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災害に強い街は「ごめーん、お醤油貸して」が言える街

「ええよ~。樽で返してな~(笑)」といえる関係が、いざという時の絆になる。

ご近所づきあい=災害への備え  

阪神淡路大震災から26年、東日本大震災から10年が過ぎようとしています。今また、新たな大地震が迫っています。内閣府は10年以内にM7.5前後の地震が発生する確率は60%程度、30年以内だと99%、つまり、今から30年間の間、明日地震が起きてもおかしくないという日を過ごすという状態であると発表しています。
地震が起こったとき、一番必要なのは「普段からのご近所づきあい」です。防災グッズも携帯電話ももちろん大切ですが、お互いさまと言い合える関係こそが、非常時を生き延びるために一番必要なのです。なぜなら、普段のお付き合いが貴重な情報や物資を得るためのネットワークとなるからです。

災害を一人あるいは家族単位で乗り切ることは、ほぼ不可能です。災害発生直後は、人道的な観点からみんなで助け合ってけが人の救出や搬送などを行いますが、災害の本番は、実はその後からなのです。避難所に着いてひと段落した後、ご近所さんが助け合ってお互いの家のがれきの下から貴重品を取り出したり、家にあった非常食を分け合ったりしながら支援が来るのを待ちます。この時、普段からご近所付き合いができているときには、自然とお互いに助け合うようになります。「お醤油貸して~」「ええよ~」と言い合える関係はつまり、困ったときにはお互いに頼りになる、という信頼関係を表すのです。

ご近所さん同士がよく交流する自治会は、災害に強じん(レジリエント)です。避難所の設営は市役所などからお手伝いが来ますが、市全体に支援が行きわたるには時間を要します。そこで、自治会が主体となって避難所の設営と運営を行うことになります。この時、自治会活動が活発な地域は、自然と役割分担が決まり、住民同士もお互いに協力し合います。皆さんの地域にもいらっしゃると思います、自治会のお祭りや運動会で張り切る人たちが。この人たちが実はキーマンです。こういった人たちは継続して自治会活動に参加しているので、地域の情報に精通しています。彼らのリーダーシップやしっかりした情報網こそが、災害時にこそ重要なのです。

世話焼きな自治会長さんがいる地区は幸運です。こういう方はたいてい、指示出しが得意です(笑)。自治会の廃品回収や草刈りなどでみんなを指揮する方たちは、避難所では頼りになるリーダーに変身します。このリーダーシップは、濃密なご近所づきあいから起こりがちな小競り合いの調整役ともなります。物資の配分が不公平だの、避難所の場所の割り当てが気に入らないだのの問題にも、それぞれの状況を考慮しながら適切なルールを作ってくれます。このルールが、避難所生活を円滑にするのです。
  
ご近所さん同士が普段からお付き合いしておくことの重要性は、避難所生活にとって最も重要と言えます。避難所で一緒に暮らす人を把握するとき、介護が必要なご老人、生後5か月の乳児ではなくて、「おうちで転んでから足が悪くなった田中さん家のおばあちゃん」とか、「最近夜泣きが始まった山田さんちの太郎ちゃん」のほうが、お手洗いで手間取っているご婦人や、避難所で泣いている赤ちゃんを見たときに、寛容になれると思いませんか?普段は窮屈に思われる関係が、最も効果を発揮するのが避難所生活です。
  

自治会同士の交流も重要です。このネットワークが災害時に、救援物資のありかや公的支援の情報をもたらすのです。隣の避難所にパンが余っていると聞けば交渉して分配したり、自衛隊のお風呂がいつ頃回ってくるかを聞いてきて地域の人に伝達したり、携帯を充電するための発電車が効率よく地域を巡回するよう手配してくれたり。こうした地域レベルの情報は、ラジオやテレビでは絶対に回ってきませんし、気まぐれなSNSと違って確実です。

持続可能なコミュニティをつくるソーシャル・キャピタル

普段のご近所づきあいや定期的な自治会の交流など、災害時に貴重な情報や物資、支援をもたらす関係のことを、ソーシャル・キャピタルといいます。避難所生活に必要な絆は、日常の信頼関係とお互い様(互酬性)そして円滑な関係を促すちょっとしたルールで構築され、ご近所・自治会が互いに連携することで、情報や物資、支援が広く共有される環境を作ります。地震のみならず、気候変動によって災害が広域化・甚大化する中で共助が必要と言われるのは、被災地区に必要なもの・情報を一番よく知っているのは当事者である私たちだからであり、それは普段のお付き合いの中でしか培えないものだからです。

ソーシャルキャピタルが物資や支援よりももっと必要になるときがあります。それは、悲しみと絶望を乗り越えるときです。自分たちの街が廃墟となったとき、自分たちの生活が崩れ落ちたとき、それを真に分かり合えるのは、その悲しみと絶望を共有した人たちです。ソーシャル・キャピタルは「危機的状況では頼りになり、ともに喜び富を分かち合う」ためのものであり、豊かな人間関係に真に必要なものです。お互いに心の内を語り合い、慰めあい、支えあう。信頼・お互い様こそが、自然災害が多発する時代に持続可能なコミュニティをつくるために必要な要素です。

そういえば、昔ご近所に軽い認知症のおばあちゃんと暮らしているご家族がありました。夕方になると、そこのお子さんたちが自転車に乗って「おばあちゃ~ん」と探し回るのが恒例でした。周りの人たちも、「今日は公園の方に行ってたで~」と教えたり、手をひいて連れて帰ったりしていました。今、福岡県大牟田市で、こうしたお年寄りが安心して外出できるまちへ、地域全体で見守る取組が行われています。普段から地域全体が一緒になって暮らすことは、来たるべき災害に最も必要かつ有効な備えであり、高齢化社会の一つの解決策であり、そしてなにより私たちの幸せな毎日の源なのです。

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IFRCウェブサイトから引用、翻訳

参考文献
ソーシャル・キャピタルと市民社会・政治:幸福・信頼を高めるガバナンスの構築は可能か 辻中 豊 (編集), 山内直人 (編集)
ソーシャル・キャピタル  (シリーズ・福祉+α)  坪郷 實 (著)
孤独なボウリング  ロバート・D. パットナム (著)
Woolcock, M., & Narayan, D. (2000). Social capital: Implications for development theory, research, and policy. The world bank research observer, 15(2), 225-249.
厚生労働省 ソーシャルキャピタルの醸成・活用のための手引き・マニュアル

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