日本の数学 #001

読者諸君へ

 昔から今に至るまでの、日本の数学といふものは、大体どんなものであるか、又それは何故さうなつたのか。――かう云つたことは、少しでも学問や思想文化、或はわが日本のことについて、関心を持たれる方々なら、一応心得ておいてもよいことだと思ひます。
 ところが、残念なことには、かういふ題目について、ごく簡単に、ごく解り易く、一般大衆の方々のために書かれた手頃の書物は、ちよつと見当りませんので、この本を書いて見ようと思ひたつたのです。
 そこで、昨年の秋の、ラヂオ講演を基としまして、これに色々の修正を加へることに致しました。その中で、何よりも大きい増補は、沢山の写真版を挿入したことです。これによりまして、たゞ見たばかりでも、一通り要領を得るやうにした積りです。
 もとの講演は、毎日二十五分間づゞ、五日間にわたるものでしたが、今この書物では、皆さんが、史料(つまり写真)を眺めたりして、一日分を一時間半がかりで、ゆつくりと、五日間、お読み願へればと、筆者としましては、そんな風にも、考へて居ります。

 実は、はじめは、写真などを入れないで、和算の方法や内容について、平易に、しかも出来るだけ詳しく、説明しようかと、思ひ立ちまして、何遍も何遍も、書き直して見たのでした。しかしその間に、「現在の数学に対して、相当な素養を持たない方々に、和算そのものを詳しく説明することは、殆ど無意味なことだ」と気が付いたのです。――実際、普通の方々は、今さら和算を学ぶ暇がある位なら、現代の数学を勉強なさる方が、宜しいのです。さう云ふ訳で、この書物には、ほんの少ししか、和算そのものの説明を、やりませんでした。(そればかりではありません。皆さんの目的の如何によりましては、数式など、飛ばしても差支ないのです。たゞしかし、微積分などといふ言葉に、怖れないやうに願ひます)。
 何と申しましても、私達、日本人の一般人に取つて大切なのは、和算そのものの、詳しい結果や計算法などに、深入りすることではなくて、和算の発達や特質を、日本の歴史・社会・文化、或は日本人の性格との関連に於て理解し、しかも一方、世界史的にも、考へて見ることだと思ひます。
 さう云う点を考慮しましたので、この書物の中には、細々しいことは、一切省いて居ります。特殊な専門語は勿論のこと、固有名詞も、出来るだけ少なくするやうに、努めました。この書物の本文には、日本の数学者の名を二十ばかり、書名も十種ぐらゐに止めて居ります。

 …#002へ続く

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