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あれはやっぱり幽霊だったのかな

あれはやっぱり幽霊だったのかな。

かれこれ15年ぐらい前になるだろうか。僕は毎朝車で決まった道を通って通勤していた。そのT字路にさしかかるのは6時過ぎだろうか。僕はそこを右折する。ある時、その正面に、小学生ぐらいの女の子が1人ポツンと立っていたのだ。

不思議に思って、右折中もずっとその子を見てしまったのだけど、その子も無表情でこちらを見つめていた。今は顔は全然思い出せない。とくに変わったところもない普通のどこにでもいる女の子だったように思う。

最初は朝早くから何をしてるんだろうか、この付近に住んでる子なのかな、朝の散歩にでも行くのかな?ぐらいに思ってたのだけど、以来、そのT字路で、その子を見かけることか何度か続いた。ただ、決まった曜日や決まった時間にいるわけでもなく、結局、最後まで、その子との遭遇に何か法則やパターンを見つけ出すことはできなかった。

ある日、深夜から大雪が降り始め、朝になっても降り続き、あたり一面が銀世界になった日があった。そんな日でも、その子は、傘もささずに相変わらずポツンと1人で立っていた。大雪なのに。

雪で喜んでる様子でもない。でも嫌がってるわけでもなく、全ての事象とは無関係にその子はただそこにいるという感じだった。状況が状況だけに、他の日よりも強く印象に残っている。

その光景を見てから、もしかしたらこの子って幽霊とかなんじゃないかと疑うようになった。

学校に行くにしては早すぎるし、何かペットの散歩に行くような様子でもない。誰かを待ってるけでもなく、ただそこに立っている。色々理由を考えても、うまい理由は見つからない。

ただ、その子からは何の恐さも感じないし、また、幽霊のような現実感のなさもなく(幽霊を見たことはないので、幽霊が現実感がないってのも単なる思い込みに過ぎないのだけど)、どこからどうみても普通の小学生の女の子にしか見えない。幽霊じゃないかと思いつつも、そう信じてしまうのも何か違和感がある。僕自身、霊感があるわけでもない。

いつからか僕は通勤に違う道を使うようになって、その女の子を見かけることもなくなった。たまに気分次第で、そのT字路のコースを選択してみたりもしたけど、女の子と会うことはなかった。

時を同じくして、女の子が立ってたところの後ろ側で何か工事が始まったようだった。それまで女の子に気を取られて、その後ろ側が何なのかまったく気にもしてなかった。気づいた時にはすでにテントが貼られていた。工事が始まる前、そこがなんだったのか、何度思い出そうとしても全く思い出せない。

工事が終わってテントが撤去されると、そこにはいかにもなコンビニの建物が作られてた。前に何台かの駐車場を兼ね備えたコンビニだ。

もしかしたらコンビニが建つ前は、そこにその子の家があったのかもしれない。工事になって自分の思い出のある場所が変わっていくのが寂しくてそこに立ってたりしたんだろうか。でもそれだったら背中向けてるのもなんか変だ。なんか紋切り型の妄想だな、と自分でも思う。

ほんとにそんな子を僕が見てたのかどうかでさえ、自分でもよくわからなくなる。一連のことはすべて夢に過ぎなかったりするのかもしれない。 記憶なんてそんなものか。

「過ぎ行く一切は比喩に過ぎない」誰かも言ってたではないか。

今シーズン初めてかな。奈良市内にも雪が舞っていた。車を運転しててふと、その女の子のことを思い出した。

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