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舞台 「オレステスとピュラデス」 観劇レビュー 2020/11/28

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公演タイトル:「オレステスとピュラデス」
劇場:神奈川芸術劇場 <ホール>
作:瀬戸山美咲
演出:杉原邦生
出演:鈴木仁、濱田龍臣、趣里、大鶴義丹、内田淳子、高山のえみ、中上サツキ、前原麻希、川飛舞花、大久保祥太郎、武居卓、猪俣三四郎、天宮良、外山誠二
公演期間:11/28〜12/13(東京)
個人評価:★★★★★★★★☆☆


初めての杉原邦生さん演出作品、そして初めてのギリシャ悲劇を観劇。
結論、想像していた以上に迫力のある舞台作品で非常に面白かった。
オレステスが父であるアガメムノンを殺された復讐として母親を殺害し、復讐の女神に取り憑かれた状態となったため、従兄弟のピュラデスがオレステスをその苦しみから解放するためにタウリケという地を目指す道中の物語であり、ギリシャ神話では語られていない瀬戸山美咲さんの創作となっている。
鈴木仁さん演じるオレステスの誰の言うことでも信じ込んでしまう心優しい青年と、濱田龍臣さん演じるピュラデスの男らしく力強い青年の、互いに短所を補い合える友情を超えた男同士の繋がりに凄く感動すると共に、ギリシャ神話を現代の作風に合うように創作された瀬戸山さんの脚本力を感じた。
そして趣里さんは、旅の道中に登場する複数人の女性を演じるがなんて力強く器用な女優なのだろうと感動した。あそこまで複数のキャラクターを完璧に役作り出来る女優ってなかなかいないと思う。
そして、なんといっても舞台美術・演出が素晴らしい。KAATホールの舞台奥までを目一杯使用して、だだっ広い舞台上をあそこまで駆け回って作品を作れるって観ている側も面白く感じるし、役者たちも楽しいことだろう。また、照明演出が非常に趣向が凝らされて豪華で、ラップ調のミュージカルも凄く歌詞が心に刺さる。
想像していた以上に見応えあって大満足の傑作、オススメ。

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【鑑賞動機】

杉原邦生さんという演出家は以前から存じ上げていたが、作品を拝見したことはなくいつか舞台を観に行きたいと思っていた。昨年上演された杉原さんのギリシャ悲劇3部作第2章の「グリークス」が大好評だったので、杉原さんのギリシャ悲劇最終章ということで今作もきっと傑作になるのだと思って観劇した。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

舞台が始まる前段階として、以下のようなシナリオがある。
オレステスの父であるアガメムノンが女性奴隷を好きになったことに嫉妬した母のクリュタイムネストラによって殺害される。オレステスはアポロンの神託に従ってその復讐として母を殺害する。しかしその日から、オレステスは復讐の女神の呪いによって苦しむことになる。だがオレステスは、「タウリケに向かって、神殿にあるアルテミスの彫刻をギリシャに持ち帰れば、復讐の女神の呪いから解放される」とアポロンから再び神託を授かり、従兄弟のピュラデスと共にタウリケを目指そうとする。

舞台は、ピュラデス(濱田龍臣)が父のストロピウス(大鶴義丹)に、自分がオレステス(鈴木仁)と共にタウリケに向かうために金を出してくれと懇願するところから始まる。ストロピウスは傲慢なピュラデスに対してタウリケへ向かうことに反対し、資金を渡すつもりもなかった。復讐の女神によって疲労困憊しグッタリとしているオレステスを連れてくるも、復讐の女神(趣里)が姿を現してオレステスに憑依している光景を目の当たりにする一行。ストロピウスは、そんなオレステスを救うために躍起になるピュラデスに呆れて立ち去ってしまう。
ストロピウスから資金は得られなかったが、オレステスと旅の仲間たち(内田淳子、高山のえみ他)と共にポーキスからタウリケへ向けて出発する。

