新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

評価機関がカバーしていない企業のESGをどのように評価するか~キュービーネットホールディングスを事例に~

みなさん、こんにちは。スパークスの清水裕です。

昨今、企業のESG(環境、社会、ガバナンス)の評価手法が進化し続けています。
特に進捗が目覚ましいのがESGデータ。
さまざまな評価機関がESGの実態をとらえるために工夫をこらしています。

しかし、評価機関が提供しているESGデータについては大きな問題点もあります 。
何かというと、全ての企業をカバーしていないこと。
ESGを謳ったファンドの中にはデータのみを基準にした投資スタイルもありますが、評価機関にカバーされていない企業はそのようなファンドにとって投資対象外になってしまいます。 

評価機関の対象でなくてもESGについてきちんと配慮している企業はあるわけで、それをどのように見極めるのかということもアナリストの腕の見せ所であると我々は考えます。

そこで、今回はほとんどの評価機関の対象外となっている企業の一例として、キュービーネットホールディングス(以下キュービーネット)を取り上げて、スパークスのサステナブル投資チームがESGをどのように評価しているのかを解説し、加えてどのような対話をしているのかについて紹介させていただきます。

ESGを評価する視点

まず、我々が企業のESGをどのようにとらえているのかを紹介します。ここでは①ステークホルダー価値、②経済的価値、③企業の実態価値という三つの価値がポイントになります。

① ステークホルダー価値を把握する

我々はESGについて考えるとき、まずは全体感を把握することを重視しています。
ここでは、幅広いステークホルダーに価値を提供できているか、言い換えると企業を取り囲むさまざまな主体と良い関係を築けているかどうかという点を見極めます。
具体的な確認事項は以下の点です。

まず、ガバナンスがしっかりしているか。
経営体制や資本構成などを確認します。

次に、ステークホルダーの輪が広がっているか。
ステークホルダーは株主、顧客、従業員、取引先、地域社会、地球環境など様々ですが、企業が事業継続に重要な相手から順に、より広い範囲に配慮しようとしているかを見ます。

最後にステークホルダー同士の利害バランスが崩れていないか。
成長を急ぎすぎるとステークホルダー同士の衝突が発生しかねません。
たとえば顧客サービスを充実することを急いだばかりに従業員が過重労働になるような状況が発生しているならば、それはバランスが崩れていると言えるでしょう。

②ESGの取り組みが経済的な価値につながっているかを確認する

ステークホルダーとの関係性が良好である場合、今度はそれが経済的価値にどのように影響しているのかを確認します。

たとえば従業員との関係改善をすすめている企業があったとしましょう。
その取り組みがうまくいった場合の効果を見通す際に「優秀な人材の採用が増える」という非財務情報を確認することで終わらせてしまうのではなく、それによって製品・サービスの質が上がり「売上が増える」とか、経営人材が充実して「リスクが低下する」といった、財務面との関係を具体的にイメージするのです。

ESGについて取り組みを強化しているという企業の中には、経済的価値への「つながり」を明確にイメージできていないケースも散見されますが、そこにとどまっていてはどれだけESGを積極化したとしても投資対象として高い評価をすることはできません。


③企業価値計測に織り込む

我々は投資を実行する際に、その企業の実態的な価値がどの程度なのか推計します。
ここで先ほど見たESGの経済的価値への影響を、定性評価という形で推計プロセスに反映させます。
たとえば売上高の増加、利益率の改善、リスクの低下を反映した割引率の調整などがそれです。

もし評価機関からのESGデータがある場合にはそれも加味しますが、あくまでも追加情報という形ですので、データがない場合にはないものとして扱うことで企業価値を計測します。


キュービーネットのESG

ESGの評価プロセスに続き、キュービーネットの事例を見てみましょう。概要にふれたあとに、ESGのポイントを示します。実際の投資プロセスではこれらの情報を元に企業価値を計測します。

キュービーネットの概要
キュービーネットは故小西国義氏によって1995年に創業されたヘアカット専門店の運営会社です。シャンプーやひげそりを省いた「10分1000円」という独自の店舗スタイルを開発し、時間節約や低価格などのニーズを満たしながら事業を拡大してきました。

2009年に現社長の北野泰男氏が経営トップに就任すると、それまでのフランチャイズ型から直営店型へとビジネスモデルを切り替え、人材育成を経営戦略の柱の一つに据えるようになりました。
また、アジア地域や北米地域で積極的な海外展開を推進し、国内約580店舗、海外約130店舗を展開するグローバル企業へと進化を遂げて、現在に至っています。


人材育成と雇用維持
キュービーネットのステークホルダー価値として我々が注目している点は、何よりもヘアカット人材の育成と雇用維持についてです。

ヘアカットは労働集約的な事業であり、人口が減少している日本では構造的な人手不足の影響を受けやすい産業です。また、古くからの慣習である徒弟制度が今の時代にそぐわなくなっているため、新規の人材育成が進みにくくなっています。

この状況を放置すれば将来的にヘアカットの業界としての供給力が大きく減ってしまうことになりかねません。キュービーネットは業界リーダーとして、経験の浅いスタッフを一人前に育成するスクールを社内で整備し、産業の維持発展に努めています。
また、2020年春の時点では新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、店舗の休業や営業時間の短縮をする一方で、従業員の雇用を維持することを明言しました。

