決済大手Stripeも注目する1-click checkoutとは?
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決済大手Stripeも注目する1-click checkoutとは?

ユダマサキ@Z Venture Capital | フィンテック情報

先日、1-click checkoutサービスを提供するBoltが$4 billion(約4,396億円※1ドル=109.9円換算)の評価額で$333 million(約365億円)の資金調達を行っていると報じられました。

また本領域においては、決済大手Stripeが同じく1-click checkoutサービスを提供するFastに2020年3月のシリーズA、2021年1月のシリーズBと連続でリード出資したことも記憶に新しいです。

Boltは加盟店(Merchant)視点で決済体験を向上するサービスを提供することを目指して設立された企業です。AIを活用した入力フォームのABテストやAI不正検知技術、購買データ分析機能も含めた加盟店向けのワンストップ・ソリューションを提供する「merchant-oriented(マーチャントオリエンテッド)」な企業と言えます。

一方でFastは消費者(Consumer)視点で決済体験を向上するサービスを提供することを目指して設立された「consumer-oriented(コンシューマーオリエンテッド)」な企業です。消費者目線の機能開発やSNSを通じたブランディングに力を入れています。2019年設立ながら、今年1月時点で累計$124.5 million(約137億円)の資金調達を行っており、急成長している1社です。

BoltとFast、元々持っていた思想や提供機能はやや異なるものの、共通するサービスに注目が集まっています。それが1-click checkoutです。

1-click checkoutとはその名の通り、ボタンを1回クリックするだけで、すぐに購入完了できる支払い方法です。Amazonを利用したことがある方は、「1-click checkoutって昔からあるよね」と思うでしょう。

では、今BoltやFastというスタートアップに大型の資金が集まり急成長しているのは、一体なぜなのでしょうか。

本noteでは、BoltとFastを題材に「1-click checkoutとはいったい何なのか?」そして「なぜ今改めて注目されているのか?」を紐解いていきたいと思います。

すると彼らの成長背景には、EC市場を取り巻く5つの変化が存在するということがわかります。それは今後のフィンテック企業の成長へのヒントにも繋がるのではないかと思います。

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1-click checkoutとは?

まず1-click checkoutとは何なのかを簡単に確認しましょう。下記がWikipediaの定義です。

1回のクリックで商品のオンライン購入を可能にする技術である。ワンクリック購入にはユーザー自身が予め支払い情報を入力しておく必要がある。1997年にAmazon.comが特許出願し、同社のサイトなどで使用されている。
-Wikipediaより抜粋

通常、ECサイトは大きく「①商品→②カート→③決済」という3ステップで購入フローが構築されています。しかし1-click checkoutは、1clickで購入、すなわちショッピングカートの画面をすっ飛ばし、購入フローを「①商品→②決済」の2ステップにしてしまうサービスです。注文に要するステップ数が短くなるため、消費者は煩わしさを感じることなく商品を注文できるようになります。ECサイト側からすると来訪から商品購入に至るコンバージョンレート(CVR)の向上が期待できるサービスです。

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出典:https://www.coywolf.news/wp-content/uploads/2020/09/fast-1-click.gif

1-click checkoutが成長する3つの理由

1-click checkoutの成長要因は3つあります。

1) 圧倒的に早くて簡単な購入体験の実現
以下の図はFastを例にした1-click checkoutの流れです。

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初回の購入体験
① 商品ページにある1-click checkoutボタンを押下する
② 電子メール、名前、電話番号、住所、クレジットカード情報を入力する
③ SMSに送られるワンタイムパスワードを入力する
④ ②の情報入力と③の認証により商品の購入が完了する
⑤ アカウントページから自身の注文情報を確認、管理する

2回目以降の購入体験
①商品ページにある1-click checkoutボタンを押下する
(2回目以降②、③は不要)
④購入が完了する
⑤アカウントページから自身の注文情報を確認、管理する

消費者であるユーザーに必要な情報入力は5つのみです。(電子メール、名前、電話番号、住所、クレジットカード情報)

初回購入において一度入力(+SMS認証)が完了してしまえば、2回目以降はCookie、IPアドレス、その他情報を使用してユーザー行動を追跡(トラッキング)し、同じデバイスを使用し続けている限り、情報入力不要で1-click checkoutが可能となります。

