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2019/11/15 映画「ひとよ」鑑賞

映画タイトル:「ひとよ」
劇場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ
監督:白石和彌
キャスト:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子他
個人評価:★★★★★★☆☆☆☆

映画「凶悪」が非常に面白かったので、白石和彌監督作品ということで映画館で鑑賞。
結論からいってしまうと終わり方はあまり評価出来なかったが、家族一人一人がそれぞれ心の中に秘めている思いがぐちゃぐちゃにぶつかって、誰も間違ったことは言っていないけど、他の家族の一員に期待する思いが強いからこそ憎んでしまう辛さがそこにはあると思った。
役者の味も熱量も半端ないくらい感じられたヒューマンドラマの良作。「万引き家族」などのファミリー系の邦画が好きな人にはオススメしたい。



↓以下はネタバレを含むレビュー

【鑑賞動機】
映画「凶悪」を観て非常に面白かったので、同じ監督の白石和彌さんの作品ということで鑑賞したいと思った。前評判も良かったので期待値高めだった。

【世界観】
舞台は茨城県大洗町で、主に稲丸タクシーという小さなタクシー会社がメインの舞台となる。田舎の小さなタクシー会社なので社員同士も非常に仲が良く、お互いに声を掛け合って仕事をしている感じがした。稲丸タクシーを経営している家族の家も、昔ながらの古い建物で雰囲気があった。
映画に挿入されるBGMはあったが、あまり印象に残らなかった。

【内容・ストーリー】
稲丸タクシーを運営する稲村家は、父親、母親のこはると、長男の大樹、次男の雄二、長女で末っ子の園子の三兄妹で暮らしていたが、父親の家庭内暴力が酷かった。ある夜こはるは、父親の言動に耐えかねてタクシーで轢き殺してしまう。こはるは三兄妹に、「自由にいきなさい」という言葉を残して刑務所へ行く。取り残された三兄妹はその後15年間別々に暮らし、大樹は電気屋として働きながら結婚して娘が授かり、雄二は雑誌の編集者として働き、園子は夢だった美容師は専門学校でいじめを受けたことで挫折し、スナックで働いていた。
事件から15年後、こはるは釈放され全国を転々とした後、大樹・園子のいた稲村家へ戻ってきた。それを聞きつけた雄二も稲村家へ戻ってくる。しかし、父親を殺し殺人犯として15年間家族の前に現れなかったこはるに対して複雑な思いを三兄妹は抱えており、大樹はそのせいで離婚することになってしまったり、雄二はその事件をネタにして雑誌の記事を書いて園子と対立した。
しかし最後、息子に裏切られた新人のタクシー運転士の堂下にこはるが連れ去られ、三兄妹は母親を助ける。そこで、あの事件があった一夜は自分たちには特別でも、世間からしたらただの一夜であることを知る。これによって、雄二は事件のあった一夜への執着を捨てる決意をする。
ストーリーとしては、稲村家の家族模様が中心となって描かれているが、大樹の家庭や堂下の家庭、稲丸タクシー事務員弓の家庭など、様々な家族が抱える負が入り混じりながら進行していく構成だった。
ラストの部分が、結局大樹の家庭は修復しなかったし、堂下は飲酒運転をしてしまったし、稲丸タクシーへのイタズラは収まる訳ではないしで、稲村家が主人公の話なのに結局雄二だけが事件のあった一夜に対する未練を払拭しただけのように思えてちょっと残念だった。もっと無理なくハッピーエンドを迎えて欲しかった。

【キャスト・キャラクター】
稲村家の家族を演じる、田中裕子(こはる)、佐藤健(雄二)、鈴木亮平(大樹)、松岡茉優(園子)の熱演に尽きる。
特に鈴木亮平の演技力は素晴らしいと改めて思った。重度の吃音症がある大樹の役だったが、強い気持ちのこもった台詞を言う時ってどうしても吃りながら演じることは難しいだろうと思う。しかし、感情的に台詞を言うシーンでもしっかり吃音を出せていたので、物凄く役作りを徹底してたのだろうと思った。
松岡茉優の能天気だけど心の奥底で闇を抱えている女性の役がとてもハマっていた。最近の松岡茉優は、ちょっと風俗っぽい色気のある女性役が非常に似合う(「万引き家族」でもそうだった)。とても母親思いで、だからこそ兄弟とぶつかってしまうもどかしさがとても役柄として出ていて好きだった。
こはる演じる田中裕子もかなり味のある演技が印象的。涙を堪える表情とか完璧だった。

【作品の深み】
今回の映画を鑑賞して、「家族」について2つのことを考えた。1つ目は、家族というものは連帯責任が生じるということ、2つ目は親も子供も非常に強い思いがお互いあるのだけれども、親の立場は子供には理解してもらえないし、子供の立場は親には理解してもらえないということである。
1つ目に関しては、こはるが夫を殺して殺人犯になったことで、園子は殺人犯の娘だといじめられて夢であった美容師になれなかったり、大樹の妻である二三子は娘が殺人犯の孫であるといじめられて欲しくないと怒りをぶつけていた。家族1人がしたことは、他の家族全員が連帯責任として罪を被っている姿に、家族というものの存在の大きさと負の側面を感じた。
2つ目は、こはるは子供たちが暴力を受けずに幸せに自由に暮らしていけると思って夫を殺したにも関わらず、結果的には三兄妹は世間から虐げられる存在になってしまったことでこはるへの憎しみに変わってしまった。また、堂下親子で考えると息子が大金稼ぎを余儀なくされていることに対して、父親はどうしても受け入れられなかった。
家族は、無償で自分のことを思ってくれる存在ではあるが、上に挙げたような負の側面もあるということを作品を通して伝えたかったのではないのだろうか。とても道徳的な内容だと思ったし、今の日本社会で核家族が崩壊しているのも事実なのでとても描く意義のあるテーマだと思った。

【印象に残ったシーン】
序盤のこはるが夫を殺したことを子供たちに自白するシーン。暗い空気が立ち込める感じによって作品に引き込まれた。大樹が妻に、母親が死んだと嘘をつかれていて激怒し離婚届けを突きつけるシーン。大樹の熱演が何と言っても印象的。スナックで雄二が園子に事件のことをネタにして雑誌の記事を書いていることを追求されるシーン、この時の園子の母親を思う気持ちが伝わって好きだった。ほっこりするシーンでは、堂下親子がバッティングセンターや焼肉を楽しむシーン、父親との時間を大事にする息子の姿に涙が出た。

【総評・レビュー】
「家族」の負の側面を上手く描いた良作なのだが、それだけにラストの終わり方が非常に勿体無い気がした。もっと物語終盤までで撒いてきた葛藤をちゃんと回収して終わって欲しかった。大樹の家族も気になるし、堂下親子の行方も気になるし、ちょっと不完全燃焼感が半端なかった。やはり物語の終わりって結構重要だと思った。そこで映画全体の評価が決まってしまうから。
なんといっても役者の演技は素晴らしかった。鈴木亮平の演技は本当に良かった。


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