どうする、TCFD対応?~気候変動インパクトの金額換算を実現している丸井グループの取り組み~
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どうする、TCFD対応?~気候変動インパクトの金額換算を実現している丸井グループの取り組み~

政府のカーボンニュートラル宣言を受けて注目度が高まる気候変動対策。
今年6月にはコーポレートガバナンス・コードが改訂され、上場企業は気候変動による財務インパクトを開示することが求められるようになりました。

ここでポイントになるのが「TCFD(気候関連財務情報タスクフォース」)が提唱する開示フォーマット。
しかし、このTCFDフォーマットは世界的に見てもまだ方法論の確立段階で、多くの企業がどのように取り組むか模索中です。

そこで、こちらの記事では先進的な取り組みを行っている丸井グループのTCFD開示やサステナビリティについての活動を取り上げてみたいと思います。
開示内容を確認することに加えて、その背景にも迫ってみましょう。

※5分程度で読み終わる内容です。

丸井グループの概要

まず丸井グループの概要を見てみます。
丸井グループは1931年の創業時から、一貫して小売業と金融業を両輪としたビジネスモデルを運営してきました。
家具販売(小売)の割賦(金融)で創業し、その後も小売と金融の両輪ビジネスモデルを維持しながら、扱う商材や提供形態を時代と共に変化させ、都市型商業施設の「マルイ」とクレジットカードの「エポスカード」に事業形態を進化しました。

現在取り組んでいるのは小売業、金融業ともに顧客との関係を強化して安定収益型のビジネス比率を高める取り組みです。
小売業においては消費を促進することで売上を極大化するという考えとは一線を引き、店舗の役割を商品やサービスを体験する場所と設定し、オンライン直販ブランドの体験ショップなどを誘致することに力を入れています。
また金融業においても、家賃や電気代の支払いのような安定的な支払を取り次ぐことで顧客との関係性を強化する施策を進めています。また単に電気代のカード払いを取り扱うということに留まらず、再生可能エネルギー100%の電力を提供する「みんな電力」と戦略的なパートナーとなることで、サステナビリティ意識の高い生活者との関係を強化するという施策も組み込まれています。


TCFD開示

次に、丸井グループのTCFDフォーマットでの開示について見てみましょう。

丸井グループはサステナビリティの取り組みにおいて極めて先進的であり、その一例が、TCFDフォーマットで気候関連の財務影響の開示です。
同社は他社に先駆けて、将来の気候変動が業績に及ぼす影響を以下のように「金額ベース」で開示しています。

・物理的リスク(*1)――約49億円
・移行リスク(*2)――年間約30億円
・事業機会――期間通算74億円
・コスト削減効果――年間約25億円
(対象期間:2020~2050年)
*1:洪水などの被害想定額
*2:経済の仕組みが変わることによる費用負担

この数値は計算ロジックも含めて有価証券報告書などの投資家向けの開示資料において、開示されているので、誰でも閲覧することができます。

TCFDは気候変動が将来的に企業活動にどのような影響を及ぼすかということを開示する内容であり、その性質から多くの仮定や不確実性を含み、開示結果の正確性については反論の余地があります。

私も丸井グループの企業価値計算において同社の開示数値をそのまま使用してはいません。
それでもなお、金額ベースの数値を開示していることは投資判断にプラスの影響につながっています。

ここで重要なのは、開示された数字の正確性ではなく、開示に取り組んでいる「企業姿勢」にあります。
財務報告における貸借対照表や損益計算書のような決まった型が定まっていない「TCFDフォーマットでの開示」。
不確実性を承知の上で自らの考えを示すことは、議論のたたき台を提供することにもなりますし、他の企業が取り組むときのガイド役になります。

知恵を絞って事例を作り、共有の知恵を構築するという活動に参加するという経営姿勢を見ると、将来的なリスクへの適応力についての安心感を覚えます。
また、今後気候変動への関心を持つ人が増えてくれば丸井グループの高いサステナビリティ意識が企業のブランド価値向上につながるという期待にもつながります。

丸井グループが発行している「共創経営レポート」という名の統合報告書を見ると、TCFDフォーマットでの開示のみならず、経営の隅々までサステナビリティを考慮する仕組みが組み込まれていることが鮮明に表現されています。
我々サステナブル投資戦略ではこのような丸井グループの経営姿勢が企業の経済価値に結びつくシナリオが明確になってきたと判断し、2019年から同社に投資を行っています。


サステナビリティ経営に取り組む背景

丸井グループがサステナビリティを経営の中核に据えている背景は何か。
それは創業の精神と、それを軸にした青井浩社長の経営観にあると考えられます。

丸井グループの創業者である、故青井忠治氏は「信用は私たちがお客さまに与えるものではなく、お客さまと共につくるもの」という考え方を持って経営に取り組んでいたとされています。

