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有斐閣の編集者が新入生におすすめする本:経営学編

こんにちは、有斐閣書籍編集第2部です。

各分野を担当する編集部員に「新入生におすすめする本」をたずねていく好評企画、今回は「経営学編」です。(経済学編政治学編社会学編心理学編もどうぞ)

内容は、こんな感じ。

1.分野のかんたんな紹介

今回は、編集部の部員1部員2に話を聞いていきます(別役実さん、先日亡くなられましたね…)。

——:経営学って、そのまま想像すると企業の経営について学ぶ、会社を経営するのに役立つ学問、みたいな印象がありますけど、実際はどうですか?

部員1:そう考えていただいて、それほど外れることはないかな、と思います。しかしみなさん「経営」という言葉でどんなことをイメージされますか? じつはこの点を確認しておいたほうがいいような気がします。「お金儲け」に近いイメージを持っている方も結構いらっしゃるんではないでしょうか?(いなかったらごめんなさい) えてして、そういう方にとっての「経営者」のイメージって…

——:悪徳サーカス団の団長みたいな。あるいは、「守銭奴」とか?

部員1:そうそう(笑)。でも、ちょっと考えてみてください。世の中これだけ多くの会社があって(日本には約386万の会社があります)、これだけ多くの人(会社に勤める人は5500万人ほどです)が一日の多くの時間人生の半分に近い期間とを会社で過ごしていて、社長が悪徳サーカス団長ばっかりだったら社会は成り立ちません(もちろん現代にもブラック企業などの問題はあるわけですが)。

——:……たしかに、言われてみればそのとおりですね。

部員1:とすると、企業を「お金儲け」という観点だけで見てしまうと、その営みを見誤るかもしれません。

——:それじゃあ、企業は何をしているのでしょう?

部員1:有斐閣も企業ですよ。何をしていますか? お金儲けしてますかね?

——:本をつくっています! お金儲けは……できて、いるんでしょうか?

部員1:ま、後者の話は読者のご想像にお任せするとして、そう、本をつくってますね。何のためにつくってますか?

——:え、うーん、そうですね。編集者によっても微妙に違うと思いますけど、著者の先生の考えをより広く世の中に伝えたいとか……学問をおもしろいって思ってもらいたいとか。

部員1:ほかには?

——:学問ってたくさんの人に知っていただく価値のあるものだと思うし、私たちの本を読んで読者の方にも喜んでいただきたいですし、さらに言ったら、そのことで社会がよくなればもっといいなと思いますし。

部員1:そんなふうに考えていたんですか。模範的な社員ですね~。

——:すみません、おもしろいことが言えず…。

部員1:でも、そうですよね。価値のあるものを世に出したいってことですよね。それを企業という仕組みが支えているわけです。また有り難いことに、私たち社員の生活もこの仕組みによって成り立っています。

——:なるほど、言ってしまえばWin-Winということでしょうか。

部員1:そう。でも、この状態を続けていくのは、なかなか骨の折れることです。もちろんタダではできません。一人では難しいことも多いでしょう。かといって悪徳団長ではないから、他人に無理強いはできません。というか、それでは続いていかないでしょう。

ではどうするか、ということを考えていく中で徐々に発展してきたのが経営学です。

——:あれあれ、最後ものすごく飛ばしましたよね?(笑) でも、なるほど。ちょっと企業とか経営、経営学のイメージが変わったかもしれません。そういうことを学べる本ってありますか?

2.予備知識なしに1冊目に読みたい本 

部員2:(急に立ち上がって)

「経営する」ということ、それは、「投資する」「所有する」ということ以上の何かなのである。そして「管理する」ということ以上の何かなのである。

——:ずっと黙っていたのに、どうしました?

部員2:かっこいいでしょ?

——:は、はい。

部員2:読んでないの? 有斐閣の本ですよ。

——:すみません。

部員2『経営の再生〔第4版〕』。ぜひお読みください。

——:は、はい! ありがとうございます!! ……ちなみに、ほかにもおすすめってあったりします?

部員2:宅急便、つかったことありますよね?

——:はい、もちろん。というか、会社でも自宅でも、毎日のようにお世話になっています。

部員2:そう。それくらい当たり前のサービスになりました。でも、言ってみればこれは郵便に近いサービスです。民間企業がこれを始めるのは大変だったんです!

——:は、はい!

部員2:このサービスの開発に尽力された小倉昌男という経営者がいます。この方の著作は、経営学の先生方も推薦図書に挙げられるくらい、名著と言われています。

最も有名な本は、その名もズバリ『小倉昌男 経営学』(日経BP)といいます。まさにこれまで述べてきたような「経営」を実践した方の貴重な証言です。

——:へええええ、全然知らなかったです。

部員2経営学は、実務と付かず離れず発展してきました。経営学の対象となる実践、それも新しい実践を編み出すのは、いつも実務家です。経営の実際を、大学での学びと関係のないものと思わないでいただきたいですね。また、実際の経営を眺めるとき、経営学を学んでいると、きっと学ぶ前より多くのことに気がつくと思います。

——:そういう意味では、新入生はもちろん、新入社員の方にもおすすめできるかもしれませんね。

部員1:小倉氏は、後年、障害者福祉事業に取り組みました。そのことも本に著されています(『福祉を変える経営』)。

障害者福祉は「お金儲け」とは最もかけ離れたイメージの分野かもしれません。でも、そういう領域できちんと(正当な)「お金儲け」ができないことが、どういう結果につながっていたでしょうか。現実を目の当たりにした小倉氏は、障害があっても働いて自律した生活をしていかれる仕組みづくりに取り組まれました。経営者がなすべきこととは何か、経営ということの意義と可能性が感じられて感動的です。

3.おすすめをもう1冊 

——:悪徳サーカス団からだいぶん遠くに来ました。もう1冊くらい挙げていただけますか?

部員1:さっき「有斐閣は本をつくっています」とおっしゃいましたね。それをするために、どんなことをどんなふうに考えなければならないでしょうか? そんなときにおすすめなのが『わかりやすいマーケティング戦略』です。本当に大切な要素が、きわめてロジカルに説明されているので、いろんな場面に応用できると思います。

部員2:私が入社した頃の「書籍編集第2部 編集マニュアル」の冒頭には、「このマニュアルを読むくらいならこれを読め」という添え書きとともに、この本が挙げられていました(じゃあ何でマニュアルつくったんでしょう? 笑)。本づくりもビジネスです。熱い思いだけでは難しいこともあります。熱い思いを形にするために、経営学の知識が役に立ったら、それはとっても素敵なことだと思っています。

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