救急車のサイレン
暮れに最後の食事を届けることになった同じ年の春。親しくなった老婦人のベティにその週の分を届けていつものようにおしゃべりしていた。
とつぜん近くに救急車のサイレンが鳴り響いた。
道路沿いのベティの部屋ではサイレンは会話のじゃまだ。
「速く通りすぎればいいのに。。。」そう思って、わたしはサイレンの音の消えるのを待っていた。
その時
「だいじょうぶだといいけど。。。」ベティがつぶやいた。
「だれのこと?」
ベティは両手を重ね眠っている動作をした。
ああ、救急車の中の人!
一緒に同じサイレンを聞いてるあいだ、わたしの方は「速く通りすぎればいいのに。。。」それだけ。
ベティは生死を争うたたかいをしてるだろう救急車の中の人のことに思いを馳せていた。
ベティ自身、救急車の中でそんな闘いをしたことがあったのだった。
今まで何百回も救急車のサイレンのひびきわたるのを聞いていながら、わたしは中の人のことなど一度も思ったことのないのに気がついた。
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つか子と「あの人」 (創作大賞2024応募作品) お読みくだされば大変嬉しく思います。
エピローグ:つか子と「あの人」 (つか子と「あの人」の続き)
つか子と「あの人」:プロローグ1〜6(つか子と「あの人」より)
新作品: 『みじか〜い出会い・三つの思い出』 『夫の質問:タンスの底』 『外せないお面』
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