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イラストレーターが【選挙ポスター】を絵解きしてみるー2020東京都知事選・都議会議員補欠選挙(1)

ほぼ単なる趣味になってきたこの「選挙ポスター」絵解きシリーズ
久しぶりに執筆です。
「イラストレーターが」と当初書いたものの、その後「イラストレーターと名乗ることを辞めたい」ってやめちゃったので、タイトルに自分で違和感しかありません。

今までのnoteもよろしければあわせてご覧ください。
2019年参議院選(前編)
2019年参議院選(後編)
2019年埼玉県知事選

毎度のことながら、政策的な批判や批評では一切ありません。「なぜ当選したか」ということを言いたいのでもありません。
あくまでデザインや視覚的にどういう「メッセージ」があるのか、またはそれがちゃんと伝わるかを解いていくという主旨です。

今回はお題目が多すぎて絞っても3部構成になってしまいました…(白目)
他の2編も後日公開予定ですので、ぜひご覧ください。

(1)張り替えられた選挙ポスターたち←イマココ
(2)選挙ポスターじゃないのに「小池候補」を思わせるポスター!?
(3)北区都議会議員補欠選挙のポスター

はじめに

今回SNSで多くの「選挙ポスター」について「あれは違反なのではないか」という疑問や嫌悪感があふれかえり選挙管理委員会には問い合わせが殺到、いつになく選挙ポスターが「炎上」していた選挙となりました。
これは国政選挙と比較すれば候補者は少なく、東京という特性から発信される情報量が多い(注目度とは少し異なり発信者や量の多さという意味)というところに原因があったと個人的には考えています。
つまりこの22人にとって国政に出るより比較的高い宣伝効果(拡散力)があった。それが「300万」と考えると破格の宣伝費用です。

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都内1万カ所以上にポスター掲示できて、動画を地上波でながしてくれるんだよ…
30秒CM1回流すだけで制作費と枠おさえるのに300万かかったこともあるのに…

私のnoteではいわゆるニュースになった「宣伝・炎上」の狙いのあるものを極力避けたいと思っており、
「ホリエモン新党の3連のようなポスターは何を意味するのか」という分析と
「選挙ポスターとキャラクターと著作権、そしてキャラクターを守ること」という内容を敢えて外すこととしました。
(一応考えたことは考えたので聞きたい友達は個人LINEへどうぞ)

ちなみに私が実際ポスターを確認してきたところデザイン上のルールを逸脱しているものは見受けられませんでした。
「選挙ポスター掲示のルール」はデザインとしてはこれしか決まっていません。
またどこが公職選挙法違反だのという話だと政治の専門的な分野になるので畑違いとなり論議する能力外と考えています。

(参考)政治活動・選挙運動における、選挙ポスター掲示/貼付についてのルール

選挙ポスターは公営(公設)掲示板(場所)にのみ掲示することが可能です。
掲示責任者と印刷責任者の住所と氏名(法人の場合は会社名)の記入が必須となっていますが、内容やデザインについてのルールや制限はありません。
そして重要なのが「長さ42cm×幅30cm」というサイズですが、このサイズを1mmでも超えてしまうと違反になってしまいます。

デザイン上で重要なのは記載内容よりもサイズで、記載内容についてはかなり自由度が高いです。ちなみに先の参院選で某政党の7連ポスターがNGになった理由もサイズが理由でした。

さてまずは「張り替えられた選挙ポスターたち」ということを書いていきます。

小池ゆりこ候補の選挙ポスター

張り替えられた、って一体なんやねん。となるかと思うのですが
実は選挙中盤にて「山本太郎候補」と「宇都宮けんじ候補」の選挙ポスターがデザインを変えて張り替えられていきます。

張り替え前のポスターを見てみましょう。

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SNSでデザイナーさんたちが「デザインとしては小池候補の圧勝」と評したこの選挙ポスターでした。私から見てもこの序盤のポスターをざっと見た時に、小池候補の完成度の高さは群を抜いていると思いました。

