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遠くへ行くならみんなでーsoarが非営利・寄付会員モデルのメディア運営で「情報のセーフティネット」を目指す理由

NPO法人soar理事の鈴木悠平です。

「人の可能性が広がる瞬間を捉える」ウェブメディア「soar」の運営を中心に、さまざまな困難に直面した人たちの回復の物語や、困難のある人と支援をする人をつなげる活動を行っています。

現在、「情報のセーフティネット」化を目指したサイトリニューアルのためのクラウドファンディングを実施中です。

この記事では、soarがなぜ寄付モデルでメディア運営をするのか、今回のリニューアルの目的や意味はなにか 理事のひとりである私からお話します。

はじめに、私自身のバックグラウンドについて

まずはじめに、この記事を書いており、soarの理事を務めるわたしのバックグラウンドについて簡単にお話します。

soarの理事を務めておりますが、soar専業ではなく、株式会社LITALICOにも務めており、この4月からは社長室に所属しています。

これまで足掛け3年、発達障害ポータルサイトの「LITALICO発達ナビ」の編集長を務め、メディアの立ち上げと運営、サービスのマネタイズ、コンテンツ制作等いろいろな仕事をやっていきました。

文筆家として、主にインタビュー記事の執筆も長くやっており、soarでも記事を執筆することがあります(本記事の末尾に記載しました)。こうした自分自身の業務経験も踏まえて、soarでは理事としての団体全体の運営に関する意思決定の他、ウェブメディア「soar」の編集部チームのサポートを担っています。

ウェブメディアのビジネスモデルの種類と、その影響

仕事柄、ウェブメディア・ウェブサービスの事業運営やマネタイズのさまざまなビジネスモデルにも触れてきており、種々の選択肢のメリット・デメリットも踏まえながらも、soarが扱うテーマに関しては寄付会員モデルがベストだと、私は考えています。

ビジネスモデルの選択は、自分たちがどの経済圏に属するかの選択であり、お金を出してくれる人たちと、どんな期待と応答の関係性を結ぶかの選択です。

メディア運営のビジネスモデルを大きくわけると、広告等の企業収入を基盤とするBtoBモデル、有料購読会員やECによるユーザー直接課金のBtoCモデルの2つの方向性があります(更に細分化も可能ですが本記事においてはまとめます)。

これに加えて、BtoCの色合いも一定持ちつつ、純粋な商品購読ではなく活動への応援という意味合いでの寄付会員モデルがあります。

本記事では、メディア運営のビジネスモデルをかなり大雑把ですが比較・説明し、soarが寄付会員モデルを選択した理由をお伝えできればと思います。


1. 企業等からの売上を原資とするBtoBモデル

そのメディアに来ている読者の属性やニーズに合った商品やサービスを持っている企業に、広告出稿してもらい、読者に価値を届けつつ、企業のマーケティングメリットにも資する形でマネタイズするという、いわゆる「広告モデル」です。

実際には企業とユーザーの間に立って価値を創出する方法は広告出稿だけでなく、ユーザーを対象にした調査(アンケート、インタビュー、商品のモニター利用)や新たなサービスの研究開発といった形で案件を企画・受注することもあります。

また、メディア自体が持っているノウハウをいかして、編プロ的に制作・編集案件を受託したり、編集力を生かして研修やテキスト制作などを請け負ったりと、メディア上での広告掲載とは別のところでマネタイズする、という手段もありますが、今回は割愛します。

さてみなさんは、「広告」と聞いて何をイメージするでしょうか。質の高いクリエイティブを通して企業から社会に対するメッセージ性が強く表現された、話題のTV CMや駅広告でしょうか。スマホで記事を開く際に画面上に、画面脇に、記事末尾に表示されるバナー広告でしょうか。企業スポンサードであることが明記された、読み物形式の記事広告でしょうか。

