すずらん01

泣く理由

頭がぱんぱんになって、心がぎゅうぎゅうになると、しかるべき場所に収まりきらなかった涙が仕方なくはみだしてくる。涙の理由はいつもうまく言語化できない。そもそも言語化できなくて体からはみだすので、涙がとまるのを大人しく待つしかない。心配してくれるひとにはそれらしい理由を伝えるけれど、心の中で「とはいえ実際のところなんで泣いてるのかよくわかんないんですよね」と伝わらない注釈をつける。

わたしたちはたぶん、心のどこかで、誰かに泣かれることをおそれている。言葉を使ってコミュニケーションをしているわたしたちにとって、言語化できないことは耐えがたく、理解できないまま曖昧なものとして投げ打っておくことはできない。Googleで片っ端から調べても、404しか返ってこないなんて、そんな謎が自分のいる世界にあることが、おそろしく思えてくる。

だからきっとわたしたちは部屋の暗がりで、布団の中で、お風呂の中で、人知れずしずかに泣く。宝箱を手のひらの上でそっと開けるように。

泣けるほど、つまり言葉にできないほど、大切なものが心の中にあることがどれだけいとしいか、泣くたびに思い出せるような気がする。泣くことはそれを思い出し、いつくしみ、育てるための作業だ。

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