シェア
有原野分
2021年1月17日 17:11
思えば、人生は船旅に似ている。 初めて乗った船は、まるで揺りかごのように私を優しく包み込みながら、この世界へと連れてきてくれた。大きくて、優しくて、だから私は安心して目を開けることができたんだと思う。 目の前の世界は、美しかった。 ただ、不思議なことに、私はここにいるのに、目の前の世界には私がいなかった。 だから私は耳を澄ました。 どこからか、私の声が聞こえないかと。 旅は始まったば
2021年1月11日 16:51
今だから言いますが、お父さん、私はあなたが嫌いでした。 あなたはひどい父親でした。確かに戦争が始まる前のあなたは父として、一家の長として、そして私たち兄弟の遊び相手として立派だったのかもしれません。職場では慕われ、近所からは一目置かれ、なにより私たち家族から愛されていました。 戦争があなたを変えたのでしょうか。 あなたは開戦以後、極端に塞ぎ込んでしまいました。誰の言葉にも耳を貸さず、まだ幼
2021年1月5日 18:19
木枯らしの風が私の耳を痛めつける。 仕事が終わり急いで家に帰ると、ポストにハガキが入っていた。「……同窓会か」 そこには年末にみんなで集まりませんか、と簡素な文書が印刷されているだけだった。小学校の同窓会に呼ばれたのは初めてだな、と思いながら私はそれを玄関のごみ箱に捨てた。「ただいま」 今年小学生になったばかりの娘が抱きついてくる。私はこの子が愛おしくて堪らない。「ねえ、ママ、どうか