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魚は一体、どちらを向くべきなのか?〜メバルのアクアパッツァ

「無意識にこれが当たり前と思っていたけれど、ふと正反対のイメージを目にしてカルチャーショックを受け、それまでの当たり前が揺らぐこと」

海外に暮らしていると、たまにこういうことが起こる。

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これ、おとといの魚屋@マルシェの光景なのだけど、これを見て違和感を覚えるのは私だけだろうか。

私は一応三陸生まれの三陸沿岸の旅館の孫なので、生まれたときから魚という魚には親しみをもって生きてきたわけだが、

魚って普通左向いてないか???


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これは祖母開発の名物料理、どんこ汁。あー今すぐ食べたい

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大晦日の家族の料理。魚左向いてる。これにウニとかもある。あー速攻帰りたい

魚の絵文字だって、「🐟🐠🐡」
みんな左向いてるよ?


そういえば、パリ駐在していた6年前にもまったく同じことを思っていたことを今の今思い出した。その時Facebookにつぶやいていた文章と写真を引用しよう。

柑橘系の体洗うやつが欲しくて、近所の石鹸屋さんでverveineの石鹸を買うついでにあら面白いと思って魚のソープディッシュも買ってみたんだけど、お風呂につかってる間ぼーっと眺めてたらなんだか違和感。

なんだこのデジャヴ…と考えること多少、思い出したのは春先に近所のTimbre(注:レストラン)で食べた魚だった。

日本の左向き魚文化に慣れ親しんだ身としては、右向きの魚が目の前に出されるとなんだかムズムズするということか。今後この土地で右向きの魚を見る度に自分が日本人であることを実感するのだろう…。

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なぜ6年前に思っていたこの違和感が、パリに舞い戻ってきて1年経ってまた思い起こされたのかというと、先日この記事の中でベアルネーズソースを皿に敷いていたときのこと。

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この形をみて、なんだかこれ、スイミーっぽくない?と思って、検索してみたのだ。

下記画像は、出版元の好学社のリンクから。

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スイミーも右向きじゃん・・・!


スイミーの原作者はオランダ出身のレオ・レオニ。ヨーロッパの方だ。

6年前のFacebookの投稿には続きがある。

(※)何でなのか気になって眠れないので調べてみたら、一説によると、聖書の中で登場する魚が古い絵の多くでは右向きに描かれることが多かったからで、そのために魚=右向き、というイメージが刷り込まれることが多いと言われてるらしい。ふうんなるほど…寝よ。。

あーそうだったそうだった!宗教上の理由があるかもって感じだった!

あっという間に忘れる我が脳味噌。
蟹味噌のように酒の肴になればまだしも、なんの役にも立ちやしない。。

とにもかくにも、文化的宗教的相違が魚の向きとなって表れているというのは、非常に興味深い。ほかにも何となく推測で思いつく理由があるけれど、きっとこの宗教説が有力なんだろうな。

こんなことをあれやこれやとぶつぶつ考えながらマルシェをぶらついていたら、魚屋で思わずたくさん買ってしまったぞ!
ちなみに金曜はキリスト教的に魚を食べる日なので、大体どこの魚屋も混んでいる。

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つぶやきでものせたけど、トータル2000円ちょっとで購入したこれらを使って、3日に渡って最低3品は作りたいと思っている。


まず本日使うのは、真ん中の大きなメバルと左上のマテ貝を少々。
ちなみにフランスではメバルのことをSébaste(セバスト)という。なんかおしゃれっぽい?

材料一覧は、こちら。
メインはメバル一匹丸ごと使った「アクアパッツァ」だ。
前に書いた豚の塩釜焼きのように、魚さえ手に入れば「簡単なのにスゴイと言われる」一皿だと思っている。

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つぶやきクイズ、チョコチップクッキーさん、PATAさん、大正解でした!おめでとうございます。

なお、通常アクアパッツァを作る際にはアサリが欠かせないが、マテ教信者としてはアサリもマテも出汁は出る!ってことで、マテ採用。以前ボンゴレもどきに使ったあまりが冷凍で少々残っていたのだが、足りないかもと思って今回買い足した。

