見出し画像

思い出すのは

昼間の暑さが嘘みたいに涼しい風が香る中を、すり抜けるようにして歩いた。
夜ごと秋が深まってゆく。

思い出す、というよりもっと自発的なもの。
考えるより先によみがえるから、その都度はっとさせられてしまう。この季節は特に。

断片的な記憶や景色、空気や温度や手ざわりなんか。うまく表現出来ないけど。


それは決まって高校時代のことだ。
高校3年間の秋と冬。


久しぶりに袖を通した合服の感触とか
河川敷の優しい夕暮れとか
真っ暗でひんやりした学校の廊下とか

ちいさな町のささやかな夜景とか、
つめたい楽器にくちびるを押し当てる瞬間
メトロノームの音が響く教室

何度もくりかえし練習したフレーズ
人いきれと暖房でむっとした舞台裏、

いちばんは、時折香る風の匂い。


住んでいる場所も、歩いている道も、髪型や服装も、考え方だってあの頃とは違う。
挙げ列ねてみれば変わったことの方が断然多いのに、また同じ季節を生きているような錯覚に陥る瞬間があるのだ。

目に見えるものがどんどん変わっていくからこそ、目に見えないものの変わらなさが際立つのかもしれない。


袖を風がすぎるは秋中、そんなことを考えた。
なんて一日。


#エッセイ #秋

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?