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今日も来てくれてありがとう、の気持ちを込めて


《紅茶で始まり紅茶で終わる、いつもの平日》
朝9時過ぎ、まだ人がまばらなオフィスの一角で黙々とお湯を沸かし続ける。沸かすお湯の量はおおよそ4〜5リットル。蛇口とポットの間を行ったり来たり、スタッフ13名がその日の仕事中に飲む紅茶の準備を進める。

熱々の紅茶を飲みたい人にはそのままマグに注ぎ、飲みたい時に飲む人用には保温ポットを3本分用意する。業務終了時刻が近くなる午後18時頃には、殆どのポットの中身が空になり、それを片付けると私の一日も終わる。
今日もみんな一日頑張ってくれてありがとうね、と思いながら。

スタッフが使うマグカップは自社で扱っているものが多い。
マグによって段々使う人が決まってくるから面白い。
ポットは起業するだいぶ前に購入したドイツ製のものを今でも愛用している。


《ごめんね、うちの会社には給茶機もなくて》
日本中からこだわり抜いて選んだ伝統工芸品を販売するサイト「日本デザインストア」。日本の好いものご紹介したいという想いの元、私たちの会社は2014年からサイトを運営している。
この4年間、経営のイロハもネット通販の右も左も分からない私を、学校の先輩後輩や同級生、またその友達や同僚、スタッフと沢山の人が支えてくれたお陰で今がある、とても人間味に溢れた会社だ。

会社の所在地は愛知県岡崎市。田んぼと住宅地に囲まれたこの会社には徒歩圏内に自動販売機もコンビニもない。正直、潤沢な資金があって起業した訳でないのでお金がない中でのスタートだった。単価の高い商品を仕入れたり、パソコンやエアコンを買ったり、新しいスタッフを採用するのに精一杯で、給茶機を用意する余裕など創業期にはなかった。
入社を決めてくれたスタッフに「ごめんね、うちの会社には給茶機もなくて」と伝えると、各々通勤途中に購入したペットボトルのお茶を持ってくるようになった。


《何かしたいけど、何もできない
創業して3年程経つと、創業当時自分でやっていた細かな仕事はスタッフがきちんと進めてくれるし、更にもう自分では把握できないような専門性の高い仕事内容も多々出てきた。会社の方針を決めるのが自分の役割であるものの、トラブルが起きたりITの専門性を要求される場面では全く役に立たない状態。そんな時に労いの言葉しかかけられない自分は”何かしたいけど何もできない人”である。

創業当時は一人暮らしのスタッフも多く、何もできないなりに、温かいもので少しでも栄養を摂ってもらえたらとお昼に具沢山のお味噌汁を作っていた。
しかしスタッフが8.9名を超えたぐらいで作るのが大変になり、また同時期に出張で不在にすることも多くなったためお味噌汁は無念の思いで無くしてしまった。


《珈琲があるなら紅茶も用意しよう》
一番最初のきっかけは、珈琲好きのスタッフが自宅用のコーヒーマシンを会社に持ち込み、朝の1杯をみんなに提供し始めてくれたことだった。出勤するやいなや「あぁ〜いい香りですね!」とうれしそうに珈琲を飲むスタッフの姿を見て、私も嬉しくなった。しかし一度に淹れられる7,8人分の珈琲はあっという間に終わってしまうし、珈琲を飲まないスタッフもいた。「珈琲があるなら紅茶も用意しようかな」という軽い気持ちで、その日から毎朝、珈琲と同時に紅茶も用意をするようになった。

紅茶の茶葉はスタッフの海外土産や頂き物が殆ど。日替わりで異なるフレーバーを選ぶ。この時期はバニラやキャラメル風味の甘い香りの紅茶が人気なよう。


《「今日も来てくれてありがとう」の気持ちを込めて》
毎朝紅茶を用意するようになって2年近く経つ。実務作業を離れ、お味噌汁担当も無くなり、私がスタッフにできることは毎朝紅茶を用意することだけになった。
経営者は経営だけをやっていれば一番というご意見もあるだろうが、やはり何かをしていたい。どうして経営以外に何かをしたいのかと問えば、今ここに一緒にいてくれることへの感謝の気持ちを、雇用や給与という形式ばったもの以外で表したいと思っているからだと思う。

夢と希望だけを持った名もなき小さな会社を勤め先として選んでくれたスタッフには、本当は毎朝「今日も来てくれてありがとう」と言って迎え、「今日も夢の実現をサポートしてくれてありがとう」と言って送りたい。しかし、それはちょっと恥ずかしいし、なんだか重い(笑)
だからせめて、みんなが今日も一日元気に楽しく過ごせますようにと願いを込めながら、せっせとお湯を沸かして紅茶を用意をする。夕方ポットが空っぽになって返ってこれば、この平和な毎日をずっと続けられますようにと強く思う。

私にとって紅茶のある風景は、"みんなが今日も元気に働いている風景"。
毎朝の紅茶は何らかの理由で続けられなくなる限り、ずっと作り続けるつもりだ。


《弊社スタッフの皆様へ》
気持ちはこもっていますがお茶はお茶なので今まで通りゴクゴク飲んでください。
飲み物のリクエストがあれば、随時遠慮なく声をかけてください。


今年新しく取り扱いを始めた国産紅茶。お客様やスタッフからの評判も上々です。
日本製の伝統工芸品やモダンな手仕事品を紹介しております。
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