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打率.341を記録しながら190打席しか与えられなかった捕手の話 ~打てる第二捕手の起用法~

あなたの贔屓チームにもし打率.341の捕手がいたら正捕手として起用されるだろうか。ほとんどの場合そうなるだろうが、2006年のツインズはその選手を正捕手起用どころか190打席しか与えなかった。
その悲劇の選手の名前はMike Redmond。後にマーリンズの監督も務めることとなった彼だが、なぜそのようなことになったのか。
理由は単純明快でJoe MauerというMVP級の選手が居たからである。以下は両選手の2005年と2006年の成績である。

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2006年にはオールスター出場、シルバースラッガー受賞、MVP6位を果たしたリーグ最高の捕手の前ではいくら打とうと出場機会が限定されるのは致し方ないことである。他の要因としては、長打を打てないこと(2年間で1本塁打)、全く走れないこと(3年間で1盗塁)、、四球を選べないこと、一塁にもMVPがいること(Justin Morneau)、年齢が高さゆえに選手としての天井が見えているので他の若手にDHとして出場機会を与えた方が長期的に得をすることなどが挙げられる。

同様に素晴らしい打撃力を持ち合わせていながら、何らかの要因により捕手としての出番を多く貰えず、第二捕手に留まった例を8つご紹介しよう。

①ベテラン捕手が若手有望株を大きく上回るパターン

2021  TB Mike ZuninoとFrancisco Mejia

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Mike Zuninoは2018年オフにトレードでマリナーズから加入して以降、レイズと2019年は1年450万ドルで契約、2020年には450万ドルのクラブオプションを破棄後1年200万ドルで契約、2021年はクラブオプションを行使し700万ドルの契約を結んではいるが、全て単年契約であり、先発捕手の固定に長年悩まされてきたレイズの長期のプランに元々組み込まれてはいなかった。
一方でFrancisco Mejiaは2019年MLBパイプライン有望株ランキング26位、捕手内では2位を記録し、20-80スケールでもヒッティングが将来60パワーが将来50と、打てる捕手として大きく期待されていた。
だが、昨季ZuninoがbWAR3.8 fWAR4.5の予想外の活躍を果たしたため、Zuninoが先発マスクをメインに被り、そのバックアップをMejiaが果たすこととなった。Mejiaはマイナーリーグで外野としての経験も積んできたが、レイズの厚い外野層を打ち破ってまで出場を果たすほどの打棒は披露できなかった。また守備面でも、Zuninoはフレーミングで59人中5位となる+6を記録する一方、Mejiaは59人中53位の-5を記録するなど守備面でも大きく水をあけられる結果となってしまった。そのため、2021のレッドソックスとのALDSでは全イニングZuninoが捕手を務め、Mejiaの出番は8点差の場面で一度打席に立ったのみであった(四球)。
来期もZuninoの打棒覚醒が継続するかどうかでMejiaの起用法が大きく変わってくるため、正捕手争いに注目が集まる。

②攻撃より守備重視のパターン

2008 Jeff MathisとMike Napoli

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Jeff Mathisは守備型捕手のお手本とも呼ぶべき存在だ。キャリアで一度もOPS.700を上回ったことがないのにも関わらず、未だ現役として17年目のMLBシーズンに突入しようとしている。2006年は捕手時防御率3.65、DRS+7を記録、数字で測れないリード能力、コミュケーション能力、リーダーシップなどの捕手の守備に重要な要素を全て持ち合わせており、フィールド上の監督とも呼べる存在だ。
一方で典型的な打撃型捕手のMike NapoliはDRS-7、盗塁阻止率17%、捕手時投手防御率4.45、わずか625イニングの出場でリーグワースト5位の7捕逸を記録。現役時代守備型捕手であったMike Scioscia監督にとって捕手としての許容ラインを大幅に下回っていたことは想像に難くない。
そんな守備とは対照的に、打撃はオールスター級の活躍を見せ、ISOはMLB1位となる.313、wRC+は12位の146を記録した。だがこれだけの打撃を有しながら一塁やDHでなぜ起用されなかったのかというと、それぞれのポジションにMark Teixiera(OPS1.081)とVladmir Guerrero(OPS.886)という2人の大スターがいたからである。だが、エンゼルスも流石にこれだけ打てる選手の出番を制限するのは勿体ないと思ったのか、翌年度以降は徐々にDHとしての出番を増やしている。
面白いのはレギュラーシーズンではMathisの方がNapoliより先発マスクを被ることが多かったのに対し、ポストシーズンではその立場が逆転したことだ。レッドソックスとのALDSでは3試合Napoliが先発マスクを被り、Mathisの先発マスクは1試合に留まった。
この2人と真逆の状況だったのが2021年のMartin MaldonadoとJason Castroである。ポストシーズン全16試合において守備型のMaldonadoが先発マスクを被り、Jason Castroは試合終盤にMaldonadoの代打として打席に立つ役割しか与えられなかった。

