SaaS企業が陥りやすい「分業体制によるマネジメントの崩壊」は「パーパス」で解決できるかもしれない

こんにちは、ピープルマネジメントSaaS「Wistant」を運営する株式会社フルート代表の菊池です。

僕たちはこれまで、のべ900社を超える企業の「マネジメントの課題」に向き合ってきました。

今回は、急拡大するSaaSスタートアップが陥りがちな罠としてもよく上がる、「THE MODEL型の組織体制によって引き起こされる組織の分断と、そこから生まれるマネジメントの崩壊」について考えていきたいと思います。

先日弊社では、急拡大スタートアップの代表格とも言えるSmartHR社エイチーム社をゲストにお呼びし、「急成長する組織の支え方」についてお聞きするオンラインイベントを開催しました。

お話を聞く中で改めて感じたのが「組織の人数が拡大するほど、マネジメントの課題が複雑化する」ということです(当たり前ですが…そしてそれを乗り越えてきた両社はやはりすごい)。

とくにSaaS企業においては、その事業モデル上、スケールのためには組織の拡大が必須であるため、比較的早い段階から難易度の高いマネジメント課題に向き合っていく必要性が出てくると思います。

その解決策として、経営において最近急速に注目を集めている「パーパス」の考え方を応用できるのではないか?と考えたことがこのnoteを書いたきっかけです。

より正確に表現すると、自身が経験してきた自律分散型のホラクラシー組織(※)における「役割単位のパーパス」という仕組みが、SaaS企業が向き合うマネジメント課題を解決する上で役に立つのでは?と考えています。

※ホラクラシー組織については追って説明

まずは、このnoteで解決を目指す課題を整理

多くのSaaS企業が採用する「THE MODEL型」の分業体制は素晴らしいスキームですが、全体最適より部分最適が進みやすく、「各部門における解くべき課題の優先順位がズレる」ということが往々にして起こります。

例えば、以下のようなケース。

・マーケティング:リードが順調に獲得できているため、中長期的な動きを見据えてリードの育成を重視
・セールス:リードの件数が十分だが中々商談化せず、アプローチ方法の変更を検証

マーケティングとセールス、双方の課題を知っていれば、「マーケティングの入り口で狙うべきリードのセグメントを最適化することが必要」だとわかりますが、実際には各部門が個別に動いてしまっていることで、非効率なリソースの使い方になってしまっています。

上記は極端な例ですが、こうした状態を放置しておくとお互いのチームに対して不信感を持つようになり、チームやマネージャーが疲弊し、人が離れていくということにつながります。

このような課題を解決するために、このnoteで提案したい解決策は以下の通りです。

課題
「解くべき課題の優先順位が部門によってズレる」
解決策
「透明性とパーパスによって情報流通と一貫性を担保する」

「情報流通と一貫性」の重要性は以下の篠塚さんのnoteにまとまっていますが、要約すると「情報へのアクセスをなめらかにし、トップ〜ミドルマネジメント〜メンバーが同じベクトルで、同じことを言っている状態を担保する」ことが組織を良くする…ということです。

そしてこの「情報流通と一貫性」が、まさにホラクラシー組織の中心的な思想である「透明性」「パーパス」にシンクロするのです。

そもそもホラクラシー組織とは?

(既にご存知の方はこのチャプターは飛ばしてください)

ホラクラシーとはティール組織の一形態です。社長や管理職からの指示命令系統はなく、メンバー全員が決まり(憲法)の中で自律的に動くことができるフラットな組織です。

フラットな組織というと自由でなんでもできると思われがちですが、「憲法」によって割としっかりガバナンスが担保されていることが特徴です。

画像1

ホラクラシー組織は「ロール」によって構成され、ロールが集まったものが「サークル」と呼ばれます。

ここではサッカーを例にすると、サークルはW杯を戦う日本代表チームのこと、ロールは日本代表チームがやりたいサッカーを実現するために必要なポジションです。

ホラクラシー説明用 (1)

そしてホラクラシーでは、最初に人ありきではなく、必要な役割(ロール)ありきで組織を定義します。

例えば日本代表がボールの保持を重視するサッカーをしたい場合、そのために必要な陣形や役割が決まり、そこから人選を考えていくことになります。
いわゆる「適材適所」ではなく「適所適材」という順番ですね。

ちなみにこの逆は、最初にメンバーが決まっていて、そこからどんなサッカーをやるのかを考える、という順番です。(森○JAPANは果たして...?)

