの渋谷駅の方が5倍は混んでる。

そりゃね?
この駅の普段の様子よりはもちろん人多いよ?
でも郊外の駅ってそもそも造りがデカいじゃん?余裕で人流れてますぜ。

この情熱はどこから来るんだ。
あたいらには見えてない人混みが見えてるのか?




これは帰り道も然り。

「順番に階段を上がって下さい!!!!!」

「あ!!!!!ここで一度入場制限をかけます!!!!しばらくお待ち下さい!!!」

大事ですよ。
混雑は時に事故を起こしますからね。
みんな地元民ですから、帰りも別に急いでません。ここはゆっくり待ちましょう。

「ただ今!!!入場制限中です!!!!」

階段の前で大の字に身体を広げ真っ赤な顔で立つ駅員さん。お兄さん目バッキバキやぞ。昨日ちゃんと寝たかい?

誰も隙をついて侵入などしない。
大人しく待つ地元民たち。
そして3分ほどで


「大変長らくお待たせしました!!!

ただ今より!!!

入場制限を解除します!!!!

それでは!!!!どうぞ!!!!」


ここで待機していた地元民たちからドッと笑いが起こる。みんな同じ気持ちだったのだろう。

まるで新作iPhoneかSwitchの購入列をいなす猛獣使いのように、声を張り上げて入場口を開放する。

もはやこちらも恥ずかしくなり最初の入場者の譲り合いが始まる。

お兄さんの表情は達成感に満ちている。

地元民達も笑い合いながら駅に入場する。
「お兄さんありがとう」と声を掛けながら入場する人もいる。

みんな微笑ましかったのだ。


ローカルといえど、沿線1番の夏のイベント。
4年越しの開催。
彼らの腕が鳴ったのだ。
4年間力が発揮できなかった分、この日に掛けていたのだろう。

何より、安全第一。
無事故で終わらせたかったのだろう。
たくさん会議を繰り返し、誘導の作戦、注意喚起、誘導列備品の準備を行ってきた姿が目に浮かぶ。

当日の汗水垂らしながら、声を張り上げる姿を見て、
きっと地元民みんながそんなことを想像したのだ。
だから微笑ましかったのだ。

やり過ぎだっていいじゃないか。
4年越しの一大イベント。
全員の思い出になるように、安全に。

安全なんてちょっとやり過ぎくらいでちょうどいいやないか。


ありがとうお兄さん達。

おかげで無事に花火大会終わったね。
みんな笑顔で帰って行ったよ。
Suicaもちゃんとピッて鳴ってくれたよ。

その後みんなで大成功祝いの打ち上げしましたか?誰も体調崩してないですか?


あのお兄さん達にも美しい打ち上げ花火が上がっていますように。


#結川かをる
#舞台役者
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#夏の思い出




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