③突如打撃覚醒するパターン

2013 CHC Welington CastilloとDioner Navarro

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Dioner Navarroが2012年オフにFAでカブスに加入した時、若手捕手であるWelington Castilloが休養時に出場するだけの穴埋め要因以上のものは期待されていなかった。それまでのキャリアで一度も2桁本塁打を打ったことがなく、2012年MLBでの出場は僅か24試合、シーズンの大半を3Aで過ごし、PECOTAの2013年の打率/出塁率/長打率の成績予測では.246/.305/.368と彼の覚醒を事前に示すものは無かった。
おそらくシーズン開幕前にはCastilloが100~130試合を、Navarroが残りの試合を先発捕手として出場することをカブスは想定しており、いくら打撃覚醒があったとはいえCastilloの捕手としての育成に主眼を置いていたカブスはその計画を崩すことをせず、Castilloには107試合の、Navarroには53試合の先発捕手としての出場機会を与えるという結果になった。だがその打撃力を買われ、32打席も代打としての出場を果たした。

④捕手以外の守備位置を守れるパターン

2017 LAD Yasmani GrandalとAustin Barnes

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捕手が捕手以外の守備位置を守るということは、そのポジションの特異性と専門性ゆえ少ない。だが、Austin Barnesは別だ。彼は動ける捕手というだけでなく、なんとセカンドも守れるのだ。同じチームの捕手というポジションに2016年27本塁打を放ちMVP票も入ったYasmani Grandalがいる一方で、Barnesは2016年21試合OPS.458と全く入り込む余地が無いように2017年開幕前にはみえたが、その多芸さを活かし捕手としての出場だけでなく、二塁手として先発出場したり、代打から二塁手に就いたりと、多くの打席に立った。そのおかげでバッティングを首脳陣にアピールできたBarnesは、シーズン終盤にGrandalがスランプに陥ったこともあり、ポストシーズンでは先発捕手として起用された。

⑤右投手が苦手だったパターン

2019 Omar NarvaezとTom Murphy

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Omar Narvaezの対右投手成績は .289/.346/.490/.836、対左投手成績は .227/.379/.329/.699 一方でTom Murphyの対右投手成績は .211/.252/.401/.653、対左投手成績は.348/.408/.695/1.103と捕手同士綺麗なプラトーンを2019年のマリナーズは組む事ができた。しかし、約70%の投手が右投手のMLBにおいて、右投手が苦手というのはその分出場機会が減るということである。そのため、左投手相手であればオールスター級の数字を残したMurphyですら41試合しか先発左腕とのマッチアップが叶わなかった。もっとも、シーズン中盤以降はチーム内の戦力変化により(Edwin Encarnacionのトレード放出等)、右投手が先発の時でもMurphyが先発捕手として下位打線を任され、NarvaezがDHとして出場する機会も増えた。捕手を時折DHとして起用するということは、もし試合開始早々に先発捕手が怪我した時や終盤の重要なシーンで代打代走を出したい場合必然的にDHを解除するシチュエーションが生まれてしまうため、第三捕手を常にベンチに配置する必要があるが、2019年のマリナーズには捕手も内野も守れるAustin Nolaがいたため、NarvaezとMurphyの同時起用も可能であった。

