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somunia - インターネットの中、何処かにある部屋で歌うということ

VTuber・somunia の YouTube チャンネルに投稿された最新動画『君に、胸キュン。』のカバーはもうチェックされただろうか?まだという人は幸いである。これから聴くことが出来るのだから。

" Internet Girl " somunia は " インターネットの中、何処かにある部屋で 歌っている " 少女。

今回公開された動画は " 仲良しのおともだちと一緒に歌 " ったということでヨシナをとはの 2 人と YMOYellow Magic Orchestra)による往年の名曲『君に、胸キュン。』をチップチューンアレンジに乗せて可愛らしく歌っている。

バーチャル YouTuber によるカバー、いわゆる歌ってみたについては上の記事が詳しい。この記事にはバーチャル YouTuber に最も歌われている上位 10 曲がグラフで表現されているが、ここからはオタクカルチャー、インターネット文化の曲がバーチャル YouTuber に積極的にカバーされている様子が読み取れる。もちろんそれは著作権やカバーの手軽さといった理由が考えられるが、ともかく『君に、胸キュン。』のようなポップソングのカバーは全体から見れば(再生数の比率はともかく)珍しいものだ。

YMO 最大のヒットナンバー『君に、胸キュン。』は1983年のリリース以降様々なアーティストによりカバーされてきた。1998 年の槇原敬之、2002 年にはSUGIURUMN featuring 曽我部恵一、2006 年の土岐麻子、2009 年の KREVA など。ポップソングの象徴的な 1 曲として愛され、歌い継がれてきた名曲である。

YMO の活動は前期、中期、後期の 3 つに分けられるようだ。『ライディーン』の前期、『BGM』と『テクノデリック』の中期、そしてこの『君に、胸キュン。』の後期である。

前期の段階で世界的な人気を集め、同時に日本でも注目を浴びた YMO は、中期に突入するとそれまでとは異なる前衛的・実験的なサウンドに傾倒していく。その後、実質的な活動休止をはさんで『君に、胸キュン。』を発表。1984 年の散開までが後期にあたる。

80 年代。商業的な成功をした前期と後期、前衛的な作風で後のアーティストに影響を与えた中期という二面性と考える時に、どうしても当時のクラブカルチャーが持ち合わせていた思想性と、そこへ密接に関わった加速主義の影響について思わずにはいられない。そしてシティポップを豊かだった当時への憧憬として再生させる Vaporwave について。加速主義の持つ科学技術への信仰にも近い立場。そして YMO メンバー、坂本龍一の 3.11 以降の思想的立場の困難さには彼自身の音楽性が影響しているような気がしてしまう。

そして加速主義の VR テック系企業との親和性についても。たとえば somunia の所属する ficty とビジネス的に近いところへ位置する WFLE 代表取締役 DJ RIO / Eiji 氏の Twitter プロフィールには「シンギュラリティをもたらす仕事をしてるバーチャル美少女ケモミミDJです」とある。シンギュラリティ、技術的特異点は加速主義において中心的な役割を持つ。同じく、加速主義はシンギュラリティという発想に重大な影響を与えている。

それはたとえば以下のような問いかけの形を取って私の心に去来する。「この技術は我々をどこに導くだろうか」「この技術がもたらす影響と我々はどう付き合っていけば良いのか」「そのような技術が普及した社会では文化はどのような形を取るか」

YMO に話を戻そう。YMO、正式名称 Yellow Magic Orchestra の由来は White Magic(白人音楽)でも Black Magic(黒人音楽)でもない黄色人種の音楽であるという一種の宣言である。

改めていえば somunia は " インターネットの中、何処かにある部屋 " にいる。そこに人種はない。もちろん日本語で歌うから日本人なのだという推測は妥当だしその音楽には日本のネット文化の文脈がしっかりと残る。それでもハーフやクオーター、移民や移民 2 世、あるいは何処かの国の王女様……ありとあらゆる可能性が曖昧なまま残り続け、私はそこになんらかの希望を見つけてしまう。

インターネットやアバターの持つ匿名性が国や人種の垣根を越えて響く歌を作り出すのなら。今聴くと困難さを思わずにいられない原曲を乗り越えて無邪気に響く今回のカバーを聴くとそう思う。それをたとえば実質的な魔法、Virtual Magic Orchestra といってしまうと出来すぎな気がするが。

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