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【無料】お笑い界のラスボス兵動大樹

本当に素手で殴り合ったら誰が1番強いのか?

男の子なら一度は考えたことがあるかもしれない。
時代を超えて、今昔の格闘家やプロレスラーなどで考えてみたりするシミュレーション。
人それぞれに答えと見解がある。

マイクタイソン?ミルコクロコップ?アントニオ猪木?

そんな遊びがある。

さあ、それをお笑い界で当てはめたらどうなるだろう?『笑い』という名のリングにおいて、素手で殴り合ったら誰が1番強いのか?

兵動大樹。

関西を中心に活躍している漫才コンビ、矢野兵動のボケを担当している兵動さん。

あくまで持論だが…
武器を持たず、お笑いの筋肉だけを駆使して殴り合った時、最後まで立ち続けているのは兵動さんではないだろうか。

あくまで持論。されど持論。

これはおそらく兵動さんで間違いない。
その理由…本音で切り込みます。

その答えは、芸人兵動大樹の真骨頂が存分に見せられるライブにある。

『おしゃべり大好き』というお笑いライブだ。
シンプルに兵動さんがステージの上で90分〜120分を1人でしゃべり続けるだけのトークライブ。

これ以上はないシンプルさ。
兵動さんが持っているのはペットボトルの水のみ。
1人ステージの上で、ひたすらしゃべり続けるのだが、観たことのない人は騙されたと思って1度観てほしい。

このライブを観て笑わずにはいられないはずだ。

いつも客席は揺れている。そして、ドカドカ笑い声が響き渡る。
ここで注目すべきはウケの量ではなくウケの質。

兵動さんの話は老若男女笑える話が90%を占める。
毒の要素や人に不愉快な思いをさせる笑いは、ほぼ皆無。

そう説明すると、丸みを帯びた笑いだと勘違いをされる場合もある。
たしかに、老若男女に刺さる笑いに尖った要素は少ない。
本来なら観る人を選ぶ笑いにこそ刺激があるものだ。

しかし、兵動さんの広く刺さる笑いに丸みは帯びていない。
なのに、老若男女が腹を抱えて笑う。
これは奇跡のバランスで成立している唯一無二の笑いの形。

感度の高い場所にボールを投げ込んでいる。
感度の高さゆえ、本来なら誰もが笑えるものではない。
それなのに、誰もが笑える不思議。

これは非常に例えが難しいのだが、映画バックトゥザ・フューチャーに近いと私は持論を掲げている。

バックトゥザ・フューチャーは屈指の名作として映画史に残る作品だが、好きな映画を聞かれて「バックトゥザ・フューチャーかな」と答えると、少しナメられる空気がある。

その背景には
誰もが知る、とてつもないメジャー感。
そして、あまり映画を観ていないのでは?と推測されるほどに、多くの人が好きな映画として挙げる定番になりすぎている。
それゆえ、バックトゥザ・フューチャー好きは映画通と認定されない作品だと思われてしまうが…実際は逆に当たる。

バックトゥザ・フューチャーは、目利きの映画通から相当高い評価をされる映画だ。
実はバックトゥザ・フューチャーをバカにする人ほど恥をかく。それは映画に無知だと公言しているようなものだ。

大衆を魅了しながら目利きの人間にも刺さる。
これが兵動大樹という芸人の話芸である。

兵動さんは日常にある何気ない場面を切り取り、半径5メートルの話を、巧みな話術と職人レベルの構成力で笑いに落とし込み続ける。
聞いてる側の共感を誘いつつ、絶妙な裏切りと展開力で笑いを量産する。

話のベースは巻き込まれ型が多く、兵動さんが予期せぬ事態に巻き込まれながら抜群のテクニックと独特の表現で笑いへと変化させるパターンが多い。
綺麗にエピソードを描いてオチに向かうだけではなく、感覚にうったえかける笑いも多い。
この『感覚の共有』は実に繊細であり、観る側にも高度なレベルを要する。