これまでのサイト毎に異なる情報を入力し、パスワード管理するといった煩雑さから消費者を解放し、素早く購入に繋げるUX(ユーザーエクスペリエンス)を実現しています。

2) 加盟店のコンバージョンレート(CVR)を+60%向上する導入効果
1-click checkoutを導入するとECストアのページロード時間の短縮、購入完了スピードの向上に繋がります。例えばBoltは、ページロード時間が業界平均の10倍、購入完了スピードは1.5-2倍のスピードになり、コンバージョンレートが業界水準よりも60%以上高くなるというデータを公表しています。これは加盟店の売上に対して相当なインパクトを与える数値であり、何より手に入れたい効果でしょう。加盟店へのわかりやすい訴求ができる点も導入促進の一つの理由になっていると言えるでしょう。

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出典:Bolt公式HP

3) 加盟店が導入しやすい2つの仕組みの提供
また、1-click checkoutサービスは、近年Shopifyを筆頭に普及する、ECストア構築プラットフォームとの連携を前提に作られており導入が簡単な点が特徴です。

MagentoBig CommerceWooCommerce等、主要なプラットフォーム(PF)とシステム連携しています。これらのPFを利用している加盟店であれば1時間以内に1-click checkoutのソリューションを導入できるという簡単さを実現しています。

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1-click checkoutの台頭から見えるEC市場の5つの変化

改めて今、1-click checkoutが台頭している背景には、大きく5つのEC市場の変化があると考えています。

1. ストア構築PFの進化
2. モール型ではない独立型EC加盟店の増加
3. 拡大するEC市場に残された"カート落ち"という課題
4. Amazonの持っていた1-Click特許期限の到来
5. 脱プラットフォーム思想の浸透

1. ストア構築PFの進化
1つ目は、ShopifyをはじめとしたECストア構築プラットフォームの進化です。"ヘッドレスコマース"という概念をご存知でしょうか。これまではEコマース加盟店のフロントエンドからバックエンドは一体化されたシステムで構築されていました。一方で近年はAPI連携を前提にShopifyのようなストア構築PFがOSのように機能し、周辺アプリを活用しながら独自にカスタマイズしたECストアが作れるようになりました。

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出典:eCommerce3.0: Defining the Next Generation of Purchasingを元に加筆

これによってECストアは各機能ごとに最適化されていくエコシステムが誕生しています。1-click checkoutもその一つのソリューションとして登場しました。(下図中央上部)

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出典:Ecommerce is Having a Moment: Why We’re Excited & What’s NextBy Rajeev Dham, Cathy Gao, and Jane Leeを元に筆者加工

2. モール型ではない独立型EC加盟店の増加
ストア構築PFの進化を受け、独立型EC加盟店が増加しています。2020年の米国EC市場におけるShopifyの市場シェアは8.6%です。2019年時点では5.9%だったので他社を上回るスピードで成長しシェアを広げていることがわかります。

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出典:Shopify-Investor-Deck-Q4-2020.pdf

そして実は、Shopifyのようなプラットフォームは他にも多くあります。下記のグラフを見るとわかるように、(ソースによって数値に幅はありますが)この市場は分散しているということがわかります。

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出典:THE ULTIMATE LIST: 50+ SURPRISING SHOPIFY STATISTICS

3. 拡大するEC市場に残された"カート落ち"という課題
1.2から、「ECストアはヘッドレスコマースによって、機能最適化が行われ始めている。」そして「その市場は拡大していて、Shopifyと似たようなサービスはたくさんあり分散している。」ということがわかるかと思います。

しかし、EC加盟店が抱える「カート落ち」という課題は残されたままでした。米国におけるユーザーのEC行動で70%がカートから決済を完了できずそのまま放置してしまう状態があるそうです。さらにこれがモバイル上のユーザー行動となった場合、その割合は85%に達するそうで、これにより米国では毎年$1兆以上、グローバルでは$10兆の損失が生まれているという話もあります。

独立加盟店が増えると、ユーザーはそれぞれに対して情報を入力する必要が出てきます。その入力フォーマットは様々ですし、IDとパスワードの数も増えるばかり。オンラインショッピングの購入体験へのストレスは増加していることが想像できます。

