【良書】青野慶久著「チームのことだけ、考えた。」
「質問責任」と「説明責任」
私は、サイボウズさんの「質問責任」「説明責任」という言葉が好きです。
質問責任とは、自分が気になったことを質問する責任であり、自分の理想を伝える責任であり、その結果、自分の理想が叶わなかったとしても受け入れる責任である。説明責任とは、自分が行った意思決定について説明する責任であり、他のメンバーからの質問に答える責任であり、その結果、批判があっても受け入れる責任である。
初めてこの言葉を聞いたとき「つまり、真摯にフィードバックし合う文化なのだな」、と思いました。
また、あるとき青野氏がTwitterで、「会社さんはいない。生身の人間に注目しよう」と仰っていました。
人に注目すると物事の本質に近付けるというこの言葉にハッとしました。
様々な出来事は、誰かの考えに基づいて決められ、実行されていくからです。(あるいは、決められなかったり、実行されなかったり…)
個人あるいは複数人の中で意見が割れるのも日常茶飯事ですね。
意見がまとまらず方向性が定まらない、それ自体はよくある一方で、多様性を重んじながらも大勢と方向性を分かち合える組織は、なぜそう出来ているのか。
サイボウズさんについて特にチームワークという切り口でもっと知りたいと思い、「チームのことだけ、考えた。」(2015/12/17・ダイヤモンド社)を手に取ったのでした。
「多様化」とは何かを知る一歩は、そうでない状態との対比から
本書は下記のように構成されていて、一番はじめは “革新的な働き方を実現する会社” として世の中に注目される前のエピソードです。
はじめに――社員が辞めない変な会社
目次
第1章 多様化前のこと
第2章 共通の理想を探す
第3章 会社のインフラを作る
第4章 多様性に対応した人事制度
第5章 制度を活かす風土を作る
第6章 多様化の成果
おわりに――これからのサイボウズ
第2章以降に書かれたとりくみや制度を紹介するパートだけでも、背景も説明することで他の組織でも応用できるような文章にはなっています。でも、第1章もとても重要。いわゆる「原体験」のパートだからです。
何事においても、「分かる」「出来る」まで身に付けることで評価されるけれど、根底に「分かりたい」「出来たい」という気持ちがないと、行動に移したり、行動し続けることが難しいものです。
それになにより、「道筋」が見えないとき、人はなかなか動けません。
だからこそ、「ミッションに共感して集まった1人1人が、自分らしくある組織」がある日突然誕生したわけではないことを念頭に入れて読むことに、意義があるように感じました。
多様性を受け入れるためのキーワード「公明正大」
「誠実」や「正直」ではなく、なぜ「公明正大」なのか。
この言葉に決めた経緯はぜひ本を手に取り直接読んで頂きたいのですが、青野氏は「公明正大」という言葉についてこう記していました。
公明正大とは、「公」に「明」らかになったとき、「正」しいと、「大」きな声で言えること。
「言行一致」という言葉も好きだったのですが、より本質に迫っているように感じられて、とても良い言葉だなと思うようになりました。しかも、小学校2年生までに習う漢字だけで構成されているという、シンプルさ。
何らかの理由により仕事に邁進したい人・何らかの事情により仕事以外の何かを大切にしたい人…様々な人がいるけれど、強さだけじゃなく弱さもある、という点においては多くの人に共通すると思います。
そして、何らかの悪いことは、悪気がない状態でも起きます。「良かれと思ってそうした」場合すらあります。
でも、「悪気がないから」の一言で片付いたらどんなに楽でしょう。かくいう私自身も、良かれと思って悪気なく何かしでかしているかもしれません。
「公明正大」という考え方は(そして「質問責任」「説明責任」も)、誰もが持っている弱い部分と向き合うための「道筋」としての役割を担っているように思いました。
まとめ
この本には具体的なとりくみの内容やその背景についてもたくさん書かれていますし、それらも非常に有用なものばかりですが、マインドがともかく参考になりました。
「今がよい」ことが「今のままでよい」事に繋がりはしないか心配になった。
とも述べられているとおり、チームは永遠に完成しないもの。
世の中そのものが変化することを辞めない限り、メンテナンスは常に必要で、それにはコストがかかります。
そのコストを「消費」と捉えるか、「投資」と捉えるか。
後者と考えたほうが、世の中全体の幸福度が高まるように思います。「おわりに」の今後の抱負でチームと幸福度の関係についても綴られていて、最後までマーカーをたくさん引きました。
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