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大語園 功力の部 #000 「藤の水」

 一二二 {藤|ふぢ}の{水|みづ}

 行基菩薩が、越中の白石に来て、東方を眺め見渡すと、山の麓に、焔の上る石があるので、直ちに其側に行き、不動明王と二童子とを{彫刻|てうこく}したのが、今の大岩山{日石寺|につせきじ}である。
 此の寺には藤の水といふがあつて、諸人眼病を祈るに、{霊験|れいげん}忽ちにして現れるといふ。元禄十五年の夏、越後国ねち谷の農夫が、盲目となつて、一室に閉ぢ籠つてゐると、一夜の霊夢に、或聖僧が現れて、『大岩山の瀧の側に、一本の藤の木がある。其根より清水が{湧|わ}き出すから、これを受けて眼を洗ひ見よ、立所に験がある』と示された。
 {盲目|めくら}の農夫は、夢の覚めると共に、暁かけて大岩山に登りかの藤の根を尋ね索めたが、固より身は悲しい盲人なれば、根の在所も知られず、思ひ{煩|わずら}うた後、参詣人に助けられて、手探りに見れば、果して{滾々|こんこん}たる清水が湧き出て居るので、急いで手に汲みて眼を洗ひ、心に不動明王を念ずると、両眼見る見る開け、四界明かに、山を下る時には、杖をも用ゐなかつたといふ。(越中旧事記)

 …… ふの部 『一二二 藤の水』 より

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