「広告」というものに対して、ポジティブなイメージを持っている方も、ネガティブなイメージを持っている方もおられるでしょう。

私は、広告モデルそれ自体で良い悪いとは考えておらず、読者・企業・メディア3者のメリットが重なるところで企画を立てることができれば、比較的大きな規模のお金を動かすことができる、インパクトを出しやすいというメリットのあるモデルだと感じています。

しかしそれゆえに、「企業」のメリットを無視しては制作・マネタイズができないという制約はあります。

3者のメリットが重ならない領域では、企業がお金を出す理由をつくれない、あるいはあったとしても非常に小さい額の案件や、少ない数のスポンサー企業のみが実現可能となってしまい、メディア運営全体をまかなう収益をつくるのが難しくなります。

結果、マネタイズしやすい領域ーユーザー母数が非常に大きかったり、ユーザーニーズに訴求しやすかったりする領域に、メディアが扱うテーマやコンテンツを絞りこんでいく力学が働きやすくなります。企業からお金を取りやすいかどうかにメディア運営が大きく影響されるのが、このモデルのデメリットと言えます。

メディア運営者がやりたいことと、届けたいユーザー像、企業メリットが重なるところをつくれる領域であれば良いけれど、そうでないところではこのモデルを取ることが難しい。

これは「社会的マイノリティ」に関するメディアやサービス運営に際しても同じです。

うつ病などの精神疾患、ADHDなどの発達障害、LGBTなどの性的マイノリティのように、そのカテゴリーに該当する当事者の数が一定規模あり、またそうした方々に向けたサービスや商品をつくろうと思う企業が出てきている(つまりそこに"市場"ができつつある)テーマの場合は、BtoBモデルでも一定成り立たせることができます。

しかし、それ以外の難病等の希少疾患や、まだ医学的に疾患概念が確立していないなどの「名前のない生きづらさ」のある方を中心とする場合、企業広告を中心とするBtoBモデルは、非常に難しいです。

soarでは、疾患や障害等の人数規模によらず、さまざまな困難に直面している方へのあまねく情報提供をしていきたいと考えています。そのため、規模の原理や企業メリットに左右されやすいBtoBモデルでのメディア運営は、soarの目的や目指す方向性、届けたい読者の方々のことを考えると、相性が悪いという結論になります。

2. ユーザーへの直接課金を原資とするBtoCモデル

次の選択肢は、受益者負担のBtoCモデル。ほしい人が、ほしいものを買う、というシンプルなモデルです。

新聞等の報道メディアが有料会員限定記事を配信しているのを購読している方、購読はしていないけど見たことがある方はおられると思いますが、ああいった形ですね。

紙幅の関係でまとめてしまいますが、他にもECサイトとして、商品を販売する(そのための導線としてメディアを持ってコンテンツを制作する)というかたちもあります。

※なにか1つだけの手段ではなく、先述BtoBモデルも含めて、さまざまな手段で多角的マネタイズをしている事業も少なくありません。

さて、このBtoCモデルは一見良さそうに見えます。ユーザー満足度を追求し、その対価としてお金をもらう。エンゲージメントの高いユーザーコミュニティをつくりやすいので、メディア運営する側も、商品やコンテンツに対するユーザーからのフィードバックを得やすいというメリットがあります。

一方でデメリットもあります。会員登録数と単価、そして継続率が命となるため、コアなユーザーに向けたコンテンツ制作が優先となり、ある種の熱狂的なファンをつくっていく必要があるため、サービスが「内向き化」しやすいベクトルが働きます(もちろん、外にも一定開きながら、うまくバランスをとってやるための方法はいろいろあるのですが)。

soarの目的や扱うテーマの特徴を鑑みると、このBtoCモデルも難しいところがあります。理由は大きく2つです。

情報のセーフティネットを目指すsoarでは、いつでもどこでも誰でも、必要なときにその人にあった情報に出会える場所をつくりたいと思っています。そのため、有料購読モデルで有料会員限定の記事をつくる、という方向性はとりたくなく、あらゆる記事をオープンにしています(寄付会員であろうとなかろうと、すべての記事を見ていただけます)。これが理由の1つめです。

