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Michael Pinedaから見る、数字と現実の乖離

1.導入 

Yankeesファンである筆者は、Michael Pinedaという投手に対して、Jesus Monteroとの1対1トレードが発生した時点から期待を寄せていた。
MLB初年度からSEAにて好成績を残した、将来のエース候補となる剛腕が加わり、誰もが心踊らされたに違いない。
今回は彼の成績を詳細に分析し、数字の落とし穴について論じてみたいと思う。

2.概説

簡単にだが彼のNYYでの4年間の数字を見ていこう。(トレードされた後2年ほど怪我で全休しているため、実際には6年間所属しているが)

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1年目はその才能を遺憾なく発揮し、76.1回と小さいサンプルサイズながら、ERA 1.89 K/BB 8.43 BB/9 0.8と、制球の良さを活かした投球を披露した。
より詳細に成績を掘り下げると、BABIP .233 LOB 80.4% HR/FB 5.4%と運に恵まれた感は否めないが、それでも2年ものリハビリ期間を耐えた甲斐があったと言える成績を残してくれた。
だが、シーズン中盤故障によりDL(現在のIL)入りし、またしても怪我で全休の憂き目にあう。
今回着目していく、その後の3年間の成績はすべてERA4.37 以上と、お世辞にも素晴らしいとは言えない。
そんな彼のYankees時代のハイライトは、母の日(2015/5/10)の対BAL戦での716奪三振で間違いないだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=lDQ_tGL7yEQ
この1試合以外にもエースのポテンシャルを随所で垣間見る事は出来たが、1年を通してその支配力を発揮することは叶わなかった。

3.本題

今回私が取り上げ、提起したいのは、なぜ彼がエースに成りえなかったのかという点よりも、彼が残した表面上の数字からは読み取れない、セイバーメトリクスに潜む問題点である。
セイバーメトリクスを少しでも知っている人であれば、FIP(Fielding Independent Pitching)についてご存じあろうが、その定義と計算式を改めておさらいしておこう。
FIPとは
守備の関与しない与四球・奪三振・被本塁打という3つの項目から、守備から独立した防御率を評価する指標
(DELTAより引用 https://1point02.jp/op/gnav/glossary/gls_explanation.aspx?eid=20060)
であり、
FIP=(13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回+定数
で求められる。

ここでPinedaの2015~2017のERAとFIPを見てみると、
2014:ERA 4.37 FIP 3.34
2015:ERA 4.82 FIP 3.80
2016:ERA 4.39 FIP 4.66
となっており、2014年と2015年はERAとFIPに1点以上の開きが存在している。
なぜこのようなことになっているのだろうか。
FIPの計算式を見てもらうとわかるが、式そのものは非常に単純な構造で出来ている。被本塁打数を抑え、三振を多く奪い、四球の数を減らせば実際の防御率よりいい数字が出力されることになる。
そんなの当たり前だと思われるかもしれないが、実のところFIPの定義そのものに大きな罠があると考える。
Michael Pinedaの試合見ているとわかるのだが、彼はコントロールは良いのだが、コマンドは優れていると言い難い。
要は、細かい四隅に狙って投げたり、真ん中付近を避けたりといったことは得意ではないのだ。
彼の速球系の球の分布図は以下のとおりである。(上は2014年、下は2015年)

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                                                                     (Baseball Savantよりデータを引用)

赤い部分が真ん中から外角にかけて、いわゆるベルトハイと呼ばれる高さに全て収束している。
球の調子が良い時は球のキレで抑えられるが、調子が悪い時や甘くなったときは痛打されることが多く、四球が少なく奪三振が多いという理想的な投球をしているはずなのに、結果的に防御率に結び付いていない。
そしてこれこそがFIPの計算式の欠陥である。
Michael PinedaはHR/9こそ本拠地の影響もあり平均より高いものの、K/BBはエリートレベルであるため、FIPはまずまずの値となってしまっている。
そのため、お手軽に成績予測をしたいと考え、彼の将来をFIPで占い、いずれ揺れ戻しが来て防御率が改善されるという結論を導くのは非常に危険であると言える。

4.応用

この考え方を飛躍させて考えて以下のような新たな分析手法を編み出せるのではないかと現在の私は考えている。
カウントを取りに行ったストライクと、コースを攻めたストライクは実際に試合を観戦すると異なるというのが明らかだが、データ上においては全て同じストライクとして記録される。
だが、前後に投じた球、カウントや点差等の要素に基づき、その1球が果たして何点の球であったのか数値化し、より効率の良い球種やコース選択を導きだせるようにするというものだ。
端的に言い換えるのであれば、捕手のリードと投手の意識を効率化していくというものだが、この分野は、投球術が「Art of Pitching」と表現されることもあるように数値というより芸術に近いものがあり、非常にファジーである。
だからこそ未開拓の分野であり、可能性を切り開けるのではないだろうか。

5.最後に

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
このような形で記事を書くのは初めてのことであり、様々な指摘、アドバイスや意見等あると思うのですが、私のTwitter(@YKobaAnalysis)へリプなりDMなりで教えていただけると大変助かります。
今後も継続的にこのような記事を出していけたらと思っている次第であります。

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