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ファンドマネージャーと投資先企業との対話の実態 ~誰と会い、何を話し、どのように考えているのか~

スパークス・アセット・マネジメントのサステナブル投資チームでファンドマネージャーを務めている清水裕です。

私が担当しているのはアクティブファンド、つまり人が判断して運用するファンドです。
その投資プロセスの中で最も重要視しているのは企業とのIRミーティングにおける対話。

なぜなら対話は人間が感性を発揮して、データや書面ではわからない情報を得ることができる場面だからです。

これは、私が投資判断のための情報を得ることだけでなく、企業側に経営の参考となる情報を得てもらうということも意図しています。
実際に、しばしば経営者からは「投資家からの質問やフィードバックをきっかけに新しいアイデアが生まれる」というような意見をきくことがあります。

投資判断に至るまでの人と人との関わりが、新たな気付きをもたらし、価値創造の種になる。
この過程こそ、アクティブファンドを運用する醍醐味です。


そこで、こちらの記事ではこの過程、つまり我々投資チームが「誰と会い、何を話し、どのように考えているのか」ということを、具体的事例を参照しながら紹介します。

誰と会い、何を話し、どのように考えているのか

IRミーティングにおける対応者の役職別に、対話内容と投資判断との関係をまとめると、以下のようになります。

 【IR担当者】
投資家との関係において、企業側の窓口となるのがIR担当者です。
IR担当者とのミーティングにおいては企業概要、事業戦略、ディスクローズ方針などが中心的な内容となります。投資家は、情報収集することに加えて、企業に対してフィードバックや提案を行うこともあります。
ここで、私が注視しているのは「企業が対話に前向きであるかどうか」という点です。お互いを理解し合おうという姿勢がないと、投資したとしても、その後に良い関係を築くのが難しいからです。

【経営者】
経営者に会う際は、その方の人物像に迫るため、経歴や信念などを確認することに多くの時間を配分します。なぜなら経営層、特に経営トップの人間性は我々の投資判断における最も重要なファクターとなるからです。
経営トップの発言はウェブサイトやメディア経由で目にすることができるものの、やはり直接対面して得られる情報が最も有益であるため、経営トップがIR活動に前向きな企業の方が、投資判断をしやすいと言えます。
しかし、経営トップは多忙であり時間調整は簡単ではないため、我々が面会に値すると認めてもらえるように、存在感を高めていくということも調査の質を高めるために必要と考えています。

【ESG担当】
ESG対応に力を入れている企業の場合、その専任部署が設置されています。
我々の投資判断においては、財務情報と同等か、場合によってはそれ以上にESG情報が重要であるため、IR部門の対応が十分でない場合にはESG専門部署とのミーティングを依頼するようにしています。
また、昨今は企業側がESGについて投資家の意見を求める傾向が強まっており、我々がミーティングのリクエストを受ける機会が増えています。
ESG担当者との面談の際は、単にESGのデータを聞くのではなく、ESGが企業価値とどのように関係しているのかという点を深掘りすることに時間を費やし、投資判断の参考としています。

【その他】
上記に加えて、社外取締役や事業部門担当などと対話を行う機会があります。
特に社外取締役は立場上、経営に対する客観的な視点も持ち合わせているため、対話を通じて多くの示唆を得られます。
ただし、日本企業ではまだ社外取締役がIRミーティングに参加するケースが稀であり、対話の機会を得ることは難しい状況です。

事例紹介

では、実際に対話がどのように行われているのかを、具体例を見てみましょう。
ここでは我々が投資をしている日立造船を例にとって紹介します。

【日立造船の概要】
まず、日立造船の概要についてです。
日立造船は英国人実業家のE.H.ハンター氏によって1881年に創設された環境ソリューション企業です。
明治維新後に造船業として設立されましたが、時代の流れの中でアジア企業との競争激化で採算悪化に苦しみ、ついに2002年には合弁会社に造船部門を移管。一方でそれまでに培った技術を基盤に、ゴミ処理施設の建設・運営などの環境関連事業を主力とする企業へと事業ポートフォリオを変革しました。
なお、日立製作所との資本関係もすでに解消しているため、社名から受けるイメージとは異なり、造船会社でも日立グループでもありません。
現在は、2020年4月に新たに社長となった三野禎男氏が掲げる収益性改善を目指す中期経営計画にしたがって、長らくつづいた収益低迷、株価低迷の状態から抜け出すべく、事業の選択と集中や採算管理の高度化を進めています。


【IR担当者との対話】
当ファンドでは社長交代をきっかけに会社に変化が出始めた可能性を感じて調査を開始しました。
IR担当者とのミーティングにおいては、経営が改善方向にあることを示唆する情報を得ることができました。具体的には海外の採算管理強化、不採算事業の見直し、独自の環境技術を活かした気候変動対策への貢献、ESG情報開示の積極化などです。
ただし、この時点では、まだそれらの施策の背景への理解が浅かったため、我々は続けて経営層とのミーティングをリクエストしました。

【経営陣との対話】
日立造船がリクエストに応じてくれたため、我々は執行役員とのミーティングの機会を持ち、その場において、同社の収益意識の高まりやESG情報開示への取り組みなどの背景について説明を受けることができました。
我々が理解したのは、コーポレートガバナンスの改善が大きな原動力になったということ。例えば、不採算事業からの撤退についても社外取締役からの指摘が後押しになったということが感じられました。
我々の確信度が高まる決め手となったのは日立造船側から「株価を上昇させるために必要なことは何か?」という質問がなされたことです。これはシンプルな質問ですが、同社が現状の株価に対して課題を感じており、解決策を探している姿勢を表しています。
その上で、我々から伝えた経営戦略や情報開示についての改善案をきちんと受け止めようとする態度は、投資家をパートナーとして見る意識を感じさせるものでした。
このような一つ一つのやり取りを通じて、我々は最終的に投資を実行する判断を下しました。

【社外取締役との対話】
投資を実行した後、更なる理解のために社外取締役とのミーティングをリクエストしたところ、快諾されて実現に至りました。
上述した通り、日本ではまだ社外取締役がIRミーティングに対応しない企業が多いため、ミーティングに対応することだけでも日本の中では先進的であると評価できます。また、ミーティング自体も、コーポレートガバナンスの改善が着実に進展しているということが改めて確認される内容でした。

まとめ

以上、日立造船を事例に、我々が調査活動の中で「誰と会い、何を話し、どのように考えているのか」について紹介させていただきました。

日立造船のように経営改善が進んでいる企業への投資は「業績改善」と「評価上昇」という二つの要因で株価上昇が期待できますが、改善が進み続けるかは定かでないため、様々な角度から情報を収集することで判断の質を高める必要があります。

また、ミーティングの場で我々からフィードバックやアイデアを伝えることは、企業の活動に推進力を与え、経営改善の成功確率を高めることにつながります。

このような活動が、最終的に多くのステークホルダーにとって良い結果をもたらすことを願い、今後も企業との対話を積極的に行ってまいります。

※こちらはサステナブル投資チームによる2021年4月末のマンスリーレポートをもとに再編集しております。内容はチームメンバーの見解を元に書いているため、スパークス全体の見解とは異なることがありますのでご了承ください。また、記事にある企業名等の内容は参考情報であり、特定の有価証券等の取引を勧誘してはいない点もご理解いただけますよう、お願いいたします。

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スパークス・アセット・マネジメント(https://note.sparx.co.jp/)所属。サステナブル投資チーム、ファンドマネージャー。ESGを軸とした経営改善企業を投資対象とする。対話を通じてその活動をサポートすることでステークホルダー価値と経済価値の両立を目指す。