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はなちゃんと過ごした日

「お母さんからバタークリームのケーキが届いたの。良かったら一緒に食べへん?」
そんなとびきり素敵なお誘いに乗って、はなちゃんの家に遊びに行った。この春上京してきたはなちゃんは、大学時代からのたいせつな友人だ。

前回会ってからそう間が空いたわけでもないのに、再会するたびうれしくて顔はでろでろにほころぶし、手を取り合って子犬のごとくくるくると回ってしまう。
はなちゃんの最高な提案に基づいて、マックのポテト(Lサイズ)とナゲット(15ピース)を買い、はなちゃんの家に向かった。
おもてはうだるような暑さ。マスクの閉塞感が拷問かと思うくらいきつい。

はなちゃんのうちに着いて、さっそくポテト&ナゲットパーティー。氷でつめたく冷やしたアールグレイもごくごく飲む。
BGMに魔女の宅急便を流してくれる。子どもの頃には気づかなかった、キキとその両親の偉大さを口々にほめたたえた。

食後、ついにバターケーキのおひろめ。
想像をはるかに超えるかわいらしいビジュアルに、すぐさまノックアウトされてしまう。4号サイズくらいのまあるいケーキは、やさしい黄色のクリームにいちめんおおわれて、上にもちいさなホイップがたくさん。
濃厚だけれどくちどけがよくて、素朴な甘さがいとおしくて、ケーキはすばらしくおいしかった。はなちゃんのお母さん、ありがとう。

食べながら、たくさんたくさん話をした。
仕事のこと、恋愛のこと、コスメのこと、スキンケアのこと、視力が落ちたこと、親知らずを抜くか迷っていること、最近みた映画のこと、好きな食べ物のこと、京都のこと、これからの人生のこと。
いつまでも話は尽きなかったし、黙りたくなれば黙ればよかった。幸福だった。

魔女の宅急便が終わったあと、テレビのドラえもんをみた。コナンもちょっとだけ見た。
そのあと、24時間テレビが始まった。もう8月も終わるねとわたしが言うと、もうすぐ年の瀬になるねとはなちゃんは言う。それは気が早すぎるやろう。

晩ごはんは何を食べようか。おすしか、お好み焼きか、沖縄料理か。
そんな選択肢だったはずなのに、食べログを眺めるうちどうしてもユッケが食べたくなって、気づけば焼き肉屋を予約していた。はなちゃんが電話をしてくれて、すぐさま準備して家を出た。

時刻は7時を回っていたけれど、外はまだまだむうっと暑い。
はなちゃんの家の近くには、飲食店やインテリアショップや、おしゃれなお店がたくさんあった。ながめながら歩くだけでも楽しい。

焼き肉屋は駅のすぐ近くにあった。
コースではなくアラカルトで頼むことにして、タン、壺漬けカルビ、肉寿司、ごはん(小)、それから念願のユッケを注文。お酒も一杯ずつだけ飲むことにした。はなちゃんは生、わたしは梅酒のソーダ割り。

どれもこれも、信じられないくらい旨かった。
ユッケを口に入れた瞬間、求めていた味に出会えた歓びで舌は踊り狂っていたし、タンは食べ放題のやつとは違って分厚くて味が濃く、肉寿司はあと50貫はいけそうなくらい上等な味わいで、カルビの脂ののりかたといったらもう、白飯が進むこと進むこと。

追加でシマチョウと豚とキムチのチヂミを注文。脂ののったシマチョウは辛味噌味が絶妙で、かりっともちっとしたチヂミは、豚バラのうまみがめちゃくちゃいい仕事をしていた。
おおむね黙りこくって真剣に肉と向き合いつつ、ときどき視線を交わしておなじ感情をたしかめながら、わたしたちはもくもくと食べた。

学生時代、3,000円の食べ放題ではちきれそうなくらい肉を詰めこんでいたわたしたちは、4,000円でアラカルトを頼み、腹9分目で満足することを覚えたみたい。
なんの理由がなくたって、ちょっと贅沢しておいしいものを食べられること。その歓びをおなじ温度で共感してくれる人がいること。なんというしあわせなことなのか。
感極まってしまい、はなちゃんいつもありがとうねと言うと、わたしは今東京に来て一番しあわせかもしれない、とはなちゃんは言ってくれた。

落ち込むこともあるけれど、わたしたちは元気です。
こういう時間がたまにあるから、働く意味を感じられる。明日からも別々の場所でがんばろう。またすぐに会おうね。

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