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オリオールズGM Mike Elias氏との対談(翻訳記事)

オリオールズGMのMike Elias氏と記者のDavid Laurila氏の対談記事を翻訳したものです。

Mike Eliasはスカウトと選手育成の背景を持って2018年にボルチモアにやってきた。オリオールズの現ゼネラルマネージャー兼副社長は、2007年にセントルイス・カージナルスでスカウトとしてMLBの世界に足を踏み入れた。その4年後、ヒューストン・アストロズのアマチュアスカウト部長として雇われ、2016年にアストロズはイェール大学出身の彼をアシスタントGMに昇格させ、選手を担当させたのである。

彼がボルチモアに移った時、チームは球団史上最多の115敗を喫したばかりであり、課題は山積みであった。オリオールズは、強豪がひしめき合うアメリカン・リーグ東地区で勝ち抜かなけらばならず、再建は決して容易なことではなかった。しかも再建には時間がかかるため、ファンには強くなるまでの間我慢の時を強いることになる。

しかし、長いトンネルの先にはついに光が見え始めている。Eliasの指導の下、オリオールズは球界最高のファームシステムを構築し、Adley Rutschman、Grayson Rodriguez、 D.L. Hall、Colton Cowser, Gunnar HendersonとCoby MayoがFangraphsの6人が有望株ランキングトップ100に名を連ねている。特にRutschmanとRodriguezはそれぞれ野手部門1位と投手部門1位にランクインしている。

Eliasは球団のスカウティングと選手育成のアプローチについて以下のように語ってくれた。

David Laurila:2014年に一度スカウティングと選手育成の関係性についてお尋ねしましたが(*)、その後どのような変化があったのかお聞かせ願いたいです。
(*) https://blogs.fangraphs.com/qa-mike-elias-houston-astros-director-of-amateur-scouting/ 参照

Mike Elias:スカウティングと選手育成という分野はお互いに融合しあうという方向に向かっていっている。日を重ねるにつれて選手育成の手法が高度化する中で、組織間のコミュニケーションがいかに容易に可能でであるかは、過小評価されているファクターだ。私は2007年にMLBの世界に飛び込んだ時、すでにインターネットの時代になっていたが、80年代、90年代、2000年代前半にMLBで活躍していた人たちに話を聞くと、遠隔地の社員と連絡を取ることに相当な労力がかかっていたようだ。ボイスメールを使ったりしてね。であるからして、スカウティングと選手育成の間の多くのしきたりや区分は、みなが連絡を取り合うことが困難であった時代から生まれたものだ。今はもう、そういう時代ではない。

特にドラフトでは、Brad Ciolek(オリオールズドラフト部長)の指揮のもと、選手育成コーチがドラフト前の評価に携わるなど、実にうまくいっている。そうすることで、その選手を獲得した時のオーナーシップを高めることができるのだと思う。彼らは、その選手の長所と短所を知っている。関係者全員が指名プロセスの前段階に組み込まれることはいいことだ。

Laurila:そのような関係性を踏まえた上で、MLBで成功を収めるためにはいくつかの改善すべき項目がある選手の、どのようなリスク・リターンを考慮してドラフトに臨んでいるのでしょうか。

Elias:その問いに対して一概に答えを出すのは難しい。すべてはケースバイケースの評価である。そもそもアマチュアの段階で本当に完璧に見える選手というのはドラフト最上位で指名されてしまう。選手育成やドラフトというのは常に多くの「もしも」と対処しなければならない。「この選手がメジャーで活躍するにはこれをする必要がある」というのを的確に判断するために、専門的に分析ができるスカウトがいるわけだし、コーチも参加させるし、その選手には何が最適かを探ろうとする。これは直せる、これは直せないといった絶対的なルールや公式は存在しないと私は考える。選手自身や、その選手を取り巻く人々、そしてありとあらゆる小さな要素に左右される。

Laurila:現在では多くのデータがあり、技術も発達しているため、成長のために必要な変化をより正確に把握することができます。以前の場合は殆ど経験に基づいた推測でした。

Elias:現在データや技術はリーグ全体に渡っており、誰もが情報を使って仕事をしているが、このようなものが利用できるようになる前、そしてそれが理解される前に、スカウトの世界で私たちが犯していた多くの明らかな過ちをなくしてくれた。特に投手は肉眼で正しく評価するのが難しいものがあったが、今はより測定可能かつ正確な方法で投手の能力を分析することができている。

みなが同じデータを使うことはむしろ、市場での普及と発展の抑制へと繋がっている。このテクノロジーの時代に球団が求めるものは競争と共に激化の一途を辿っており、それによって物事が進化し続けているのだと思う。他の分野においても先取り競争が行われているので、10年後はどうなっているのか楽しみだ。

Laurila:過去にスカウト達が何か特定のものを過大評価、もしくは過小評価していたものはありますか?

