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匂い偏愛 その1 地下鉄通気口の匂い

※私は変わった匂いを好きになることがある。多分本能的なものだと思うのだが、そんな変わった匂いのことを不定期に思いつくままに綴ってみようと思う。本日はその第一弾!

地下鉄の通気口から立ち上がる匂いが好きだ。

古い映画の1シーンでマリリンモンローのスカートがふわっと舞い上がり「ワォ〜」
の場面といえばピンとくるだろうか。マリリンモンローのスカートを持ち上げてるのは「通気口からの風」その時に漂う匂いが好きなのだ。

コンクリートが雨に濡れたときのような、布団の中にもぐったときのような匂い。うまく表現できない。人によっては不快かもしれない匂い。

ところがこの匂い、どの通気口でもいいかと言うとそうでもない。理由はわからないが匂いを強く感じる場所とそうでない場所がある。

私の一番のお勧めは表参道と明治通りが交差するところ、中でも原宿駅から見て右側の、駅から遠い側の角の通気口はその風のボリューム、匂い共に秀逸だ。特に冬の寒い日が良い。
これからは地下鉄の匂いを嗅ぐ絶好の季節になるので、嗅ぎ方の作法というか、できるだけ恥ずかしくなく嗅げるコツを紹介しよう。

まず服装はふわふわした素材のスカートは避けよう。(マリリンモンローになりたい方は別)
さらに靴もハイヒールはまずい。鉄の蓋の穴のところにヒールが挟まってしまうと一発でヒールの皮が剥ける。
ヒールのない靴とパンツスタイルで、さりげなく通気口の蓋の上に立つ。表参道の交差点は人通りが多いので、さも
「ここしか立つところがないの」
ってな感じで立つのがお勧め。そして誰か人を待つような風情でちょっと時計を見たり、スマホを気にしたりしながら、じっと地下鉄が来るのを待つ。原宿だと2~3分くらいだ。地下鉄が来ると冬なら「もわ〜っ」と暖気が舞い上がる。その時に深呼吸をしてみてほしい。
私は時間があるときは信号3回分くらいはやり過ごして、匂いを堪能する。
匂いを十分に味わったらもう一度スマホでラインかなんかチェックして「まだ来ないなあ」って顔をしてその場を立ち去れば良い。

ただそれだけのことなのだが、慣れないうちはちょっと恥ずかしいかもしれない。

万人受けする「良い香り」ではないので、嗅いで気分が悪くなる人もいるかもしれないが、そこは自己責任でお願いしたい。

この匂い、子供の頃から好きだったのだが、7年ほど前から「特別な思い」と重なってさらに感慨深いものとなった。
2010年の春から1年ほど、原宿の裏通りのレトロな雰囲気のマンションの一室を借りていたことがある。ろくにマーケティングもせず、今から思えば「原宿にアトリエを持つ」という夢を叶えたかっただけとしか言いようのないミーハーな黒歴史なのだが……。広めのベランダをショーガーデン風に作り込んで、いろんな試みをブログで紹介して、そこを起点にビジネスを拡大していくつもりだった。しかし、なかなか思うように集客に繋がらなかった。半年も経たないうちに「いつまで借りていられるか」という不安の方が大きくなってしまい、駅へ向かう足取りも重い日が続いた。そんなとき何よりの癒しスポットがこの通気口だったのだ。信号待ちの間に通気口の上に立っては立ち上る匂いを嗅いでリラックスしていた。3回くらい青信号をやり過ごして。

ほどなくして不安は現実となり、原宿のマンションは震災の少し後に撤退した。
それ以来、あまりにも無計画で馬鹿げていた自分への戒めや初心に帰る思いなどが重なり、「あの通気口」は襟を正すことができる、私だけのパワースポットとなった。

地下鉄の匂いを嗅ぐ絶好の季節になった。今年もそろそろ匂い初詣に行こうか。


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