時短砂抜きの方法として、「50度のお湯に15分浸す」技があったので、3分の1は時短技、残りは通常どおり塩水に一晩つけて砂を吐かせることにした。

また、材料を並べているときに、明らかにうちにある鍋にはメバルが入りきらないことが早々に発覚。先日買ったばかりの新入り、ストウブのグラタン皿がまたまた活躍することに。

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まあ、これでも尻尾がはみ出すんだけど、鍋となるともう、海老反りならぬメバル反りでコマネチもびっくり、世界のARAKAWAのイナバウアーにも勝てる感じになってしまうから、よっぽどまし。
QOLのぽなちゃん的にいうと、フープロに続きグラタン皿でも私のQOLがブチ上がっている。うれしい限りだ。

Otto氏は一応ソフトなクリスチャンなので、

「アナタの宗教を尊重して、今夜は魚だから」

とメッセージをして、作業に入ることとしよう。

魚屋さんでウロコと内臓だけ取ってもらったので、何もせずに進める。内臓が入っていた部分にタイムを詰め詰め。表面全体に軽く塩胡椒と小麦粉をはたいておく。小麦粉は普段つけないが、表面がカリッとするかなと思ってトライしてみた。

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フライパンでたっぷりのオリーブオイルとともに、両面をこんがりと焼く。
わかってはいたが、フライパンにも入りきらない。

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頭と尻尾はオーブンで焼かれるがよいさ。

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胴体がこんがり焼けたら、メバルはグラタン皿にてスタンバイ。
同じフライパンでにんにくとたまねぎのみじん切り、アンチョビ2、3切れもみじん切りにして、じっくり炒める。

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トマトを加える。ミディサイズのトマトなので、2から4等分した。ミニトマトならそのままでもいいかも。

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すっかりうっかり忘れるところだったマテ貝も投入。白ワインをとぼとぼ入れて、マテがぷっくりするまでしばし待つ。

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水と追いワインを入れて、さらに3、4分ぐつぐつさせる。

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早弁ならぬ早マテ。4本くらいいった。
たまに砂利ってくるけど、まあ許容範囲。

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メバルが先にスタンバイしているグラタン皿にもりつける。
やはり私は日本人、しっくりくるのは左向きなので、今日は左向いてもらうよ!

余白部分にマテ貝たちをならべトマトを散らしてスープをかけ、タイムをのせる。

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200度のオーブンに入れて、10分から15分くらい焼く。
途中でバタートーストも投入して同時焼き。

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表面がいい感じに焼き上がったらオーブンから取り出し、オリーブとケイパーを散らしてレモンを添える。
付け合わせにバタートーストとサラダも一応添えて、完成。

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Otto氏帰宅後。
アクアパッツァっていってもわからないかなと思い、「今日はブイヤベースだよー」とホラを吹き、アペロからのいただきます。

できるだけ身の部分をきれいに取り分けて差し上げる。

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がしかし!

一切合切、手をつけない。
マテは仕方ないにしても、生魚じゃないし、食べられないはずないはずなんだけども…。

魚嫌いなの?と尋ねると、

「いや、嫌いじゃない。crostibatは好きだ」

あー、お子ちゃま大好き定番の冷凍白身魚フライのことね。
フライは何でも食べてるわ、そういえば。

私ががっくり、この世の終わり風にしていると、氏はさらになんのフォローにもなっていないひとことを。

「このトーストはコルドンブルーだ」

(コルドンブルー:料理名と由緒ある料理学校名でもあるけど、ここでは「大変よくできました」的な意味)

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冷蔵庫からいそいそとブリーチーズを持ち出して、パンに塗ったくって全部食べていた。バゲットにたまたま買ってあったエシレの有塩バターを塗って焼いてパセリをちらしただけなんだけど。

悲しきかな、このときほど、どこでもドアでだれか食べにきてくれと思ったことはない。かわいそうなセバスト、右向いても左向いてもダメなものはダメなのだな。
結局私が夜と翌日のお昼にかけて全てきれいに平らげた。

最後に、写真を反転してみよう。

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左向き

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右向き

やっぱり左向きのほうがしっくりきませんかね?🐟



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食べてもらえなくって、しょぼーん(定期)

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