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では、どこが?
ということで、小池候補のポスターから見ていきます。
このデザインの良さとして具体的には以下のような点が挙げられます。

・他候補者と並べた時に「白以外の面が多く」ポスターが目立つ
・名前が写真と一切被らず誰よりも見やすい
・ずっとブランディングで使ってきた「緑」で見せている

つまり掲示場全体で選挙ポスターを見ると一番に小池候補のポスターが目に入り、それがひと目で「小池ゆりこ」のものであることが認識できる設計になっているんです。
目に入りやすいのは背景と服装、その他も含めてほぼ緑と白で埋め尽くされていること。
そしてその緑はしっかり「小池百合子ブランド」と結びつきつつ、名前がしっかり目立つように配置されている。
選挙で「名前を書いてもらう」ということを考えれば「名前」が目立ち認識できるというのは非常に重要です。それをこの色数のなかで見事に実現しています。

小池候補のポスターで唯一緑白以外の色を写真以外で使っているのが「東京大改革2.0」です。しかもそれが色相環で反対に位置する目立つ色を使っており「重要だ」ということがすぐにわかります。
だからこそそれが目指す政策なのだということが伝わるようになります。
キャッチコピーも
「都民ファースト」ということを言わずにその内容を端的で簡潔に言い表しています。
新型コロナ対策についても記載されていて重要事項として1つ取り上げるべき政策が何なのかという姿勢も窺えます。

つまり遠くから見て情報がキャッチでき、近くで見ればその政策内容を印象付けられる、かつ候補者のブランディングとしても働いていて、非常に機能的にデザインされた選挙ポスターです。

選挙ポスターはあくまで詳細を伝えるのではなく「ビジュアルで名前を政策を向かうベクトルを印象付ける」という機能をよく理解した上で設計され洗練された印象です。

宇都宮候補の張り替えられたポスター

さてポスター張り替えをした2候補のうち宇都宮候補のポスターから見ていきたいと思います。

まずは張り替え前のポスター

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わりと淡白に作られています。
白の面積が多く、確かに「正直、公正」のイメージと白については相性がよく、イメージとして敢えて白を選んだと言われてもそこそこ違和感はありません。
ただこれは選挙ポスターなのです。
選挙ポスターとは掲示場に貼られるものなのです。

もう一度全体で選挙ポスターを見てみましょう。

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そう、掲示場は「白い」んです!
そのため「白」を基調にすると「印象が薄くなる」のです。
逆に白を効果的に使えばそこだけ「抜けて」見えます。
「小池」や「山本太郎」という文字が比較的目に留まりやすいのはそういった効果があります。

つまりポスターを見る場所で、ポスターのビジュアル的機能が不十分なのです。
また「正直、公正」というキャッチコピー以外の文章もここで見るには冗長です。

それを踏まえて張り替えられた宇都宮氏のポスターです。

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背景色をつけて文字を白で抜いてきました
キャッチコピーも公正のあとに「、」をつけることで3拍子のようなリズムをつけようとしていることが窺えます。
また長い文章をシンプルな1センテンスに変え、詳細な内容をQRで知れるように誘導している点も大きく変わった点です。

ビフォーアフターです。

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イメージカラーも深い青と元々名前のオレンジを使っています。
これは立憲と共産のポスターでよく使用される色合いです。参院選のポスター参照支援政党を書き足され、選挙の状況としてそのカラーを背負い政党の後押しを強くすることも考慮されているように感じます。

政党の後押しをより強く求めたかは想像ですが、少なくとも最初の選挙ポスターより情報の整理がされ、それぞれの情報が伝わりやすいビジュアルに変更されたのは間違いありません。

山本候補の張り替えられたポスター

山本太郎候補もポスターを張り替えています。
まずは最初のポスターから

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「選挙ポスターってこういうものですよね」感のある選挙ポスターです。

名前は掲示場全体でも見やすいのですが、
右側の文章はキャッチコピーとしては、2センテンスに分かれていて長く、すっと頭に入ってきて記憶に残るものかというと甘い感じがします。

