誰も知らない一日
仮病を使って会社を休んだことが一度だけある。
そういう経験って、誰にでもあるのだろうか。
如何せん、同僚が風邪で会社を休んでも風邪だとしか思わないわけで、仮病を使っているかなんて本人しか知らないのだ。
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私は高校3年間皆勤賞で卒業式で表彰された。部活も一度もサボったことは無いし、勿論今まで会社も休んだことがなかった。
ただ、ある日突然「明日会社行きたくないな」と思った。
そう、火曜日に休んだから、月曜日にぼんやりと思ったのだ。
細かく言えば、日曜の夜にサザエさん症候群に陥り、月曜日働きながら「明日休みたいな」とぼんやり思ったのだ。
仕事は、好きじゃない。一年前は仕事が楽しくて楽しくて仕方なかったのに。部署異動を言い渡されてから毎日が辛い。出来ることなら1ヶ月くらい逃げたい。
1回「行きたくない」と思うと脳はそれしか思わなくなってしまい、初めてズル休みをしようとする私はベッドの中で『仮病 理由』などと検索していた。
でも、それと同時に『仮病 バレる』『仮病 癖になる』で検索していたのだから小心者だ。
朝、休むことを決心した私は、この時間なら出勤の早い上司はもういるかな、体調悪そうな声出した方がいいのかな、などと少し考え、意を決して電話をかけた。
お大事に、今日は気にせずゆっくり休んで、と言われた。明日もダメそうならまた連絡して。
それだけだった。通話時間は1分くらいだった。
会社をサボることがこんなに簡単だとは思わなかった。
ああ、私がいなくても会社は回るんだ、なんて当たり前なことを実感した。
リビングに下りた私を見て、母に具合が悪いのかと聞かれた。
会社に行きたくなかったから会社に電話だけして休んでしまった、と正直に言った。どちらかというと厳しい母に、怒られると思った。
母は何も聞かなかった。
具合でも悪いのかと思ってびっくりしたよー、晴れてるし気分転換でもしてきたら?映画でも見てきなよ。今面白いの沢山やってるよ。
驚いた。怒らないのかと聞いてみた。
無断欠勤なら怒るけど、もう社会人だし何も言わないよ。毎日頑張ってるんだし、そういう日もあるんじゃない?
予想とは異なる母の言葉に私はその場で泣いてしまった。情けない。
私は午前中に映画を見て、ショッピングを楽しんだ。平日の洋服屋は空いていた。売り場のお姉さんは暇そうにしていた。こんなに暇な街は学生時代以来だった。
デパ地下でチョコケーキを2つ買って、家に帰ってから母と食べた。思ったより苦かった。
夕方上司から具合を尋ねる電話がかかってきて、明日は出勤出来そうですと伝えた。
翌朝は同僚一人一人に欠勤したことを詫びた。
やはり自分がいなくてもなんてこと無かったみたいで、なんとも言えない気持ちになった。
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これを打っている満員電車の中、目の前に立っている女性が外を見ながら目を潤ませている。
電車とかいう空間はひどい。こんなにも人が多く乗っているのに全員ひとりぼっちだ。
この空間では、どんなにお偉いさんが乗っていても、椅子に座れた人が勝ち、そんな風に思える。
少しずつ人が減っていく車内、次の到着駅を知らせるアナウンスが流れる。
今日も、お疲れ様。
最後まで読んで下さりありがとうございます。いい日になりますように。