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手作りマドレーヌ VS ベルグの4月

手作りマドレーヌの庭

※実際のお客様の話ですが、お名前は仮名にしております。
今から8年くらい前のお話です。

「お待ちしてました」
井上さんの奥様がドアを開けると、中からお菓子を焼いたいい香りがふわぁ〜っと溢れ出てきました。
「コーヒーでいいですか?」
「はい。あっお構いなく」

ますます甘い香りのするダイニングルームに案内されて、パイン材のダイニングチェアに促されます。テーブルには黄色い南米風の織物がかけられています。

「ちょっと形が崩れちゃったんですけど」

バラの形をした小ぶりなマドレーヌが黄色と緑の絵が印象的な絵皿に3個載っています。よくメキシコ料理屋さんなどに行くと出てくるような絵皿です。原色が際立つテーブルコーディネートを締めるように黒い小ぶりのコーヒーカップが添えられました。

「なんだか、すみません。とっても美味しいですし、可愛いですね」
お庭のリニュアルの打ち合わせにきたはずなのに、こんな出だしになってしまいます。
「ところで、食器とかテーブルクロスとか、メキシコっぽい?よくわからないですが、そんな感じがするのですけど。インテリアの雰囲気も統一感があって素敵ですね」
「ありがとうございます。プロの方に言ってもらうと嬉しいです。実は一昨年まで主人の転勤で5年ほどメキシコにいたのですよ。向こうでこんなタイルを作ってもらったので、これを庭に使いたいのです。この子たちも向こうで生まれましたし、私たち家族にとってはメキシコは出発の地であり、想い出がいっぱいの国なのです」

そう言いながら持ってきたタイルは、長い方が30cmくらい高さが20cmくらいの楕円形の中に砕いた色とりどりのタイルで「INOUE」と描かれています。

井上さんがメキシコの話をしだすと、先ほどまでの可愛らしい奥様の顔から、情熱的な女の顔に変わりました。素敵な恋をして結婚し、そのままラテンの国で暮らし始めた頃を思い出すからなのでしょう。
今は優しいお母さんの顔をしているけれど、本当の井上さんは、きっと情熱的なラテン系!

メキシコの思い出話や、二人のお子さんのこと、ご主人は休日にどうされているか? いろんなことをお聞きしながら、私はどうしても奥様の心の奥を観察してしまいます。職業病かもしれません。

今まで空き地だったお隣に家が建つので、目隠しの壁を作るのと同時に、2さいの息子さんと年長さんのお姉ちゃんが遊べるようなお庭に模様替えしたいというのが今回のリニュアルの目的のようです。それまでも小さなテラスはありましたが、大きさが中途半端で芝生のスペースと分断されてうまく使いこなせていなかったのです。
一通りお話を伺ってリビングの広い窓から外に出ました。まだ2月だというのに、小さなテラスの縁には色とりどりのパンジーが植えられています。
お花の手入れもマメにされる方のようです。

ほとんど雑談と普段どうやって過ごされているか。お子さんたちの遊ぶ様子などを話してその日は帰りました。いつも最初の打ち合わせはこのような感じです。

こんな打ち合わせから生まれたお庭は

ダイニングテーブルの窓の向こうにメキシコ土産のタイルが貼られた壁を作りました。奥様は昼間ここに座ってコーヒーを飲みながら、過ごす時間がとても好きだと言われます。たまにはメキシコの日々を思い出したりして……。

庭いっぱいにテラコッタ(赤い素焼き)のタイル張りのテラスを広げたら、息子さんはここで疲れるまで三輪車を乗り回すようになりました。お姉ちゃんはママのお花のお手伝い。時々お花でおままごとをします。

手作りマドレーヌと絵皿のおやつ、メキシコ大好きなお宅のほっこり暖かみのあるテイストのガーデンメーキングストーリーでした。



年長さんのお姉さんが最後の日にくださったお手紙。

「ベルグの4月の庭」の話は明日に続きます。


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