通常、金融業者が顧客にお金を貸す(信用を供与する)場合、職業や年齢などの属性、担保の有無、過去の借入と返済の履歴などを参考に、お金を貸すかどうかという判断がなされます。
これに対して、丸井グループが取り組んでいるのは、過去の借入履歴がない人(若年層など)に対しても、無担保で信用を供与します。最初は小額の利用からで、返済がきちんとなされるのであれば取引可能金額を大きくするという方法です。
つまり、もともと信用履歴のない人と一緒に、その人の信用実績を作るということです。

しかし、バブル崩壊以降に生活者の消費行動が停滞する中でこのビジネスモデルがうまく機能しなくなり、同社は小売部門とは結び付かない、単なる融資(消費者金融)を強化した時期があります。その当時はこれによって利益が上がったのですが、2007年の貸金業法改正により貸出金利の上限が引き下がったことに加え、過去に過剰に得ていた金利収入の返済が求められることとなりました。

現社長の青井浩氏(創業者の孫)は2005年に就任しましたが、ほどなくして貸金業法が改正され、その後にリーマンショックや東日本大震災が重なったことで、7年にわたり経営危機が続きました。
この経営の低迷時期に青井社長は創業からの経営の歴史を見直し、改めて創業者の精神である「顧客とともに信用を作る」という考え方に立ち戻ったと言います。

そしてこの共創という考え方を更に深く追求し、あらゆるステークホルダーと共に価値を作っていくという共創経営という理念を構築していきました。
2019年にはステークホルダーとして従来考えていた顧客、取引先、株主、地域社会、社員に加え、「将来世代」を含め、地球環境や人間社会をより良いものにしていくというサステナビリティの考え方と事業戦略の融合を更に高いレベルに引き上げました。

丸井グループと我々の対話

丸井グループはステークホルダーと価値を共創するという考えの元、投資家との対話にも積極的です。

経営陣やIR担当者が投資家と事業戦略やサステナビリティについての考えを議論することはもちろんのこと、それ以外にもとてもユニークな取り組みをしています。

特徴的な事例として、我々が経験したのは不動産管理部門との対話です。
同社にはマルイの店舗などの不動産を管理する部門があります。その部門が不動産のサステナビリティ認証を取得するべきかどうかを検討しているということで、我々にESG投資家としての意見を聞かせてほしいというリクエストが来ました。

現場担当者と投資家の対話の場。これは企業側にとって情報収集の場ということにとどまらず、我々投資家側から見ると日頃IRから説明を受けている「共創のコンセプト」を体感できるフィールドリサーチの機会です。「共創」というステップが業務の中に組み込まれている様子を肌で感じることができるので、IRミーティングの場で受ける説明に対しての納得感が高まります。

対話の中では同社が認証取得を検討している背景や、認証取得を企業価値向上に結び付けるための考え方などを確認し合いました。
一連の対話で判明したのは丸井グループ内においては環境対応だけではなく経済合理性についてもかなり深く議論しているということです。
経営やIRに直接関与していない部門との対話で、環境対応と経済価値についての両立が検討されていることが確認できたことは、丸井グループの実像を把握する上で大きな収穫となりました。

日本でも経営戦略においてサステナビリティを考慮することが一般的になってきました。このトレンドは歓迎すべきですが、一方で深い議論をせずに社会貢献のみに力点をおく企業が増えることは懸念事項でもあります。
営利企業の場合、経済合理性がなければその活動は中長期で持続可能とは言えません。
社会性だけでなく、いかにして経済性との両立をはかるかという点は極めて重要なポイントです。


まとめ

以上、丸井グループのサステナビリティ活動について、対話事例を含めて見てみました。
本記事で書いた丸井グループの特徴をまとめると以下の点になります。

・TCFD開示において先進的な取り組みを行っている
・サステナビリティ意識の高さは創業の精神を大切にしている経営者の意思によるところが大きい
・共創の精神や、経済性についての意識の高さが現場にも浸透している

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


※こちらはサステナブル投資チームによる2021年7月末のマンスリーレポートをもとに再編集しております。内容はチームメンバーの見解を元に書いているため、スパークス全体の見解とは異なることがありますのでご了承ください。また、記事にある企業名等の内容は参考情報であり、特定の有価証券等の取引を勧誘してはいない点もご理解いただけますよう、お願いいたします。

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スパークス・アセット・マネジメント(https://note.sparx.co.jp/)所属。サステナブル投資チーム、ファンドマネージャー。投資対象はESGを軸とした経営改善企業を中心とする。対話を通じてその活動をサポートすることでステークホルダー価値と経済価値の両立を目指す。