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小池候補のキャッチコピーと比較すると明らかに性質の違いが見えてきます。

【小池】東京の未来は、都民と決める。
【山本】あなたはすでに頑張りすぎている。本当に頑張らなければならないのは政治だ。

どっちかの文章覚えるとしたら?どっちのほうがリズム感よく読めるか?
そういったことを考えるとやはり最初の山本候補の選挙ポスターの文章は「キャッチコピー」化されたものではないということなのです。
それは意図は伝わっても、記憶に残らない。
蛇足ですが小池候補はキャッチコピーを多用し良くも悪くも印象付けることは、おそらく新型コロナ対策のあらゆる面で人々の知るところだと思います。
その点で圧倒的に差ができていることをおそらく感じ取ったものと思われます。

そうして張り替えられたポスターがこちら。

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掲載した政策も具体的に新型コロナ対策の15兆円に絞り、非常に印象の強い言葉を並べています。
しかもこの「ピンク」の使い方もよく考えられていて、パッと見た時に「ピンク」が読まれたい言葉として設計されているものになります。

さてビフォーアフターです。

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伝えたいことが明確に打ち出されたビジュアルになっています。
れいわ新撰組という表記もロゴと名前の横にあったものを、ロゴに集約するような情報の整理もされ、写真も変えています。
写真も選挙のいろんな場面で見せた姿勢が反映されたようなチョイスです。
「いわゆる選挙ポスター」を作りました!というものから、しっかりと「ブランディング」されたポスターに生まれ変わったというわけです。

実はこの「たりないのは愛とカネだ」というキャッチコピーは「選挙公報」では「今政治に足りないのは、あなたへの愛とカネ」と書かれています。
これをさらに洗練されて絞り出した本当の意味のキャッチコピーです。

主張の内容は構想はあったと思われますが、それを「伝わる表現」に落とし込むということまで絞り込めていなかった、ということだと思います。
「伝わる表現」とは極限まで針の先を研いで細くして射るような研ぎ澄まされたものが必要なんだと痛感しました。

改めて張り替えられた全体像

張り替えられた後には他の候補のポスターも増えてきており、改めて選挙ポスター全体として見てみましょう。

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最初と比べると、しっかりと宇都宮候補と山本候補の印象が強まっているのがわかります。

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掲示場という場所で見る想定など総合されたビジュアルとしてのアウトプット
研ぎ澄まされたキャッチコピーや必要最低限のテキスト
ビジュアルにしっかり落とし込める研ぎ澄まされたブランド力

そういった総合的なものがないと
内容が練られていてもビジュアルに落とせず伝わらなかったり
きれいには作れても伝えたいことが明確でなくなってしまいます。

選挙ポスター絵解きシリーズ最初の参議院選で結論として書いた内容がいかに大事かというのが改めて感じられます。

その選挙ポスターは政策を真ん中にして、見る場所のことを考え設計しているか。

まずは政策をどういう言葉で表現しどう印象付けどう伝えていくかという
研ぎ澄まされた文言や候補者自身の「ブランド」が必要で
それと同時に「見る場所のことを考え設計」することが必要。

実は最初からそれをいとも簡単にクリアして見せたからこそ「デザインとしては小池候補の圧勝」と言われたのでしょう。

毎度選挙ポスターを解くということで書いていますが、本当にデザインすべてにこういうことが言えるのだと思うと身が引き締まる思いがしますね。

今回も非常に勉強になりました。

また後日、3部構成の残り2本を書きたいと思います。
(2)政治ポスターで「小池候補」を思わせるポスター!?
(3)北区都議会議員補欠選挙のポスター
ちなみに北区都議補選のものはSNSで騒がれたアホみたいなポスターのことじゃなくて、もっとちゃんとデザインの意図を読み解きますw

読んでくれてありがとう!心に何か残ったら、こいつにコーヒー奢ってやろう…!的な感じで、よろしくお願いしま〜す。