ファンドマネージャーが「非保有企業」と対話する理由とは?
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ファンドマネージャーが「非保有企業」と対話する理由とは?

ファンドマネージャーが投資先企業と対話を行うのは一般的な話ですが、私は投資していない「非保有企業」との対話も頻繁に行っています。 

こちらの記事では今年に入って当戦略の保有分を全て売却した不二製油グループ本社を事例に、非保有企業と対話する意図や、どのように対話を行っているかということを紹介させていただきます。 

非保有企業と対話を行う理由 

我々は企業との対話において、保有か非保有かに関わらず、拒絶されない限り先方の価値向上に貢献することを目的として対話を行います。 

保有企業の場合は株価が上がればファンドパフォーマンスにプラスになるので、価値向上を目指し対話を行うことは合理的です。 

一方で非保有企業の場合は、株価が上昇してもファンドパフォーマンスには影響を与えないので、そこに関与することは一見すると無意味です。更に市場全体との比較の観点からは、非保有企業の株価が下落するとファンドの相対パフォーマンスが良くなるため、非保有企業の価値向上に関与するのはむしろ逆効果という見方も成り立ちます。 

無意味もしくは逆効果という見方もある中で、我々が非保有企業の価値向上に関与しようとする理由はなぜか。それは市場全体の底上げと、将来的な投資対象の発掘という二つの意味があります。 

株式市場全体の価値が高まって魅力が増せば、新規の投資家を呼び込むことになり市場の底上げにつながります。もちろん4000社近くある上場企業のうち数社とコミュニケーションをとってもそのインパクトは僅かですが、何もしないよりかはプラスだと我々は考えます。 

また、どんな「優良企業」も市場が将来の成長を全て織り込んでしまうと株価上昇は鈍化することから、継続的に良好なパフォーマンスを目指すためにはファンダメンタルズの改善シナリオが市場に未だ評価されていない企業に新たに投資をすることが必要となります。そして、その見極めのために日頃から非保有企業とコミュニケーションをとることが欠かせません。 

スポーツチームで例えてみれば、「保有企業はレギュラー選手であり、非保有企業は控え選手」です。良いチームになるためには全選手の強化を目指した上で、その時々で最もコンディションの良い選手を試合に起用することが求められます。つまり非保有企業はチームメイトであり、敵チームではありません。 

不二製油グループ本社への投資行動の経緯 

当戦略は2017年に食品素材の製造販売を営む不二製油グループ本社に投資しました。 

投資した理由は同社が事業の高付加価値化を進めるという戦略と、ESG対応の高度化を評価したことにあります。 

一方、昨年から保有分の一部売却を開始し、今年に入って全て売却しました。その理由は、①M&Aによる規模拡大によって経営のバランスが崩れたと判断したこと、②筆頭株主の伊藤忠商事㈱が同社への出資比率を引き上げたこと、③我々がESG対応を強化したこと、の3点です。 

このうち②については、当戦略で伊藤忠商事㈱に対しても投資をしていることから、間接的に不二製油グループ本社への保有分が増加した形となりました。 

また③については気候変動や水資源に対して企業が与える影響を低減する要請が急速に高まっていることから、食材調達の上流工程に関わる同社の事業リスクを以前より高く見積もることとしました。 

これらの結果として、同社への直接的な投資を控え、伊藤忠商事㈱への投資に一本化する決断をしました。 

保有株を売却した後に行った対話 

不二製油グループ本社との対話ですが、直近は我々が同社株を全売却した後に同社から「統合報告書(企業の財務情報に加え企業統治や社会的責任、知的財産などの非財務情報をまとめた報告書)のフィードバック」を求められたことからミーティングを実施しました。 

ミーティングの冒頭で、同社から株式の売却理由について質問を受けたことから、上述した売却理由について説明を行いました。 

ESGについてのリスク評価を厳しくしているという理由の説明においては、欧州諸国においてサステナブルファイナンスの開示規制が強化されていることなど、当戦略が環境基準を厳しくした背景も含めて説明しました。その結果、機関投資家の投資判断において地球環境要因が日増しに重要度を増していることについて、先方に気付きを提供できたと感じています。 

ミーティングの主題であった統合報告書へのフィードバックですが、我々からは以下の点について指摘させていただきました。 

まず、ポジティブな点としては、報告書の冒頭に経営理念、沿革、事業ポートフォリオが記載されていて初見の人にも分かりやすくなったことや、筆頭株主の伊藤忠商事㈱との関係についての記述が詳しくなりガバナンス体制の理解に役立つ内容になったことが挙げられます。これらは昨年に我々から指摘させていただいた事項であり、同社が外部からのフィードバックを改善に活用する姿勢を確認できたことは高く評価できます。 

一方で改善を期待する部分としては以下のような点を伝えました。 

・経営課題にどのように対処するのかという方針の説明を充実してほしい 
・価値創造プロセスの説明において人的資本や社会関係資本についての記述を期待したい
・温室効果ガス排出量について実績データを記載してほしい

不二製油グループ本社はポジティブな点のみならずネガティブな点についても前向きにフィードバックを受け止める姿勢を有していることから、今後も改善を続ける可能性が高いと感じられます。今回我々からお伝えした意見も来年以降の統合報告書に反映いただけることに期待しています。 

なお、同社からは我々の活動に対してもプラス評価できる点や改善アイデアを提示していただきました。具体的には、「ファンドマネージャーが対外的に情報発信する姿勢は対話の前に問題意識を共有できるためポジティブである」という意見をいただきました。その一方で「発信している情報へのアクセスが難しいため、検索性を高める工夫が欲しい」というご意見も併せていただきました。 

このように相互に「気付き」を提供しあえる関係は、スチュワードシップ・コードでも謳われている「建設的な対話」に合致するものと考えます。そして、その関係はお互いが問題意識を共有できれば、株式を保有しているかいないかに関わらず構築可能だと、我々は考えます。 

おわりに 

以上、非保有企業との対話について、不二製油グループ本社を事例に説明させていただきました。 

また、ファンドパフォーマンスを中長期で良好に保つためには保有企業だけでなく、非保有企業との対話も欠かせない要素ですので、今後も積極的に対応していく方針です。 

不二製油グループ本社については以前にも記事に書いていますので、こちらも参考にしてください。 


※こちらはサステナブル投資チームによる2021年10月末のマンスリーレポートをもとに再編集しております。内容はチームメンバーの見解を元に書いているため、スパークス全体の見解とは異なることがありますのでご了承ください。また、記事にある企業名等の内容は参考情報であり、特定の有価証券等の取引を勧誘してはいない点もご理解いただけますよう、お願いいたします。 


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スパークス・アセット・マネジメント(https://note.sparx.co.jp/)所属。サステナブル投資チーム、ファンドマネージャー。投資対象はESGを軸とした経営改善企業を中心とする。対話を通じてその活動をサポートすることでステークホルダー価値と経済価値の両立を目指す。