もう1つの理由は、社会的マイノリティの当事者である方々に対して、直接お金をいただいて事業を行うことの難しさです。社会課題領域で事業をやったことのある人なら共感してもらえると思いますが、サポートしたい、コンテンツやサービスを届けたいと思っているユーザーの方々が、いままさに経済的に困難な状況にあることも少なくありません。そのため、受益者負担を前提としてメディアやサービス運営のための収入を確保することは難しいことが多いです(特に月額何千円、一万円などの高価なプランはなおさら)。

soarが選んだ寄付収入モデルについて次章で解説しますが、soarは、現在多くの方に寄付会員として活動を支えてもらっています。

さまざまな立場・境遇の方が登録してくれていますが、自分が実際に障害や疾患の当事者であり、なかにはまだ仕事で十分な収入を得られていない状況にある方もおられます。「生活は厳しいですが少しでもサポートしたい」と言ってくださって寄付会員登録してくださる方、「これからも応援していますが、経済的事情から一度登録解除させてください。余裕ができたらまた…」とご連絡くださる方。お一人お一人の気持ちがありがたく、頭が下がる思いです。みなさん、どうか無理のない範囲で…と思いながら、よりサポーターの数を広げていき、全体としてセーフティネットを安定化させていかねばという思いを強くします。

3. 運営を「みんなで支える」寄付会員モデル

さて最後に、soarが選択した寄付会員による支援を前提としたメディア運営モデルです。

上記のBtoC直接課金モデルと似ているように見えますが、やはり本質的には異なります。

もちろん、寄付会員のみなさまへの活動報告・収支報告といった形での報告義務はありますし、託していただいたお金を正しく使い、事業を成長させていく責任はあります。

ただ、基本的には寄付会員モデルは、活動の趣旨に賛同してくださった会員さんから運営団体へ、自らのお金を「託して」いただくモデルです。有料購読してくれたユーザーに直接価値を返していくのではなく、託していただいたお金の使途は我々の判断に任されています。

寄付を原資に、記事をつくったり、より多くの人に届けるためのマーケティング施策を打ったり、企画・制作力を高めるためのスタッフの採用や育成を行ったりetc. さまざまな用途に使わせていただくことができます。

もちろん、私たちの活動は、寄付をしてくださった方に対しても希望や可能性を届けるものでありたいと思っていますが、一対一対応ではなく、寄付してくれた人を「含めて」広く社会全体に還元していく活動だと考えています。

有料購読会員との最大の違いは、情報のセーフティネットという、社会の「みんな」が利用できる場をつくるsoarの活動を、「みんな」に支えてもらっているという、その裾野、仲間の輪の広がり方です。

アフリカのことわざに「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」というものがあると聞きましたが、寄付会員モデルはまさに「みんなで遠くに行く」ためのモデルです。

短期的な収入づくりのスピードや規模でいえば、上述した他のモデルの方が寄付会員モデルより強いのは事実です。直接的には受益しない方に寄付会員になっていただくためには、時間をかけて、粘り強くコミュニケーションをしていく必要があるからです。

しかし、だからこそ他のモデルのデメリットを超えて、まっすぐにビジョンに向かって進んでいくことができる、そのためにベストなお金の集め方・使い方をすることができるモデルだと思います。

クラウドファンディングは4/25まで。最後まで応援よろしくお願いします

長くなってしまいましたが、クラウドファンディングも終了間近というタイミングですので、改めて詳細に、soarの事業モデルをお話し、その上で今回のリニューアルのタイミングについても説明したいと思い、筆を取りました。

「情報のセーフティネット」化に向けた、サイトの大幅リニューアルのためのクラウドファンディング@GoodMorningは、4/25まで実施中です。

4/20(土)に当初掲げた目標の800万円を達成し、残り4日間、ネクストゴールの1,000万円に挑戦しています。

今回のリニューアルの主眼は3つ

1) 病名や症状名、立場、悩みや感情で記事を探せる「検索機能」の実装
2) より美しく、記事に集中できるデザインへの改善
3) 視覚や色覚、上肢機能に特性のある方をはじめ、障害のある方にも利用しやすいアクセシビリティ対応の強化