感覚にうったえかける笑いは本来、観る人を選ぶ笑いである。
実際、「感覚で分かってもらいたい」という笑いを表現する芸人さんは大勢いる。

それゆえ、当然だが「好きな人は好き」「合わない人には合わない」
良い悪いの話ではなく、必然的にそういったジャンルの笑いにはなる。

しかし、兵動さんが繰り出す話は、感覚にうったえる部分さえも観る人を選ばない。
『離れ業』と言ってしまえばそれまでだが、細かく分析すれば理由はある。

その理由は兵動さんの人柄。

芸人兵動大樹の前に、お客さんは人間兵動大樹を見ている。いや、見ずにはいられない。
人間性の奥行きや、根っこにある性格。
これらは芸事の基盤にある。
しかし、この人間性の部分はステージで何かしらを表現したからといって、必ずしもお客さんに伝わるわけではない。

人間性が伝わらなくとも、芸人のパフォーマンスでお客さんは笑う。
そりゃそうだ。お客さんは芸を求めて芸人を観に来ている。
ネタのクオリティやテクニック、話術等々で人を笑わせることは可能。

"人"の部分は芸事の基盤にあっても、人間性が伝わることは笑いをとる上でマストではない。

だが、兵動大樹のおしゃべり大好きは普通のお笑いとは少し違う。

人間兵動大樹が先にあり、まず人間としての兵動さんのことが好きになってしまう。
極論だと思われるかもしれないが、人間としての兵動さんを好きになれない人は客席に皆無。

「全員が全員なんてことはないのでは?」
そう思われるかもしれないが…
全員が全員と言って過言ではない。兵動さんの場合に限っては。

人間性の素晴らしさと温かさが圧倒的。
至ってシンプルな理由。
心根の綺麗さ。
悪い人を見破れない人は多くいるが、本当に良い人は、なぜか分かる。

観ている側が人間として好きになっているベースありきで、兵動さんは感度の高い笑いを時折入れ込む。感覚にうったえる笑いを次々と放り込む。
だからこそ、何の引っ掛かりもなくスッと伝わり、自然に笑い声を生む。
なぜか観る側は兵動大樹という人間性の共有が先にできてしまうのだ。

この強さは何事にも変えがたい。

その上に、兵動さんは綿密な流れ、独特な感性を武器に、美しいまでにエピソードの放物線を描き切る。

誰もが納得せざるをえない話術と構成力。
大人も子供も関係なく、観る者は全員ステージにいる兵動さんの話の魔力に吸い込まれる。

ここまでの要素が揃って笑えないはずがない。
人間性×技術×感覚の鋭さ。

先ほど、バックトゥザ・フューチャーの例えを出したが、『好きな映画』『良い映画』の定義とよく似ている。

映画の良し悪しを決める基準は人それぞれだが、観客が物語に乗れるか乗れないかの要素は大きい。
映画のストーリーの重要さ。
それは誰もが理解できるところだが、それ以前に登場人物を好きになれるかどうかは大きな鍵になる。

特に主人公のことを好きになってしまえば、その映画は自分にとって良い映画となる可能性は高い。
逆に言えば、主人公のことを最後まで好きになれなければ、いくらストーリーには乗れても好きな映画にはならない。

おしゃべり大好きというお笑いライブは、映画を観る感覚に近い。

まず、兵動大樹という主人公に乗れるかどうか?
先述したとおり、全員が乗れる。全員が好きになる。
そして、ストーリーは絶品。語り口も描き方も別格。

まさに良い映画のお手本…
一種の感動的映画体験を笑いのステージに置き換えたのが、おしゃべり大好きなのかもしれない。

『おもしろさ』も絶品だが、それ以上に『好き』だと胸を張って言いたくなる作品。

しかし、一言で簡単に人間性の良さに惹かれると言われても、そこの基盤には何があるのか?

