「小説」地下格闘女王が用心棒に。前編

佐藤綾香は、普通の大学生だった。彼女は内向的で、図書館で過ごす時間が一日の大部分を占めていた。

静かな性格の綾香は、友達も少なく、自分の世界に閉じこもりがちだった。彼女の一日は、

朝早く起きて大学に行き、講義を受け、図書館で勉強し、夜に帰宅するというシンプルなものであった。

その日も、綾香はいつものように図書館の静かな一角で勉強をしていた。

彼女の前には山積みの教科書とノートが広がり、彼女は集中してノートに書き込みをしていた。

突然、彼女の視界の端に何かがちらついた。ふと見上げると、机の端に小さなUSBメモリが落ちているのに気づいた。

「これ、誰のだろう...?」綾香は手に取り、周りを見渡した。しかし、そのエリアには誰もいなかった。

不思議に思いながらも、彼女はそれをポケットにしまい、勉強を続けた。

その夜、自宅に帰った綾香は、ふと昼間に拾ったUSBメモリのことを思い出した。

彼女は好奇心に駆られ、それをパソコンに差し込んでみることにした。

画面に表示されたフォルダを開くと、そこには大量のファイルが詰まっていた。綾香はその中の一つをクリックしてみた。

ファイルが開かれると、彼女の目に飛び込んできたのは、重要そうなデータと見慣れないコードの羅列だった。

何の情報かは理解できなかったが、それが普通の学生のものではないことは確かだった。

「これ、もしかして...危ないものかも...」

綾香は不安を感じながらも、深く考えずにそのファイルを閉じ、USBメモリをデスクの引き出しにしまった。

翌日、綾香はいつも通り大学に向かった。しかし、いつもと違うことに気づいた。彼女は誰かに見られているような気がしてならなかった。

講義を受けている間も、図書館で勉強している間も、その視線は消えることはなかった。

「気のせいかな...」

綾香は自分にそう言い聞かせながらも、不安は増すばかりだった。彼女は家に帰る途中、ふと後ろを振り返った。

そこには、見慣れない男が彼女をじっと見つめていた。綾香はその視線に恐怖を感じ、急ぎ足で家に帰った。

家に着くと、彼女はすぐにドアを施錠し、窓のカーテンを閉めた。彼女の心臓は激しく鼓動し、呼吸も荒くなっていた。
「何かおかしい...」綾香は震える手でスマートフォンを取り出し、警察に電話をかけた。
「もしもし、佐藤綾香と申します。私、命を狙われているかもしれません...」
こうして、平凡だった綾香の大学生活は、突然の恐怖と緊張に包まれることになった。彼女はまだ知らなかった。

この出来事が、彼女の人生を大きく変えることになることを

そして、彼女を守るために現れる一人の女性との運命的な出会いを。

地下格闘技のリングは、暗闇と熱気に包まれていた。狭い会場に詰めかけた観客は、歓声と興奮で息を詰めていた。

蛍光灯の冷たい光がリングを照らし、その中央に一人の女性が立っていた。彼女の名は早瀬美香。この地下世界で無敵のチャンピオンとして知られる存在だった。

美香の目は冷静かつ鋭く、対戦相手を睨みつけていた。対戦相手は筋骨隆々とした男で、顔には過去の戦いで刻まれた無数の傷があった。

彼の巨体と威圧感は、観客に恐怖と興奮をもたらしていたが、美香の前ではその全てが無意味だった。

彼女は既に数多くの戦いを経験しており、勝利への確信に満ちていた。

ゴングが鳴り響くと同時に、男が勢いよく美香に向かって突進してきた。彼の拳は鉄のように固く、まるで彼女を一撃で葬るかのような勢いだった。

しかし、美香はその動きを見切り、冷静に体を翻して攻撃をかわす。

その瞬間、彼女の拳が男の腹部に突き刺さった。驚くべきスピードと力で打ち込まれたその一撃に、男は苦悶の声を上げて膝をついた。

観客の歓声が一層大きくなり、美香の名前を叫ぶ声が会場を満たした。彼女はその声に応えるように、リングの中央で静かに立ち続けていた。彼女の姿は、まるで勝利の女神そのものだった。

