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私達が住んでいたころ、吉田寮は築100年を迎えようとしていた(※2019年現在は築105年)。
この規模の木造軸組み工法の住居は、全国でもここだけらしい。瓦葺きの屋根、畳敷の居室でありながら、内部の装飾は西洋建築を意識した意匠になっている。一部の柱や建具がエメラルドグリーンに塗装されたモダンな折衷様式から、創立直後の三高のなごりが見られる。

大学側からは老朽化を理由に廃寮を迫られ続けているが、交渉を重ねて存続を維持している。歴代寮生たちは廃寮を避けるべく新寮建設を訴えてきたのだった。木造に関しては「地震や火災、雨に弱い」という先入観が植え付けられてきた彼らに、改修して使い続けるという発想はない。

生き物を包む家屋として自然素材で造られた材料が好ましいと感じてきた私は、何としても木造への信頼を回復させたいと考えていた。木造は日本の気候風土に最も適しており、見た目の老朽化はメンテナンスを怠ってきた結果であることを理解してほしかった。

伸び放題の大木は屋敷を覆い壁面を湿らせ、茂った草は根太(※)を腐らせ、大木からの落ち葉は雨どいを詰まらせて割れた瓦と相まって木造に致命的な雨漏りをもたらしている。
廊下に置かれた防火バケツは雨漏り受けとして使われ、大雨のときは傘を逆さにして凌いでいた。私たちの「北寮21号」の畳が膨れ上がっていたのも雨漏りによるものであり、居室によってはモッコリとカビが生えていた。

最悪なのは、そのような状態が放置されていることで老朽化に拍車をかけていることだった。寮に入った頃から始めた「自然住宅研究会」の活動や「町家再生研究会」の繋がりを活かして、補修への関心を広めていけないものかと考え始めた。

※根太
床の構造の一部で、1階の場合床板のすぐ下にあり、床の荷重を大引に伝える役目をしている。

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