ラップ音楽と共に、広大な舞台を奥行きまで目一杯使ってまるで冒険のようにみんなでタウリケを目指す。

アイガイア海(エーゲ海)で一行は船に乗ってタウリケへと向かっていた。オレステスやピュラデスの住むアテナイ(ギリシャ)は先のトロイア戦争で勝利したため、トロイアから大量の奴隷が輸送されてくるのを目撃する。そして、一行が乗り込んでいる船の船長であるカローン(大鶴義丹)もまた奴隷を従えていた。
オレステスがカローンに気に入られて彼のそばへ行こうとした時、嫉妬したピュラデスはオレステスを引き留める。カローンのそばには自分が行くからと伝える。そこへ奴隷(趣里)を抱えたカローンが姿を現す。カローンは、理由は忘れてしまったがオレステスとピュラデスたち一行が危険だと察知して、全員を皆殺しにしようと襲いかかってくる。オレステスがカローンに切り掛かったその時、カローンが自分の身代わりに奴隷を盾にしたことで、オレステスは奴隷を切ってしまう。罪もなかった奴隷はそのまま息を絶えてしまう。

罪のない人間を殺してしまった罪悪感に苛まれるオレステス。

一行は、アイガイア海に浮かぶスキューロス島にたどり着く。オレステスはそこで青い髪の女性に出会う。名前はキュアノス(趣里)、彼女はトロイアから奴隷になることを拒んで逃げてきた。彼女曰く、奴隷になって主の言いなりになって生きるよりも死んだ方がよっぽどマシらしい。彼女は両親から授かった青い石を大切に保持しながら、このスキューロス島にたどり着いたのだが、そこで襲ってきた山賊たちによって石を奪われてしまったらしい。そこでキュアノスはオレステスと彼が所持している立派な剣を見てこんな取引をすることになる。彼女は、オレステスが山賊から石を奪還することができたら、その石をオレステスに授ける代わりにその剣を頂きたいと。心優しいオレステスにとって、今所持している剣は禍を及ぼす剣、早く誰かに渡してしまいたいと、そう思った。
オレステスとピュラデスは、キュアノスの石を奪った山賊の頭領(大鶴義丹)を見つけると、彼の首に下げていた袋がキュアノスが所持していた石だと察して、それを返すように交渉する。頭領はあっけなくその袋を渡してくれた。そしてキュアノスはオレステスの剣を持ってそそくさと立ち去る。
オレステスが袋の中身を見てみると、そこに入っていたのは青く色で塗られたただの木の実だった。ピュラデスは、オレステスがキュアノスという出会って間もない女性に騙されたことに嫌気が差して一瞬仲違いするが、すぐに仲直りしてお互いの長所を認め合い、タウリケに向けて出発する。

ここでもオレステスとピュラデスの友情を超えた男同士の愛睦まじい様子がラップ調でミュージカルとして語られる。

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一行は、アイガイア海を渡り切ってトロイア戦争の戦地となったトロイアへと上陸し、スカマンドロス河畔へと足を運んで宿舎で休んでいた。
そこへ一人の女性クテス(趣里)が入り込んできて、ギリシャ人はここからとっとと立ち去れと、オレステス・ピュラデス一行を罵声してくる。どうやらクテスという女性は、トロイア人でトロイア戦争によってトロイアをめちゃくちゃにしたギリシャ人が大嫌いなようで、クテスという女性の妹自身もこの戦争で命を失っているらしかった。また、トロイア戦争によってスカマンドロス河畔にかかっていた橋が破壊されたようだが、それを再建しようと一人でスカマンドロスに乗り込んできたフィロス(大鶴義丹)というギリシャ人も大嫌いのようだった。彼女曰く、いくらギリシャ人たちがトロイア人たちのために何か施そうが、亡くなった人間が生き返る訳ではないから。いくら橋を再建してもギリシャ人とトロイア人との友好の橋はかからないから。
そこへフィロスも、一行とクテスのいる宿舎へやってくる。クテスはフィロスに襲いかかる。フィロスがなぜスカマンドロスに来たのかを尋ねると、彼はアテナイでの居場所がなかったからだと答える。いくらトロイア戦争で戦果を上げても、仲間のように受け入れてくれる人はおらず孤独だったからスカマンドロスに来たのだと。だがそのスカマンドロスでも、こうやってよそ者扱いされてしまう。
フィロスは、自分はスカマンドロスを出ていくから橋の再建をクテスに託そうとするが、彼女は渡された橋の再建の設計図を破り捨てて逃げるように走り去る。

