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失われることを考える

台風が過ぎてしばらく経った。
とはいえいまだに台風の傷跡がいたるところに残っている。
お気に入りの土手を歩いている。河川敷には池のように大きな水たまりが残り、木の枝がななめに曲がったままだ。一面しめっぽい土が緑の上に重なり、たくさんのブルドーザーが並ぶ。川沿いに建つ家の前には被災ゴミが大量に積み上げられている。白や茶や紫の蝶が飛び交い、中洲で鳥が群れで休んでいるのが見える。
今日はよく晴れていたから、折れた木に座ってぼんやりした。景色を眺めていると、言語化できない感情が塊になって静かに心に積み上がっていく。

ひとが何かを決めるとき、何を決め手にするんだろう。論理を組み立てる前の、自分の決断の合図みたいなもの。みんなそれぞれ心の中に持っている笛のような。
みぞおちがキュッとする。キュッとなって喉もとまでせりあがってくる。それが何かはわからないまま、耳をすませている。役に立たないからできることがある。金木犀がそこらじゅうで香っている。甘い香りもゆっくりみぞおちに落ちていく。満開。

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