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編集者が、メディア運営でなく「事業」の持続発展に貢献できるようになると、オウンドメディアはもっと進化すると思う

「企業のメディア化」が進む中、編集者の役割は?

企業が主体となって運営する「オウンドメディア」の立ち上げがここ数年活況を呈していましたが、2018年末〜2019年にかけて、オウンドメディア閉鎖のニュースを目にすることも増えてきました。中には、そのコンテンツの質の高さから多くのファンを獲得していたり、誰もがよく知る有名企業によるオウンドメディアの名も散見され、潮目の変化を感じます。

オウンドメディアは、それぞれの目的に応じて、プラットフォームの選定やコンテンツの方針、運用体制、目標管理などを行っていく必要があります。社内外から情報発信を担当する編集者は、目的を整理した上で、メディアの設計をしなければいけません。

企業が運営するメディアである以上、オウンドメディア運営が持続するためには、投じられたコストに見合うだけの成果が問われます。企業の担当者、パートナーとして伴走した制作会社や、プロジェクトにかかわるフリーランスのライター・編集者・デザイナー等、少なくない人数とコストを必要とするオウンドメディアに対して、ある種の「ブーム」が去ったこれからは、「評価」の目も次第に厳しくなっていくでしょう。

一方で社会における「メディア」の役割を考えると、情報空間における知の媒介者として、読者が必要とする情報を届け続けること、読者の知る権利が損なわれないように、メディアとコンテンツを持続させていくことの責任は、決して小さくないと言えます。

良質なコンテンツを作り、届けるとともに、企業経営上の目的にも合致する成果を出し続けること。メディアの立ち上げからチーム運営の過程で、企業と制作チームが同じ目標に向かって対話し、議論し、協働し、予算や成果に対しての共通認識を持つためのコミュニケーションを仲介すること。

これからのメディア・コンテンツ領域には、コンテンツの企画・制作に留まらず、メディアの持続可能性に対して責任を持ち、企業と共に戦略づくりやプロジェクトマネジメントを担えるような「新しい編集者」が求められているのかもしれません。

…そんな問いのもと、編集ファーム「inquire」主催のイベント「オウンドメディア『ブーム』終焉と、編集者たちの『その後』のキャリア」を9月2日に開催しました。

オウンドメディア閉鎖など業界の表層で目立っているニュースだけを見ると、ブームは終わったのではないか、編集者やライターの仕事が減っていくのではないか、など不安が先立ってしまうかもしれません。

しかし、「オウンドメディア」という形態かどうかはさておき、企業が情報発信の主体となり、「メディア化」していく傾向自体は、今後も続いていくと考えられます。

編集者・ライターは、悲観するのではなくむしろこの流れをチャンスと捉え、自分たちの持つ企画や編集力を、企業主体の情報発信においてどう生かしていくことができるかを模索していくと良いのではないかと思います。

僕自身も、所属企業であるLITALICOでインターネットサービスが新規事業として立ち上がった際に、個人でのライターとしての経験も生かしながら、編集長として編集部組織の立ち上げやマネタイズなど、新しい挑戦をさせてもらいました。

上記9月2日のイベントでは、主にLITALICO発達ナビの立ち上げから収益化までのプロセスを事例として紹介しながら、編集者としてのキャリアの中で意識してきたことをお話しました。このnoteでも、概要を書き記しておきたいと思います。

「コンテンツを作る」ではなく「事業を運営する」という視点を編集者が持つこと

LITALICO発達ナビは、2016年1月にリリースをした、発達が気になるお子さんのいる保護者の方々を主なユーザーとするポータルサイトです。

発達障害やその支援に関する情報、さまざまな家庭の体験談や専門家のアドバイス等を届けるメディアとしての機能、会員登録したユーザー同士が相談・交流出来るコミュニティとしての機能、発達が気になる子どもが通える福祉施設をはじめとする全国の社会資源の検索サービス等を提供しています。

僕は立ち上げ初年度から同事業に参画し、編集長としてユーザー向けの情報発信・コミュニティ運営に関するコンテンツの企画・制作や編集部組織の立ち上げ・運営等を担いました。

2年目には、収益化の手段の一つとして、企業や自治体とのアライアンス案件の立ち上げに挑戦し、3年目ではそれがグループ化、企業アライアンスグループ(いわゆる企業営業部門)のマネージャーを兼務するようになりました。現在では編集長・企業アライアンスマネージャーともに、それぞれ頼もしい後任に引き継いでいます。

僕が担当した部門だけでなく、全国の福祉施設の方々にパートナーとなっていただき、発達ナビでの情報掲載をしてもらったり、LITALICOのノウハウを生かした教材・研修サービスや運営支援システムなどを提供する、福祉施設向けのチームが複数あり(パートナリング・カスタマーサクセス・サービス企画・開発etc.)、事業モデルの全体像としては以下のようなイメージです。

LITALICO発達ナビは、運営企業であるLITALICOの採用やブランディングを主たる目的としておらず、それ自体がひとつの事業部として、ユーザーへの価値提供と持続可能な収益化を行っているため、いわゆる企業のコーポレート部門が運営する「オウンドメディア」としてイメージされるものとは、その性質が異なるかもしれません。