4. Amazonの持っていた1-Click特許期限の到来
ユーザーが情報入力する手間を省き、カート落ちという課題を解決する1-click checkoutですが、今まで浸透しなかった大きな理由の1つが特許にあります。1997年にEC界の巨人Amazonが1-click特許を取得しました。Amazonでは1-click購入ができるようになった一方、他のプラットフォームにおいては同様の体験を提供できなくなる状況に陥ってしまいました。

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出典:Amazon.com

しかし、2017年9月に特許の期限が訪れています。これによって1-click checkoutをあらゆる事業者が提供できるようになりました。

5. 脱プラットフォーム思想の浸透

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出典:各社HP

加えて、脱プラットフォーム思想の浸透も理由の一つになるでしょう。

GAFAのような大手プラットフォーマーの影響力が高まる一方で、事業者や消費者は彼らに依存することを警戒するようになっています。消費者の同意なく個人情報を広告に利用したり、プラットフォーマーがアルゴリズムをコントロールできる支配的立場を持つことに対する反発が日に日に増大しており、様々な規制も生まれてきています。

実際に、FastのシードラウンドをリードしたIndex VenturesのJan Hammer氏は下記のように述べています。

 Index’s Jan Hammer, the investor who led the company’s seed round, cited the company’s independence as a net-plus for Fast, saying that “many merchants would tell you they don’t trust Amazon, and many shoppers would admit that they don’t trust Google to store their credit cards because they both have different agendas.

出典:Stripe leads $20M Series A into Fast, which is building a universal checkout service for e-commerce

1-click checkoutはAmazonに匹敵するレコメンドエンジンを作れるか

1-click checkoutサービスは今後どのような展開をしていくでしょうか。

いくつかの可能性が考えられますが、彼らが目指しているところは、インターネット業界において今、非常に価値あるデータの1つであるアカウントと紐付いたコンバージョンデータを保有する企業となることでしょう。Stripeは消費者側のアカウントを持っていないため、誰が何を購入しているかが分かりません。一方で1-click checkoutはそれがわかります。StripeがFastに出資している理由もそこにあるのではないでしょうか。

現在アメリカでAmazonは43%程の市場シェアを持っており、保有する購買データの量では圧倒的と言えます。しかしEC市場における独立加盟店が増大している今、それをネットワーク化するFastやBoltのデータも価値を持ち始めます。

Boltは20年に450万ユーザーでしたが、21年には5,000万ユーザーになると予測されています。彼らのネットワークが広がっていけば、大規模な購買データを集約することになり、Amazonのようなレコメンドエンジンを作ることに繋がっていくと思われます。実際に、Fastは近々パーソナライズレコメンドエンジンを搭載したショッピングアプリの提供を計画している模様です。

他に、Shopifyが提供するShop Payも同様の動きを見せています。また、BNPL(Buy Now, Pay Later)のAffirmやKlarnaも少しレイヤーは異なりますが、潜在的な競合となってくるでしょう。1-click checkoutを武器とするFastやBoltが今後どう進化していくのか、注目です。

最後に

1-click checkoutという一見シンプルなサービスが資金を集め、急成長をしている理由が気になり、調べてみました。

その背景にはEC市場の大きなトレンド変化と、それに合わせた最適なUXを実現する仕組みが隠されていることがわかりました。

市場の中で急成長するセグメント、プラットフォーマーと連携しテクノロジー主導で急成長していくことができる。それこそがフィンテック企業のダイナミクスと言えるかもしれません。

Z Venture CapitalはFintechを注力領域の一つとして投資活動をしており、私は今回のような調査を日々行っています。読んでくれた皆様が起業アイデアや新規事業ネタを考えたり、議論するきっかけになれば嬉しいです。

今後もTwitter(@yudamasak1)noteでFintechやスタートアップに関する情報を発信していきますので興味のある方はぜひ覗いてみてください。

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Z Venture Capital(ZVC)のフィンテック担当🦄/PayPay Accelerator Programを運営/週刊金融財政事情「Fintech+」にてコラムを連載(第46-51回)/↓noteで毎週Fintechニュースを発信