SaaS企業のマネジメント課題を解決するホラクラシーのTips

ホラクラシーは全体を理解しようとするとあまりに複雑なので、今回は自身の経験から「SaaS企業がこれを取り入れるといいのでは」と思った具体的なTipsを以下に3つあげていきます。

①ホラクラシー組織における「パーパス」を取り入れる

ホラクラシー組織は、目的に向かって自律的に変化し続ける組織であり、よく都市に例えられます。

ある都市に「需要に対してイタリアンを食べるところが少ない」という問題があったとします。

このような状況であれば、おそらく誰かがイタリアンレストランをオープンし、都市は自律的に変化し続けます。

これと同じことを組織で実現するために、ホラクラシー組織においては各サークルやロールが「パーパス」を持っています。

ホラクラシーでは、実現したい理想の状態を「パーパス」と呼びます。「パーパス」を上司と捉え、「パーパスの実現のために(禁止されていること以外)何でもやる」が原則です。

そしてホラクラシーは「適所適材」の考え方であるため、常にこのパーパスに立ち戻って意思決定を行います。

例えば最初に明文化されるgeneralサークル(=組織全体)のパーパスは、会社全体にとっての北極星的な役割を果たすので、常に「自分たちが何を成し遂げたいのか」の共通認識を持つことにつながり、各自の行動に一貫性が生まれやすくなります。企業が持つミッションやビジョンに近い役割ですね。

組織全体のパーパスが決まると、その目的を達成するために必要な「ロール(役割)」の「パーパス(目的)」「ドメイン(権限)」「アカウンタビリティ(責務)」を定義し、明文化していきます。

例えば、「全社戦略」というロールには以下のような目的、権限、責務が設定されます。

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このロールの明文化は、「〇〇って結局誰がやるんだっけ?」や、「そこまで自分がやるべきだとは思ってなかった...」という認識ズレによる違和感を無くすことにつながります。

このホラクラシーにおける「役割ごとのパーパス(等)」の明文化を行うことで、SaaS起業が陥りがちな組織内の分断を防ぐことができるのではないかと思います。

もちろん多くのチームで戦略とそれに紐づく役割分担があると思うのですが、職種とそれぞれの目標数値だけが決まっている、というケースもあるのではないでしょうか。

ドメインやアカウンタビリティまでしっかりやるとカロリーが高いので、まずはチームのパーパスと、ロールのパーパスを改めて明文化してみるといいかもしれません。

明文化する際のポイントとしては、キャッチーかつオリジナリティがあるものを意識すると良いです。

Slackのチャンネル名などにも反映させていくと、良い感じに浸透して各メンバーの言動にも一貫性が出るはずです。

例えば、Wistantチームではかつて「劇的before/after」というサークルがありました(名前にセンスがあるかはさておき...)。

各ロールが「劇的なマネジメントの変化がもたらされた事例を作ること」を目的に動いていたので、チーム全体でやるべきことの優先順位も終始ブレずに、議論もしやすかったように思います。

②“間”を埋めるようなロールを設計する

サークル(チーム)のパーパスを決めた後にはロールを定義していくのですが、ここでポイントになるのが“間”を埋める意識です。

冒頭でも書きましたが、THE MODELのような分業でよく起こりがちな問題として、以下のようなものがあります。

・リードの獲得数をKPIとして追っているマーケチームと、すぐに商談につながるようなリードが欲しいセールスチームとで個別最適が進む
・全体で施策の優先順位がズレていく
・同じ課題をチームごとに別々で解こうとして非効率になっていた

などなど、、。

こうした問題を防ぐためには、”職種”だけではなく"職種間で起こる事象"に基づくロールを意識して設計することが重要です。

例えばホラクラシー組織を運営しており、実際の組織図も公開されているラプラス社を例にお借りすると、「LAPRAS SCOUTのコンテンツの番人」というロールがあります(2021年10月時点の情報)。

パーパスには「LPや資料等について適切なコンテンツを定める」とありますが、これは一見マーケがやるのか?それとも現場の声を一番よく知る営業がやるのか?というふうに間にボールが落ちがちな領域です。

この領域にロールを設置することで、職種間に落ちて放置されてしまうボールを減らすだけでなく、そのロールに紐づく人が、双方の職種の情報をもとに判断を進めていくため、全体最適な動きが生まれやすくなります。