⑥第二捕手という役割が好きだったパターン

2009~2012 Brian McCannとDavid Ross

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David Rossが2008年にブレーブスと2年300万ドルの契約を結んだ時から、彼はBrian McCannという4年連続オールスター選出捕手のバックアップを務めることが定められていた。そして彼はその役割を好意的に受け入れ、積極的にMcCannとコミュニケーションを取りながら、守備を含めた捕手としての指導を行った。また、彼はクラブハウスでのリーダーシップを発揮しみなのまとめ役となった。その後2010年オフにブレーブスと2年325万ドルの契約延長を行ったが、彼の人格と守備と打撃であれば、他の球団から金銭面でより好条件のオファーを受けていただろうが(2012年オフにはレッドソックスと2年625万ドルで契約)、第二捕手としてもう2年McCannと共にプレーすることを選択したことからも黒子に徹する彼の姿勢が窺い知れる。この時点で既にインストラクター、コーチもしくは監督業を志していたのかもしれない。ブレーブスを離れた後も控え捕手兼リーダー役として、レッドソックスとカブスの2球団でワールドシリーズ優勝に貢献した。現在シカゴ・カブスの監督として活躍しているのもこの頃の経験が大きく影響していそうだ。

⑦2人の捕手が均等に機会を与えられたパターン

2017 Tyler FlowersとKurt Suzuki

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BravesのBrian Snitker監督は開幕前から予めTyler FlowersとKurt Suzukiの2人の捕手が均等に機会を与えられるプランを組み立ててていた。両ベテランに適度な休養を与え、常にフレッシュな状態で保つことを目論んでおり、その狙いは見事に的中した。両者が31歳と33歳にして自己ベストのOPSを記録することに成功し、捕手のOPS、wOBA、Offensive WARといった指標で両リーグ1位となった。2人ともなぜかこの年死球を受けることが多かったが(Flowers 20死球、Suzuki13死球)、相方のお陰で満身創痍な状態で無理を押して出場する必要性が無く、余裕を持って休養できたことはプラスに働いただろう。また、特殊な要素としてナックルボーラーのR.A. Dickeyがチームにおり、どちらかが専属捕手になると開幕前には思われていた。お互いそれまでのキャリアでナックルボーラーを経験したことがなく、結局これまた均等に出番を分け合うこととなった(Flowers 16試合、Suzuki 15試合)。

⑧捕手3人体制パターン

2016 Miguel Montero、Willson ContrerasとDavid Ross

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レギュラーシーズンでは3人全員が捕手として57試合以上出場を果たし、ポストシーズンでは3人が捕手と代打をローテーションして担当するという過去類を見ない捕手の起用法でワールドシリーズ制覇を達成した。
3人を使い分けることにより、その年のカブスはMLB1位のチーム防御率(3.15)を達成しながら、捕手のOPS、本塁打、打点でもリーグ5位以内に入った。
NLDSでは先発投手との相性に基づいて第1戦はRossが、第2戦はContrerasが、第3戦はMonteroが先発捕手として選ばれるなど、それぞれの強みを活かしたMaddon監督独自の采配が目立った。
ルーキーのContrerasは3人の中で最も打撃に期待が持てるため、ポストシーズンでは3人の中で最も打席に立ち、NLDS第4戦では代打で9回に同点打を放った後、レフトを守るなど器用さも光った。
RossはエースのJon Lester(防御率2.44)の専属捕手としての出場がメインであり、レギュラーシーズンではLesterの32先発のうち、31先発を受けた。ワールドシリーズ第7戦ではLesterが5回裏2死一塁から登板すると共に、先発マスクを被っていたContrerasの代わりに守備に就き、バッテリー丸ごと交代という中々お目にかかれない采配が見られた。
MonteroもJake Arrieta(防御率3.10)の専属捕手兼左の代打として活躍した。




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