兵動さんは今年で50歳になる。
勝手なことは言えないが、兵動さんの芸人人生を劇的に変えたのがおしゃべり大好きなのは間違いない。

そのおしゃべり大好きをスタートさせたのは兵動さんが30代半ばの頃。
決して若いとは言えない年齢で、この1人しゃべりのライブは始まっている。

その記念すべき1回目のライブの中で兵動さんは、こんな言葉を残している。

「自分のことを好きになりたくて始めた」

自分のことを好きになるため、1人でステージに立った。
1人でしゃべる以外、仕掛けも何もない。
そこにあるのは素手で挑む、むき出しの戦い。
自分自身と徹底的に向き合い、自分自身と真剣に戦う。
兵動さんが30代の半ばで選んだのは潔さだけで形成された真っ白なリング。

誰でも理解できるが、たった1人で90分〜120分しゃべり続ける作業は尋常ではない。
逃げ場はない。誰かのフォローもない。
そんな過酷なリングで15年戦い続けてきた歴史。

陳腐な言葉になるので申し訳ないが、ここにあるのはひたすらな『努力』
報われるか報われないかは分からない不確かな未来を手繰り寄せるための血の滲むような『努力』

才能やセンスは確かに重要。
お笑いの世界は努力したからといって成功につながる保証はない。

さらに、「努力なんて人に見せるものではない。」
そんな言葉もある。

だから、お笑い芸人にとっての本当の正解など誰にも分からない。

でも

結果的に努力の足跡がうっすら見え隠れする瞬間。

結果論として見え隠れする努力の痕跡。

これ見よがしなアピールでもなく、努力が全面に出ているわけでもなく…
うっすらとボンヤリ見えるような気がする雰囲気。

兵動さんの背後に見え隠れする積み重ねてきた足跡こそが、誰にも真似できない唯一無二の人間力を作り上げる。
そして、そういった人間力もふくめて芸であり、我々は無意識のうちに心を打たれる。

何をしゃべるかではなく、誰がしゃべるか。

人の心を動かす最終形態はここにある。

兵動さんが積み上げてきた歴史。そして、生き様。

芯のブレない男が繰り出す言葉の1つ1つには魂が宿る。
兵動さんは大勢のお客さんを相手にしているが、常に1対1の姿勢を崩していない。
お客さんの1人1人に向けて、丁寧に話を紡ぎ出す。
この繊細な気持ちと行き届いたサービス精神。
それは自らの芸事と向き合う経験を積み上げ、丁寧に1つ1つのステージを構築してきた歴史が生んだ答え。

人は人生の途中に生まれ変わることができる。

兵動大樹という人間は、それをステージの上で体現している。

だから

信念を貫き通す男は最終的に勝ち残る。
みんなが倒れようとも最後まで立ち続ける。
たとえ判定勝ちだとしても、必ず最後に勝ち名乗りを受ける。

リングの上で生き残るのは

ひたすらに己と向き合い
面白いことをしゃべるためだけに
長時間命を削ってきた男だ。

我々は突如として、新型コロナウィルスという得体の知れないものと今もなお戦っている。
まだまだ何がどうなるか分からない。
未だかつて経験したことのない非常事態と直面している。

ここで言えることは、お笑いもエンタメも圧倒的に無力だという真実。
全ては余裕があってこそ。
絶望的な気持ちを抱えて楽しめるエンタメなど、この世には存在しない。

だけど…
もしも…もしも

「少しでも笑いたい」「少しでも元気に…」

そう思っている人がいるならば…

兵動大樹のおしゃべり大好きに救われる人は必ずいます。
笑えることの尊さ、美しさ。
人生はつらいことばかりじゃない。

いつもラスボスは強く優しく

そして、おもしろい。

自分のことを好きになるためのヒント。

兵動大樹のおしゃべり大好きが教えてくれます。

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