このような人材面での施策はシェア拡大という形で経済的価値につながると我々は評価しています。
国内の理美容業界は個人経営が多く、その半数以上で経営者は60歳を超えており、その多くは後継者がいないという問題を抱えています。
スキルの高いヘアカットスタッフを継続的に育成することは、将来的に中小企業店舗が閉鎖した場合の受け皿を用意することとなり、シェアの上昇の形で中長期的な成長にプラスに作用すると考えられます。


環境対応
キュービーネットは地球環境への貢献についても積極的です。
同社の店舗はシャンプーを行わないスタイルのため、水や電気の使用量が一般の理美容店に比べて少なくすみ、さらに使用している電力については可能な限り再生エネルギーを使用する方針を掲げています。

環境対応を進めることは企業ブランドの強化につながり、国内はもちろんのこと、すでに売上の20%を占めている海外の事業推進において効力を発揮することが予想されます。
地球環境に対しての良い活動を積極化してきちんと開示をしていくことで、現地顧客からよい地球市民であるという評価を受けられるようになり、結果として集客やパートナーとの連携にプラスに働くことが期待されます。

対話内容

最後に、我々がキュービーネットとどのような対話を行ったかを紹介させていただきます。

コロナ禍における対話
我々はキュービーネットが上場してからIRミーティングを通じて対話を重ね、人材育成によって長期的な発展を目指す姿勢に共感をして投資を行いました。
その後に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて業績が急速に悪化したため、キュービーネットは昨年6月の決算期を前に配当支払いの停止と役員報酬の減額を発表しました。

この発表を受けて、我々は同社とミーティングを行ったうえで、同社の経営姿勢を支持する旨のコメントを伝えました。
正直に言えば、今回の無配当を支持するというコメントは機関投資家としては難しい判断でした。
資金を預けてくださっている受益者の利益を配慮した上で、それが妥当かどうかということを見極める必要があるからです。
今回は、無配当とあわせて発表された雇用維持策は業界内における同社の評判を高め、中長期的な事業発展にプラスに働くと評価しました。

この時に我々が判断の指針の一つとしたのが国連責任投資原則(PRI)の事務局からのメッセージ*です。
そこには、「投資家は企業に対して、短期的な役員報酬や株主への配当よりも、従業員や取引先を含む企業自身の中長期の発展を優先するように働きかけるべき」という内容が書かれていました。
PRIのメッセージのみが判断基準というわけではありませんが、どのような振る舞いがサステナビリティに寄与するのかが見えにくかった大混乱の中では、我々の考えを整理することにプラスになりました。

https://www.unpri.org/covid-19-resources/how-responsible-investors-should-respond-to-the-covid-19-coronavirus-crisis/5627.article


環境についての対話

直近のミーティングにおいて我々は温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを議題に対話を行いました。日本政府のカーボンニュートラル宣言を受けて、すべての企業が温室効果ガス排出の削減に取り組むべきと考えているからです。

すでに述べた通り、キュービーネットは店舗モデルそのものが省エネであり、そこで使う電力は可能な限り再生エネルギー由来を使う方針です。我々はそのような同社の姿勢に対しポジティブなフィードバックをして、今後もさらに進めてほしいという要望を伝えました。
なお、店舗によっては電力契約が入居している建物のオーナーによってなされることから、再生エネルギー由来の電力を契約したくてもできないという話もあり、新たな課題を共有するというところで対話を終えています。

今後の同社との対話においては、入居している不動産会社に再生エネルギーの利用を促すことや、立地選定の基準に環境対応を盛り込むことなどを期待する事項として伝えたいと考えています。
また、我々が上場している不動産会社とミーティングを持つ際に、テナント企業の再生エネルギー利用を支援するように促すことも必要になるのかもしれません。


まとめ

今回はキュービーネットを事例として、ESG評価の解説とESGに関連した対話の紹介を述べさせていただきました。

我々は、企業のESG活動が優れていれば、ESGの評価機関がカバーしているかいないかに関わらず、適切に評価したいと考えています。その際には企業が経済的価値へのつながりを意識して取り組んでいるかという点を注視します。

そして、IRミーティングの場を通じて我々の期待を企業に伝えていくことで、日本全体のESGの改善を後押ししつつ、運用するファンドのパフォーマンスの向上につなげていくことを目指してまいります。


最後までお読みいただきありがとうございました。

※こちらはサステナブル投資チームによる2021年3月末のマンスリーレポートをもとに再編集しております。内容はチームメンバーの見解を元に書いているため、スパークス全体の見解とは異なることがありますのでご了承ください。また、記事にある企業名等の内容は参考情報であり、特定の有価証券等の取引を勧誘してはいない点もご理解いただけますよう、お願いいたします。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
24
スパークス・アセット・マネジメント(https://note.sparx.co.jp/)のサステナブル投資チームのファンドマネージャーです。IRミーティングをご希望される方は、是非こちらにご連絡ください。https://www.sparx.jp/contact.php