先日9月2日のイベントのinquire代表のモリジュンヤ登壇パートでの分類に則ると、「コマーシャルメディア」の位置付けに近いと思います。

相違点としては、「メディア」という枠にとどまらず、会員向けポータルサイト、児童福祉業界のプラットフォームとしての機能を持っているところでしょう。

立ち上げ一年目は、編集部の組織づくり(採用から育成まで)、コンテンツ制作のための仕組みづくり(企画〜制作のフロー、編集ポリシーや制作マニュアル)、コンテンツを届けるためのチャネル構築(SEO, SNS, メルマガ)、CS対応チームの立ち上げなどなど、実に色々色々やりました…笑 

それまでも個人としてライターの仕事をしていたので、自分自身でコンテンツを作ることは経験してきましたが、「サービスを作る」となると、見る視点が変わっていきます。1ライター側から見ると、コンテンツ制作を受注して、取材して、書いて、公開して終わり、になってしまいますが、「持続的にサービスを運営する」という運営者の立場になるからです。編集者やライターだけでなく、WEBマーケ、開発、事業企画、さまざまな専門性を持ったメンバーと協働していくことになります。

サービスを通してユーザーに届けたい価値は何か、それを実現する方法は何か。
どんなコンテンツを、どうやって作って、どう届けて、どんな指標がどうなったら「良い」と言えるのか。

自分たちで「価値」を定義していくところからサービスに関われたことは、「メディアをつくる」ではなく「事業をつくる」という観点を身につけられたのは、編集者として良い経験だったと思います。

その流れで、収益化のプロセスにも関わることになりました。すべての編集者がここまで担わなくても良いと思いますが、編集・ライターをやる人も、こういうモデルを頭に入れておくだけで、仕事のやりやすさも変わっていくと思うので、簡単にご紹介します。

メディアやポータルサイトのマネタイズ方法は多々ありますが、発達ナビでは会員さんに直接課金するBtoCのモデルではなく、上述の通り企業や福祉施設向けのサービスを通して収益を得ています。

BtoBのモデルが成り立つためには、ユーザーへの提供価値とクライアントへの提供価値が一致する、少なくとも矛盾しない方法を確立する必要があります。

発達ナビは、発達障害というテーマを扱い、子育てに悩みや困りごとの大きい方々がユーザーとして集まるポータルサイトです。そんなところに、子育てや発達支援と全く関係のない商品やサービスを押し売りしたり、人の不安をコンプレックスを煽るような広告を流せば、ユーザーも安心してサイトを使うことができませんし、広告としても効果が出ず、企業のブランディングも毀損してしまいます。

子どもの発達をサポートする企画、子育ての悩みや困りごとに応えられる企画である必要がある。しかし、発達障害に特化した商品やサービスというのは、世の中にはまだまだ少ない(それだけで収益化するのは困難)。

そこで、「広告を出してくれる企業を探す」のではなく「一緒に発達障害を取り巻く課題解決をする仲間を探す」という発想に立ちきました。

ユーザーにどんな困りごとやニーズがあって、その企業のサービスや商品を(それが一般向けだったとしても)こんなふうに活用することで、それを解消することが出来る。広告"枠"ではなくユーザーの"ニーズ"を起点に企画提案していきました。企画の形式もスポンサードコラム(いわゆる記事広告)に限定せず、イベントや商品開発、調査研究、企業向け研修など、柔軟に幅広く。

結果として、素晴らしいクライアントさんと課題解決につながる企画を数多く実現することができましたが、ここでも、サービスユーザーと向き合い、そのニーズを日々考えてきた「編集者」としての経験や視点が生かされたと感じます。「営業する」という感覚はほとんどなく、ユーザーと企業の間にたって企画を「編集」していたように思います。


編集者として企業のメディア運営に関わるなかで、意識してきたこと

3年間、企業の中でメディア運営に関わるなかでの自分の動きを振り返ってみると、以下のようなことを大事にしていたように思います。

・常にビジョンや事業コンセプトから考える
・事業におけるメディアの位置付けと運営ポリシーを整理する
・ポリシーと合致する、採用&組織化、収益化方法を考える
・(収益化も含めて)メディアの持続可能性に対する責任を持つ
・事業フェーズごとの注力指標と、その意味を言語化して伝え続けること

「企業のメディア化」が進んでいくなかで、これからの編集者は、関わるメディアごとの運営上の目的や指標を理解していくこと、個別のコンテンツの企画だけでなく、情報の「流れ」や「文脈」全体をつくることを意識していけると良いのではないかと思います。

メディアとしての倫理やポリシーと、収益性・持続性をどう両立させるのかというのは、難しいチャレンジではありますが、個人的にはとてもやりがいのある仕事でした。

いろいろ告知

そんなこんなで、自分の経験で何かお役に立てることがあるだろうと、最近関わるようになった編集ファームが「inquire」です。

ビジネス文脈の中で活躍できる編集者・ライターは、僕が働いていたLITALICOに限らず、いろんなところで求められています。

というわけで絶賛採用活動中です。

事業開発や組織づくり、カウンセリングやコーチング、カルチャー醸成など。これまで編集の範疇外と捉えられてきた領域に「編集」の力を応用していくプロジェクト多数。

社会課題に向き合い、編集者の市場価値を上げることで、社会的な価値創出を目指しています。

編集者・ライター絶賛採用活動中です。

エントリーお待ちしてまーす!

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9月末には編集者のキャリアについて考えるイベントも開催します!会場チケットは売り切れましたが、無料のオンライン鑑賞券があります。


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文筆家/インターミディエイター® 閒-あわい-を掬って書いたり編んだりしています。 LITALICO 社長室チーフ・エディター/ウェブマガジン「アパートメント」管理人/NPO法人「soar」理事
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