旅の仲間たちが、ピュラデスに尋ねる。ピュラデスにとってタウリケに向かう理由は何なのかと。ただ、オレステスについていきたいだけなんじゃないかと。オレステスは心優しいが、こうありたいという信念を持っている、だから彼に付き従う者は沢山いる。しかし、ピュラデスはどうだと、力強さとたくましさがあってもそういった信念がないんじゃないかと。ピュラデスは一人心の中で葛藤する。

トロイアに着いた一行、辺りはトロイア戦争によって街が破壊され焼け野原と化している。
オレステスはトロイアの戦禍の街で、一人の赤いドレスを着た女性に出会う。名前はラテュロス(趣里)、ラテュロスはトロイア戦争で両親を失って一人になってしまった。しかし彼女はその正義を両親を殺したギリシャ人へ復讐することに向けるのではなく、復讐などせず気高く生きることを正義として生きていた。
オレステスは、両親を失ったという同じ境遇に共感しながらも、正義を復讐することではなく気高く生きることとしていたラテュロスに感銘を受け、そして恋をし、彼自身もタウリケを目指さずに、このままラテュロスとトロイアで暮らそうと心変わりしていた。
オレステスはその旨をピュラデスに話すと、ピュラデスはタウリケに向かうという目標を失ってはならないと説得すると同時に、今度はラテュロスに嫉妬し始めることになる。激しく雷雨が降り注ぐ中、オレステスとピュラデスは言い争う。
そして、ラップ調に乗せながらピュラデスとラテュロスが、オレステウスへ抱く本音をぶつけ合う。ピュラデスは、オレステスがトロイア人を斬殺したアテナイの王でるアガメムノンの息子であることをラテュロスにばらす。しかし、気高く生きることを正義としていたラテュロスには通用しなかった。挙げ句の果てには、ピュラデスはラテュロスを崖から突き落としてしまう。

そこへピュラデスの前に現れたのは、神であるプロメテウス(大鶴義丹)であった。プロメテウスは、人間も神も同様に愚かであると諭し、それは心の中で燃え上がる炎を燃え上がらせてしまって互いに人を傷つけあってしまうからだと言う。心の中で燃え上がる炎は燃え上がらせるでもなく、消すことでもなく鎮めることが大事であると説く。そして、ラテュロスは決して死んだ訳ではなくタウリケで生きていることをピュラデスに伝える。
それを聞いたピュラデスは、オレステスと共にラテュロスのいるタウリケへ向かうという目標ができ、旅の仲間と共に出発するところで話は終了する。

男同士を愛し合うという同性愛的関係、ラップに乗せて各々の気持ちを語る現代劇風のテイストとギリシャ神話が上手く調和した素晴らしい脚本だった。観ていて全然飽きないし、戦争によって失われた悲劇と人間同士の愛憎が上手く作品の中で絡み合いながら、自分の心に訴えかけてくるものが沢山あって凄く満足度の高い脚本だったと思う。
特に、フィロスは凄く現代劇風なキャラクター性を持っていると感じていて、どこにいっても仲間として迎え入れてくれない孤独みたいなものが、この現代社会でも深く刺さるものなんじゃないかと思う。
ラストのメッセージも凄く心に刺さる。炎は鎮めることが大事、燃え広げる訳でもなく消す訳でもない。何事も感情を鎮めることって難しいことだと思うが、だからこそそうすることに価値がある。気高く生きるということはそういうことなのかと。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

