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既婚ゲイの「僕」

「ノルウェイの森」を思い出して、急にやりたくなってきた。
外でやりたい。豪雨の中で(ただし蒸し暑い豪雨の中で)交わるのも、なかなか洒落ていると思う。声も聴こえないし、周りから見えない。気にすることは何にもない。やりたくてたまらない。メリメリと搔き分けるように、相手に中心を挿れたい。

色々な人に「村上春樹の“僕”っぽい」と言われる。誰かが言うと「そうそう!分かる分かる!特に「ノルウェイの森」の“僕”っぽいよねー。雰囲気とか色々ねー」なんて盛り上がる。ハルキストがその場にいると「永沢さんにも似ているよねー」など、ご批評を賜ることもある。ああ、オサレに出会って、簡単にセックスして終わる、あの“僕”か。よーわからん。

たいち君は村上春樹が大好きだった。本棚にはハードカバー本が並んでいた。もちろん「ノルウェイ」もあった。僕は社会人になってから村上春樹を読み始めた。国文にいる間「も」全く持って興味なし、スルーしていた。たいち君のことを思い出して「ノルウェイ」を読んだ。メジャーなものも一応読んだ。英語版の「カフカ」も読んでみた。

いつも驚くのは、彼(たいち君)が話していたフレーズ、特に僕がよく覚えているフレーズの殆どが、春樹さんの一節にとても似ているということだ。前後の文脈を踏まえると、しみじみしてしまう。

僕はときどきひどく不安な気持になってしまう。ひょっとして自分はいちばん肝心な部分の記憶を失ってしまっているんじゃないかとふと思うからだ。
孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友だちを作らないだけだよ。そんなことしたってがっかりするだけだもの。
死んだ人はずっと死んだままだけど、私たちはこれからも生きていかなきゃならないんだもの。
こんな風に雨が降ってるとまるで世界には私たち三人しかいないって気がするわね。

“僕”はたいち君から真顔で、次の一節(それぞれ違う場面の一節だけれども)を言われたことがある。いずれも「ノルウェイ」から。

たぶん世界にまだうまく馴染めてないんだよ。
いつまでも忘れないさ。君のことを忘れられるわけがないよ。

僕のことはいまでも覚えている? ——(無言)
さて、外は豪雨だ。大雨だ。僕を呼んでいる。


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