つまり、職種間での情報流通が自然と起こる仕組みを整えるというのがこのロールを設計する狙いです。

最近ではスタートアップで課題をカンバン形式で公開するなどして、イシュー採用を取り入れるところも多いですが、同じように職種をまたぐイシューを明文化し、可視化しておくと良さそうです。

③テンションの扱いを設計する

最後はパーパスによる組織の一貫性を健全に保ち、情報流通も促進するために重要な「テンション」の扱いについてです。

ホラクラシーでは「テンション」をとても大事にします。テンションとは理想と現実状態のギャップのことを指し、このテンションを解消していくことで組織の自浄作用が起こり、目的達成のために最適な形へと組織が進化していきます。

テンションの例としては「顧客セグメントを見直すべきでは?」というものから「こういうロールがあったらいいのでは?」というものまで様々です。

感じた「テンション」はサークルの誰でも議題に挙げることができ、またそのテンションを取り扱う場や方法も憲法によって決まっています。(これがホラクラシーの良い所でもあり弱点でもあるのですが...それはまた後述)

「パーパスが達成されるための理想の状態と現実状態のギャップ」であるテンションを感じ、それが適切に取り扱われる状態を作ることは、

「パーパスが達成される理想の状態とは?こう改善すべきではないのか?」

という問いを常に各メンバーが持つことにつながります。これは自律的な動きを促進することはもちろん、パーパスによる一貫性を持続的に強化していく仕組みと言えます。

なお、このテンションをあげるタイミングは「会議の定期開催を待たずに、テンションを感じた時点」がベストとされます。

そうとは言っても、忙しい中で感じた違和感をついつい後回しにしてしまうことは往々にして起こり得ますよね。なのでこうしたテンションを扱う場をきちんと設計し、用意することがおすすめです。

また、テンションを誰でもあげる(自律的に動く)ことができるようにホラクラシーでは「透明性」が重視され、基本的に情報はオープンにされています。

この透明性が担保された環境によって各自からテンションが上がり、それをチームの定例などで扱うことで、「〇〇チームでは今こういう課題がある」「お客さんから〇〇と言われたのでこういうことを考えている」という情報流通も促進されます。

こうして情報流通が促進されると、また新たなテンションが生まれ、最適な組織の形へ変化していく好循環が回り始めます。

まとめると、テンションが扱われる場を定期的に設けることで情報流通と一貫性が強化されるので、まずは普段のチーム定例などの場でテンションを扱う時間を作るところから取り入れていけると良いのではないでしょうか。

おまけ:ホラクラシーのちょっと良いところ

その他にも、テンションを扱う場を設計することはマネージャーが無駄に疲弊していくのを防ぐことにもつながります。

フラットな組織を目指していく時にもありがちですが、マネージャーには現場から押し寄せる情報をトリアージしたり、時には折衝したり、という役目があります。

このプロセスが仕組み化され、共有されていることでマネージャーも少しは楽になるのではないでしょうか(まあそれでも悩みが尽きないのがマネージャーだと思うのですが...)。

また、テンションは誰でも出すことができるので、マネージャーだけでなくメンバーも、自分たちの意思決定がちゃんと反映されるという意識を持つことができます。

納得感が無いと人はすぐに離れていくので、自分がどこまで関われるかという話はかなり重要で、ここでも意見が出しやすい&(納得感のあるプロセスを経て)承認されるホラクラシーの仕組みは機能していたように思います。

ちなみに憲法によって定められた運営方法というのは、ファシリテーターを始めとするいくつかの役割や、会議の進め方についてなど、様々なルールがあります。

ルールの背景には、「組織内で声がデカい人の意見だけが通る」というような自律分散型の組織にそぐわない行動が起こらないようにさまざまな設計がある一方で、スピード感が犠牲になりがちという側面もあったりします。

この辺のホラクラシーに関する細かい話も気になる方はぜひmeetyとかでお話ししましょう。(最後にもリンクをつけています)

おわりに

ここまでパーパスやホラクラシーに絡めてSaaSチームのマネジメントについて書いたものの、まだまだこれから実験していきたいことはたくさんあります。

まさにこの課題に直面している、自社ではこう解決した、などなどいろんな方とカジュアルにお話しできればと思っていますので、以下のmeetyからお気軽にご連絡いただけると嬉しいです。

ホラクラシー、ぶっちゃけどうだったの?みたいなのも大歓迎です!

ここまで読んでくださりありがとうございました!


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