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既婚ゲイの居場所

昨日は3時過ぎまで眠れなかった。「明日は在宅だから、まぁいいや」なんて思っていたけれども、頭が冴えているわけでもなく、かと言って身体は少し怠いし、疲れ気味なのに、どうも寝付けない。モヤモヤ・イライラしてきて、2時過ぎに少し走りに行った。珍しく涼しかったし、誰もいない街中を(好きなサカナさんを聴きながら)走るのは気持ちよかったのだけど、さて帰ってきて、熱いシャワーやミストを浴びても、いまいちサッパリしない。

ベランダのテーブル席でノンアルを飲みながら、好きな「もののけ姫」や「The Last Emperor」のサントラを聴いた。頬を涙が伝う。マンションからの風景や明滅する照明が滲んできた。泣ける。本当に泣ける。

この二つの映画、いつも自分と重ねてしまう。こんなことを言った時、元彼の「つよし君」から「なんかお高い感じというか、なんか周りを見下している感じがする」なんて、相当な嫌味を言われたことがある。僕はその時、めちゃくちゃ怒った。キレた。目の前の机を蹴り飛ばした。机の上のお酒も食べ物も、散らかってしまった。今でも覚えている。

泣きながら「たいち君」のことを思い出していた。もう一度会いたい。彼は「どっちの映画も、いかにもゆういちが好きそうだな」なんて言っていたっけ。切なくて美しいメロディに浸っていた。涼しい空気と旋律と思い出と渾然一体となって、僕は椅子に凭れていた。

やっと見つけた「一瞬の居場所」だった。
曲が終わった。夢から醒めたような感じだった。現実に戻った。まさと先輩にも、りょう君にも、たいち君にも、もう会えないのか。そう思うと、涙が出た。刹那、刃物で思い切り胸を突かれたように、心臓が大きく脈打った。

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「違う。お前なんかじゃない、俺らが想っていたのは!」こんな風に、四人から言われたような気がした。自分が自分にも言った気がする。「お前なんかじゃない」。そんな気がした。そう、僕の思い込みなのかもしれないのだ。そうだ、思い込みかもしれないのだ。呆然となった(情緒不安定)。僕は、フラフラになって寝室に戻った。ベッドに横になったら、いつの間にか寝ていた。確か3時を過ぎていた。

最近、お気に入りの場所がある。隣の駅の少し奥に入った所にあるコワーキング・スペースで、仕事以外でも読書や勉強をするために、頻繁に通っている。オーナーが気さくな人で、とてもアットホームな雰囲気だし、清潔感にあふれた空間で、とにか。受付の女性(曜日によって違う)がとてもかわいい。お一人は明らかにHSPの方で、優しくて柔らかく、とても繊細な雰囲気が伝わってくる。イラストレーターでもあるようで、僕はこの人がとても好きだ(雰囲気としてね)。フリードリンク(一通りのお茶+豆から挽いてくれるコーヒー、なぜか牛乳も飲み放題)、いつ行っても程よい人数(=殆どいない)で、とにかく居心地がいい。リラックスできる閉店時間が来ると帰らねばならない。終わると居場所が無くなる。

隣のマンション裏に、謎のスペースとベンチがある。4畳くらいのスペースで目の前は景色がいい。時々そこで本を読む。ここも秘密基地のひとつ。しかし時間が来ると帰らねばならない。

けっきょく僕には、居場所がないのだ。
そして僕はどこに居て、誰を待っているのだろう。

けれども私は待っているのです。胸を躍らせて待っているのだ。眼の前を、ぞろぞろ人が通って行く。あれでもない、これでもない。私は買い物籠をかかえて、こまかく震えながら一心に一心に待っているのだ。私を忘れないで下さいませ。毎日、毎日、駅へお迎えに行っては、むなしく家へ帰って来る二十の娘を笑わずに、どうか覚えて置いて下さいませ。その小さい駅の名は、わざとお教え申しません。お教えせずとも、あなたは、いつか私を見掛ける。太宰治「待つ」


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