「次はもっと強い相手を用意してくれ」と、美香は観客に向かって宣言した。彼女の言葉には、自信と挑戦を求める意志が込められていた。

観客はその言葉にさらに熱狂し、彼女の強さを称賛する声が響き渡った。
その夜、美香はリングを後にし、更衣室で一人静かに汗を拭っていた。

彼女の頭の中には、次の戦いに向けた戦略と、常に自分を高めるための計画が渦巻いていた。

鏡に映る自分の姿を見つめ、彼女は深く息を吐いた。戦いの緊張が少しずつ解けていくのを感じながら、スマートフォンが鳴り響いた。

「早瀬美香さんですか?」電話の向こうから聞こえてきたのは、低く冷静な声だった。彼女は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「あなたに一週間のボディガードをお願いしたいのですが。」

「ボディガード?ですか。」
美香は眉をひそめながら聞き返した。

「誰を守るのでしょう?」

「佐藤綾香という若い女性です。彼女は重要な情報を知ってしまい、命を狙われています。」

美香は少し考え込んだ。彼女の本分は格闘家であり、ボディガードなど考えたこともなかった。

しかし、地下格闘技で得た強さを
正義のために使える誇り

というのは建前で、新たな強敵にも出会えそうなこと、それにスリルのある状況もあるかもしれないと思い

「わかった。引き受けましょう」と、美香は毅然と答えた。

電話の向こうの声は、ほっとしたように息を吐いた。

「ありがとうございます。詳細は後ほどお伝えします。どうか彼女を守ってください。」

ある日、綾香は大学の図書館で再び勉強していると、突然背後に気配を感じた。振り返ると、見知らぬ男が彼女をじっと見つめていた。男はすぐに視線をそらし、その場を立ち去ったが、綾香の胸に不安が広がった。

「これはただの偶然じゃない...」

綾香は心の中でそう確信した。彼女はその日、早めに図書館を出て、まっすぐ家に帰ることにした。

家に着いた綾香は、急いでドアを施錠し、窓のカーテンを閉めた。彼女の心臓は激しく鼓動し、呼吸も荒くなっていた。

綾香は自分の部屋に戻り、引き出しからUSBメモリを取り出した。彼女はそれを手に取り、じっくりと見つめた。

「これが原因なの?」

とつぶやきながら、再びパソコンに差し込んだ。画面に現れたファイルの一覧を眺めながら、綾香はその一つ一つを慎重に確認していった。

突然、玄関のドアベルが鳴った。綾香は驚き、パソコンの電源を急いで切った。誰かが訪ねてくる予定はなかった。

彼女は心臓が止まりそうな思いで玄関に向かい、ドアの覗き穴から外を見た。そこには、スーツ姿の男が立っていた。

「佐藤綾香さんですか?警察の者です。」男は身分証明書を見せた。

警察の男は、綾香に対する監視の報告を聞いて再び訪れたという。彼は綾香に対して、何か特別なことがあったかを尋ねた。

綾香はUSBメモリのことを話すべきか迷ったが、最終的には打ち明けることにした。

「実は、数日前に図書館でこのUSBメモリを見つけました。中には重要そうなデータがたくさん入っていて...もしかしたらそれが原因かもしれません。」

警察の男はUSBメモリを手に取り、中身を確認することを約束した。しかし、具体的な対策を講じるまでには時間がかかると説明された。

綾香はその間、何とか自分を守る方法を考えなければならなかった。

警察が去った後、綾香は再び一人になった。夜が更けるにつれ、彼女の不安はますます強まっていった。家の外からは、風の音や車の走る音が聞こえてきたが、それすらも彼女にとっては恐怖の対象だった。

再び彼女は警察から連絡を受け
「あなたにボディガードをつけることになった。」
と伝えられた

スッと胸を撫で下ろす。

次の日、会うために指定された場所に向かうことになった。

綾香は指定されたカフェに向かい、緊張した面持ちで席に座っていた。周りには多くの学生やビジネスマンが賑わっていたが、

彼女の心はそれらの喧騒から切り離されていた。

ドアが開き、一人の女性がカフェに入ってきた。彼女は冷静な目つきでカフェの中を見渡していた。

綾香はすぐにその女性が自分のボディガードであることを直感した。女性はまっすぐに綾香の席に向かい、力強い足取りで歩いてきた。

「佐藤綾香さんですね?」
その女性は、落ち着いた声で問いかけた。

「は、はい、そうです。」
綾香は緊張しながら答えた。

「私は早瀬美香と申します。今日から一週間、あなたを守るためにここに来ました。」

美香は穏やかな笑顔を浮かべながら、自己紹介をした。

「よ、よろしくお願いします。」
綾香は少し緊張したまま頭を下げた。

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