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医師国家試験、ほろ酔い 第97回 月刊中山祐次郎

連日のエッセイ公開です。いつもご購読ありがとうございます。

さて今回は、私が連載させて頂いている鹿児島県のローカル紙・南日本新聞の「朝の文箱」に書いたエッセイを、許可を得て転載します。エッセイの後には裏話つき。にひひ。


朝の文箱 中山祐次郎 

転居・転職で目まぐるしい日々の中、前回は書くのを忘れておりました。読者の皆様、すみません。 

2006年10月。医学部の最終学年である6年生で、卒業試験に合格した僕はついに「あの」試験に向けて勉強し始めた。医師国家試験である。 日本で医師になるためには、日本の大学医学部を卒業し、この試験を受けて合格せねばならない。それ以外の方法は、海外の医学部を卒業し厚生労働省の試験を受けてから、やはりこの医師国家試験をパスするしかないのだ。それ以外の者が日本で医師、あるいは類似した呼び名で仕事をすると法で罰せられる。国家が認定した者以外が医業を行うことは、厳しく禁じられているのだ。 

合格率は毎年90%と知り、僕は衝撃を受けた。高すぎる、ではなく、低い、と感じたのである。全国の医学生が毎日勉強し、それでも9000人中1000人ほどが不合格となるのだ。さらには、一度不合格だった学生はまた次の年に受験できるのだが、その合格率は50%まで落ち込むということだった。つまりこれは、一度たりとも落ちてはいけない試験だ。ここまで来て、医者になれないという可能性がある。法学部を出て司法試験に合格しない人はいるし、そもそも受けない人だってたくさんいる。が、医学部を出て医師国家試験に合格しない人には会ったことがない。全国には1万人以上いるのだろうが、どんな生活をしているのかも想像できない。そう思っていた。41歳になった今は、医師国家試験に一度落ちて翌年合格した人も知っているし、受けるのをやめて別分野で活躍している人も知っている。が、当時はそんなことは思いもよらなかった。 

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