初めて杉原邦生さんの演出を拝見したが、評判通りいや評判以上のクオリティで驚いた。
舞台セット、衣装、照明、音楽全てが素晴らしかったので順を追って見ていく。

まずは舞台セット、といっても今回は基本的には素舞台であり、KAATホールの奥行きの広くだだっ広い空間を十分に使っての公演だった。シーンごとに舞台セットが舞台上に用意されて場転と共に撤去されるといった感じである。
このだだっ広い舞台を隅から隅まで役者を駆け回らせて使用するという演出自体が、初めて体験したものだし凄く良いと思った。序盤のみんなでタウリケに向かって冒険するシーンで舞台全体を下手から上手まで隅々まで使って移動していく様子はとても印象に残っている。あれだけの広大な舞台上を駆け回ったりできたら、演技をしている役者側もきっと楽しいことだろう。それと奥行きがあるので、物凄く作品自体に立体感がある。
そして、その場その場で用意される舞台セットもなかなか斬新なものが多い。特に目立った舞台セットは、アイガイア海を渡っている最中に出てくる船首を模した舞台セットと、クテスとフィロスが登場するスカマンドロスの宿舎を模した舞台セット。宿舎を模した舞台セットは、あの場だけその舞台セット内で芝居が展開されるため、物凄く他の場と比較してぎゅっと凝縮されている感じがしたが、そのギャップがまた良かった。さらに、その次のシーンで透明のビニールシートみたいなものがかけられて使用される演出も印象に残った。

次に衣装、衣装は古代ギリシャということもあって、みんあ地味なクリーム色の汚れた服を着ていた。その分、奴隷姿の衣装が強調されたり、プロメテウスの白く神々しい感じも強調されたように思える。
また、ラテュロスの真っ赤なドレスがとても舞台上に映えた。あの赤には何か意味があるのだろうか。気高き女性という意味では白が似合いそうだが赤い理由って何かあるのだろうか。気になった。

次に照明効果、今作品の照明はただカラフルな照明を多様しているだけじゃなく、照明の当て方にも様々な工夫があってとても見応えがあった。
例えば、序盤でオレステスが復讐の女神に取り憑かれているシーンで、舞台上の方々からスポットライトのようなものが無作為に照らされるシーン、あそこの照明が凄く素敵だった。前方の客席にもそのスポットライトは当たっていたと思う。
また、一場と二場の間のラップが流れながら仲間たちがタウリケに向かって一緒に進んでいくシーンで、使われていた照明もお洒落だった。文章で表しづらい。
そして、なんと言っても最後の方のシーンで、オレステスとピュラデスがお互い抱きしめ合うシーンで二人に当てられる白く明るい照明もとても良かった。照明の当てられ方も下手側と上手側からがあって、丁度中央でクロスするような構造になっているのが凄く良い。
落雷の時の一瞬だけ光る、めちゃ白く明るい照明もとても印象的だった。
それと、舞台上の雰囲気を作る照明でいったら、二場と三場の間の、オレステスが誤って奴隷を殺してしまったシーンからの、紫の不気味な照明はとても印象的だったし、どこのシーンだか覚えていないが旅の仲間たちに当てられる薄オレンジ色の夕方を想起させるような照明の入れ方も印象に残った。そして、終盤のプロメテウスが登場するシーンの白く透明感のある照明も良かった。
照明のバリエーションは沢山あり、印象に残っている照明が多かったので演出としてもさすがだと思う。

最後に音響だが、今作はラップ調に乗せてキャストの想い想いを語り合う演出が多くて、とても斬新で面白いものだった。
ラップって物凄く歌詞にインパクトを与える要素が大きいと思っている。凄くラップ調の歌の歌詞って頭に残りやすいし、心に刺さることが多い。今作でも、オレステスの心境やピュラデス、ラテュロスの心境がラップと共に語られていて、凄く心に突き刺してくる感じが良かった。
特にそのインパクトを感じたのは、終盤の方でピュラデスとラテュロスがお互いマイクを持って、ラップ調で自分の気持ちを語り合うシーンである。あそこのシーンは、今作での一番の見所の一つだと思うし、個人的にはシーンの出来としてNo1に思えた。非常に熱いシーンだと思っていて、まさにラップと舞台がシンクロした瞬間だったと思っている。それがまたギリシャ悲劇という古典作品の中に使われるとは何とも斬新。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今回のメインキャストは、鈴木仁さん、濱田龍臣さん、趣里さん、大鶴義丹さんの4人なので、彼らについて私が演技を拝見して感じたことを書いていく。