個人的に特に思い入れがあるのは、3)のウェブアクセシビリティ対応です。

現在もリニューアルチームで議論・検討を進めていますが、具体的には以下のような方向性での対応を強化していく予定です。

①デザインや情報設計の大幅な見直しによる使い勝手の向上

②色覚異常や視覚障害のある人にも優しい色使いや文字サイズの検討と反映

③視覚障害のある人のための、画面読み上げソフト対応(一部除く)

④運動障害や上肢不自由、また、それと同等の状況に置かれる人のために、様々な方法(マウス・キーボード・タッチ)において操作可能な環境の準備についての検討と反映

⑤認知・言語・学習障害、また、それと同等の状況に置かれる人のために、学習しやすく理解やすい情報設計を検討と反映

これらの、特性のある方に対するアクセシビリティ対応は、今日のnoteで紹介してきた他のビジネスモデルでは、開発優先順位としてどうしても後回しにされがちです。なぜなら、企業や購読会員などの事業に対する「顧客」全体の割合からすると、障害があり、アクセシビリティ対応を強く必要としている人はどうしてもマイノリティとなり、そうした人々への情報保障より、その他の事業収益上のインパクトが大きいことへの施策を優先してしまう力学が、どうしてもビジネスモデル上発生するからです。

ですが、必要なときに必要な情報にアクセスできるという「情報保障」は、等しくすべての人に保障されるべき「人権」の問題として、非常に重要で、優先対応すべき課題だと私たちは考えています。

ありがたいことに、soarでは現在600名以上の方が寄付会員となってくださっており、日々の定常的な活動ーコンスタントな記事の制作費やスタッフ人件費等をまかなうための収入基盤が、みなさんのおかげで少しずつ安定していきています。

一方で、今回のような短期的に大きな資金が必要となるサイトリニューアルや、soarをより力強く成長していくさまざま投資(スタッフの雇用や新規事業の立ち上げ)をする余裕は、まだまだないのが団体の財政事情です。

現状のサイトデザインと機能の中でも、じわりじわりと寄付会員となってくれる方の人数を増やしながら収入基盤を強化していくこと、そのなかでいずれサイトリニューアルに取り掛かることは、長い目でみればできなくはないと言えますが、そこまで待っていては、あまりに時間がかかってしまいます。

「みんなで遠くへ」じっくり進むことができる寄付会員モデルを中心に運営していくことはこれからも変わりません。しかし、ここらで一度立ち止まって現在ある構造的・技術的課題を解消していくことも、「遠くへ」進むために必要なことだと考えました。

リニューアルを通して新しくなったsoarのサイトを通して、目指す世界観を広く伝え届けていき、困っている人たちへの価値提供とその範囲を、より早く、より大きくしていきたい。

それが、今このタイミングで、継続的な寄付会員募集とは別に単発のプロジェクトファンディングを行う理由です。

年内にリニューアルを完遂させるスケジュールで、クラウドファンディングと平行してリニューアルプロジェクトも進行中です。

800万の予算を組んでファンディングを開始しましたが、実はこれでもけっこうカツカツなところはあり、ネクストゴールに向けての上乗せ支援は、本当にとってもありがたいのです。残り5日、1000万目標もなんとしても達成したいので、ぜひサポートをお願いします。


最後に

私がsoarで書いた記事と、他のライターさんが書いてくれた、私が出演した対談やイベントのレポート記事を紹介します。

どれも思い入れの深い記事ばかりです。こういう人が、こういう思いで、こういう世界をつくろうとしているんだな、と知っていただくための情報として、ご覧いただければ幸いです。
(クラウドファンディングの寄付リターンのなかに私がインタビューするプランもございます)




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文筆家/インターミディエイター® 閒-あわい-を掬って書いたり編んだりしています。 LITALICO 社長室チーフ・エディター/ウェブマガジン「アパートメント」管理人/NPO法人「soar」理事
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