Elias:彼らのせいではないが、我々はいつも球速を計るためレーダーガンを持ち歩いていた。野球人なら、スカウトならば誰しもが、ある投手をレーダーガンで計測した時は魅力的に見えたがその球速が示すほどのパフォーマンスを残すことができなかった、という経験をしたことがあるはずだ。今の技術ならば、なぜそのようなことが起こるのかを説明することができる。おそらくそれらの謎の解明が我々の最も向上した部分だろう。

Laurila:概して球速が過大評価されていたと。

Elias:それを測定する装置があり、測定可能だったからこそ、そこに重きを置いていた。しかし、全体像を捉えられていなかった。現在では、いくつかの特性を測定できるようになり、投手の全体的な評価において、球速の速さというのは少しの加点に過ぎない。

Laurila:2017年2月にインタビューした際(*)、投手のスカウティングについて次のように語っていましたね。
「その分野は確かに進化してきたが、今でも、そしてこれからも、選手を直接見たスカウトの意見が最も頼りになると思う。」
この質問に対して、今なら何か違う答えが返ってくるのでしょうか。
(*) https://blogs.fangraphs.com/mike-elias-on-drafting-and-developing-astros-pitchers/ 参照

Elias:TrackManやRapsodoのような測定装置の使い方を誰もが理解するようになると、データの評価者が誰で、何を見て、それらのデバイスの範囲外に存在する特性をどう評価するかという点で優位に立つことができる。だから、主観的な要素が必ず残るし、それが勝敗を決めると思う。というのも、今この選手の能力はどれぐらいかというのはデータによって誰もがはっきりとわかることである。誰の能力が向上するのか、持続するのかを予見できる球団こそ他の球団より何歩も先にいる。そしてそれは主観によって決定される領域だ。

Laurila:野球界には、スカウトやドラフトの哲学がどの程度存在しているものなのでしょうか。

Elias:それがドラフトの面白さでもある。これだけ情報が充実している現代でも、ドラフト会議室では人が判断を下している。他球団の哲学、あるいは他球団の哲学と思われるものを観察し、誰かが何かを掴んでいないかと考えることは、私たちにとって楽しいことなのだ。いろいろな組織を渡り歩いたスカウトに話を聞くと、行く先々で異なることを学び、行く先々で異なる美学を感じ取っているようだ。それがドラフトを面白くするんだ。

Laurila:オリオールズはどのような哲学を持っているのですか。

Elias:私たちはドラフト準備のために投入する情報の質を完璧にし、それらの優先度の順位付けを最もスマートな方法ですることに注力していると思う。それが私たちの哲学だ。そして、そのやり方を継続的に調整し続けている。もちろん、これらの要素が大きく変わる可能性もある。

私たちは多くの高校生の選手をドラフトで獲得している。そして、活躍できる高校生を見抜く能力があることも証明してきたと思う。それはスカウティングと、その年代の選手を評価する方法を知っているからこそできることだ。大学での成績やデータがないのだから、限られたものから導き出すしかない。私がボルチモアに来て以来、高校生で選んだ多くの選手たちに心躍らされ、誇りに思っている。球団はまだまだ前途多難だが、それは彼らのせいではない。私がアストロズにいたころと同じような感情になっている。(アストロズは2011~2013年に3年連続100敗を喫して以降常勝軍団に変身し、ここ5年で3度のワールドシリーズ進出)

Laurila:高校生の選手は「球団の型にはめやすい」のが魅力の一つで、それに比べて大学を経験した選手は既に選手として自己の確立がなされているものなのでしょうか。

Elias:そのような部分もあるだろうが、私は高校生のマーケットに参入しなければ、天才的な才能を逃してしまうことになると思っている。17歳や18歳で立派な成績を残し、メジャーリーグの球団に、もっと知名度の高い大学生の選手よりも先に選ばれるような選手は、若いうちからそのような潜在能力を発揮しているのだ。高校生のうちから天才的な才能を持つ選手を獲得できる確率は高いと思うので、高校生のマーケットに深く関わるように意識している。野球のユニークな点の一つは、アメリカの他のスポーツよりも高校生のマーケットから選手を獲得していることである。野球の才能が生み出される重要な要素であり、私たちはこの分野で秀でていたいと思っている。

Laurila:あなたが2020年のドラフト2巡目でHeston Kjerstadを指名した時、多くの人間は指名順が高すぎると評価しました。

Elias:彼がプレーできなかったことは、いろいろな意味で本当に不運なことだった(心筋炎の影響で2021年全休)。そして、それは誰のせいでもない。重要なのは、彼が今とても元気そうだということだ。彼は健康だ。彼が心筋炎に耐え、あのような時間を過ごし、そして彼が野球に対する姿勢と意欲を持ち続けたことは、我々が彼を獲得したときに気に入っていたことの全てを物語っている。彼はまだ、私たちが彼を高く評価した理由を人々に示すことための、多くの時間が残されている。私たちが正しかったと証明されることを大いに期待している。

一般的に、ドラフト20巡目までの選手を評価し、ドラフトするのが私たちの仕事だ。世間一般の意見やランキングとは異なる判断をすることも多々ある。そのためのスカウト部門だ。世間に溢れる感想や感情は意識し、尊重しなければならないが、独自性のある決断を下さない限り、優位に立つことはできない。この業界には、そうした種類の指名から生まれた素晴らしい指名がたくさんある。もちろん、上手くいかなかったものもある。チームが独自の評価を展開するのには理由がある。

Laurila:私は多くの打者や投手に、自分たちの技術を芸術と考えるか、それとも科学と考えるか尋ねてきました。その質問をスカウティングや選手育成に関連付けてどう考えているのかお聞きします。

Elias:どちらも進化し続けるものなので、どちらかというとアートに近いかもしれない。なぜなら、人間を相手にしているからだ。どんなに優れたアーティストでも、できる限り科学的であろうとするものだ。スカウティングや選手育成の仕事は、解を見つけることが難しいからこそ楽しめるのだと思う。野球の場合は...やはり人間を相手にしているので、自分達の仕事が完璧であるということは決してない。それが、30球団による競争の難しさでもあるのだ。

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