まずは主人公オレステスを演じた鈴木仁さん、彼はドラマ「3年A組 -今からみなさんは、人質です-」にも出演している売れっ子の若手俳優。舞台出演はどうやら初めての模様なので、初日を観に行った私は彼の人生初めての舞台本番を拝見したということか。
オレステスという騙されがちだが心優しい青年というキャラクターにとてもマッチした、清々しい役作りがとても良かった。まだ台詞を噛むなど緊張している感じも見受けられたが、これから一人前の役者として大きく成長していくことを期待している。

次にピュラデスを演じた濱田龍臣さん、彼は舞台出演が2度目という鈴木仁さんと同じ若手俳優。
オレステスとは対照的な力強くたくましく男らしい印象が伺えるとても良い役作りだった。彼も鈴木仁さん同様まだ台詞回しに緊張感を感じたが、これから成長して一人前になるのだろう。ただ、物凄く堂々とした態度で演技をしていたことは凄く良かった。あれだけの舞台で役作りに迫力を持たせるのは至難の技、その度胸ぶり勇敢ぶりはあっぱれだった。
それと印象に残ったシーンでいうと、やっぱりラップでラテュロスと語り合うシーン。マイクを持ってラップを情熱的に歌い上げる熱意とインパクトは凄く観ている側も熱くなれた。

趣里さんの演技は初めて生で拝見したが、とても魅力的でレベルの高い女優だと思った。
今作品で彼女は、復讐の女神、奴隷、青髪のキュアノス、クテス、ラキュロスと4つの役を演じ切っていた。復讐の女神と奴隷はそこまで大きな役ではなかったが、キュアノスとクテスとラキュロスを演じ分けられるって凄いと思った。
特に演技を観ていて迫力を感じたのが、クテスとラキュロス。クテスは、トロイア戦争で家族が殺されてギリシャ人を酷く憎んでいるキャラクター、とても尖っていて誰の言うことも素直に聞いてくれない。あのパンチの効いた演技が凄く惹きつけられて魅力的だった。それと同時に、今度はその直後に赤いドレスに着替えてラキュロスという気高き女性を演じ切っている。彼女は家族を殺されてもその復讐を果たそうとはせず、心に留めている清らかな心を持っている。クテスとは真逆である。そんなギャップのある女性を一瞬にして演じ分けられるのが凄い。
そして、彼女の演技から溢れ出る迫力も凄い。特にラップシーンでラテュロスがマイクを持って気持ちを歌い上げるシーン。圧倒された。
彼女の演技はもっと観たいと思った。

最後に大鶴義丹さん、彼は唐十郎の息子さんなんですね、知らなかった。
彼は今作品中では、ピュラデスの父ストロピウス、船長のカローン、頭領、フィロス、プロメテウスである。フィロスだけが清々しい青年という印象で毛色の異なる役だったが、それ以外は親父役といったところか。
個人的に好きだったのは、ストロピウス役とプロメテウス役。ストロピウス役では、あの声の通った威厳のある役が凄くハマっていて良かった。またプロメテウス役は、凄く台詞一つ一つに重みを感じたあたりが好き。プロメテウスは神なので、やはり台詞一つ一つが諭されるような印象があるが、そこをしっかり決めてきた感じである。適役だったと思う。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今作品を拝見する前は、杉原邦生さんが過去に手がけてきたギリシャ悲劇の「オイディプスREXXX」「グリークス」を拝見していなかったので、正直楽しめるかどうか分からない側面が大きかったが、いざ蓋を開けてみると前提知識はパンフレットに書いてある事項のみで良かったし、古代ギリシャの歴史やギリシャ神話を読んでいなくても十分楽しめたので非常に観劇して良かったと感じている。
ここでは、ギリシャ悲劇初観劇の自分にとって、この作品から伺えるギリシャ悲劇と現代劇の調和について考察する。

ギリシャ悲劇というと、ギリシャ神話をモチーフとした悲しいストーリーを連想する。神話というくらいなので神々が登場するのだが、古代ギリシャでは今のようにテクノロジーは発達しておらず、全てが神頼み、何か不幸なことがあればそれは全て神の仕業と考えられたように、神が人間に与える影響は測りしれないと思う。人間は非力で神が絶大な力を持つと考えられた上で作られたお話という印象だった。
もちろん、現在は神なんて存在しないことはみんな分かっているし、テクノロジーが発達したので神へのお祈りなんて不要になった。しかし、ギリシャ神話と現在でも共通する要素ってものは存在する。それは人間同士が感じる愛おしさや憎しみである。
今作品の中では、様々な登場人物が抱く他者への愛と憎しみが存在する。戦争で敗れた者が戦争で勝利した者に対して抱く憎しみ、愛おしいと思うからこそ自分の思い通りになってくれないと感じる時の憎しみ。これらは、どんなにテクノロジーが発達しようが人間が抱く普遍的な感情である。そういった気持ちが現在を生きる人間にもあるからこそ、ギリシャ神話は朽ち果てることなく世界中の人々に読まれ続けるのだろう。

今作品では、そんな愛と憎しみを現代風に刷新してラップ調で語るという演出手法をとった。なるほど、ラップでストレートに各々が感じる相手への想い、それが愛おしさだろうが憎しみだろうが歌うことによって、痛烈に聞いている観客の心に突き刺さる。
愛と憎しみといういつの時代にも存在する普遍的なテーマを、現代に響くラップという手法で伝えることによって、よりこのギリシャ悲劇が現代を生きる人間にもまるで当事者のように響き渡る効果を作り出しているといった訳だ。こういった演出を思いつける杉原さんは流石である。

さらに、今作品はオレステスとピュラデスという二人の男性の友情を超えた愛情もまた、愛と憎しみとなって作品全体に良い味を出している。もちろん、ギリシャ神話に同性愛なんて登場しないだろう(おそらく)。そこをギリシャ神話にも盛り込むことによって、より現代に近いテイストとなって現代ウケしやすい作品となっている箇所も面白い。

そして最後にプロメテウスが、ピュラデスに諭すように「自分の心の中の炎を鎮めよ」と説いてくれるが、ここで面白いのがこの作品で最も伝えたいメッセージ性が、現在ではリアリティのない神の存在によって諭されることである。個人的にはこの台詞はかなり説教としてグッときた。これは、今作品を通して観客が古代ギリシャ人が神から神託を受けるということがどんなものなのかを教えてくれる演劇体験なのではなかろうかと思っている。
そもそも、観客の多くがピュラデスに感情移入しやすい作品構成になっていると思っていて、親の言うことを聞かずにタウリケへ向かったり、好きな人とずっといたいからその人についていくみたいな。だけど、旅の仲間からしたらピュラデスの目的って何なのか分からない、自分の生きている目的って何なのか分からないと共感出来る人も多いのではなかろうかと思っている。
その自分の置かれた状況に近いピュラデスが、最後に神から神託を受けることによって、自分もプロメテウスから「自分の心の中の炎を鎮めよ」といわれているような気がしてきて、決して感情的にならず、だからといって過去に対して無関心にならずにグッと留めた状態で生きてこそ、自分が成し遂げたい真のやるべきことが見えてくるんだといった教えを受けた感覚に陥るんじゃないかと思っている。
これこそが、ギリシャ悲劇と現代劇が調和した先に初めて出来る演劇体験なんじゃないかと思う。

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【写真引用元】

Twitter 公式アカウント
https://twitter.com/orestes_pylades
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/news/406307

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