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2019/11/25 映画「湯を沸かすほどの熱い愛」鑑賞

映画タイトル:「湯を沸かすほどの熱い愛」
鑑賞方法:Amazon Prime Video
監督:中野量太
製作年:2016年
個人評価:★★★★★★★★☆☆

かなり評判の高い映画だったので鑑賞。
今まで観てきた映画の中で一番泣いた気がする。兎に角序盤から終盤まで泣かせにくるシーンの連続だった。言ってしまえば予告動画でもうるっと来たくらい。
そしてキャスト陣も皆素晴らしい演技、特に宮沢りえさん、杉咲花さんの演技は最高だった。
家族愛とは何なのか、人のために尽くすことの素晴らしさ、助け合って生きていくことの素晴らしさ、色々生きていく上での教訓がこの映画の中には詰まっていた。
明日へ生きていくための活力になる万人にオススメの傑作。



↓以下はネタバレを含むレビュー

【鑑賞動機】
最近は邦画をよく観るので邦画の名作をもっともっと観たいというのと、この作品は結構評価の高い作品だったので一度観てみたいと思っていたから。また、以前映画「楽園」を観て杉咲花さんの演技が素晴らしかったので、他の出演作品も観たいと思ったから。

【世界観】
舞台はとある田舎の銭湯を営む幸野家が舞台。途中で出てきた病院に「渡良瀬」という地名が入っていたことから足利市が舞台なのだろうか。何十年も続く老舗の雰囲気がとても良く表現されており、煙突から煙が出るカットがとても印象的だった。

演出に関してもとてもわかりやすい設定が良かった。
例えば、この映画で重要な意味を持つ「赤」は、旅行にいく際の車体の色、最後のシーンの煙突から出る煙の色、序盤で双葉が好きだと答えた色など双葉のイメージカラーを示しつつ、湯を沸かすほどの熱い愛の色を表していて、双葉と強い愛に溢れる彼女の性格を上手くリンクさせている点が好きだった。
また、夫の一浩が双葉に叶えて上げたいピラミッドを見たいという夢も、上手くストーリーに繋がっていて、木材でピラミッドを作ったり組体操のように体でピラミッドを表現して見せたりと、実際のピラミッドを見せに行くほどの力はないけど、夢は叶えてあげたいという一浩の性格が表現されていて好きだった。
それと、幸野家の貧しさを象徴するものとして、葬儀のお経をラジカセで流したり、火葬場に遺体を運べなかったりと演出がとてもリアルで抜かりないなと思った。

劇中に流れるBGMも個人的には結構好きで、序盤にかかるピアノがベースの暖かい曲が明るい雰囲気を出していて特に好きだった。エンディングも、双葉が亡くなってしんみりとした終わり方をするのではなく、きのこ帝国の「愛のゆくえ」のギターベースの明るい曲で終わるのが結構良くて、残された家族の今後の明るい未来を上手く示していて良かった。

【内容・ストーリー】
夫の一浩が突然失踪し、今まで営んできた銭湯を一時休業していた幸野家は、生活がとても貧しく、妻の双葉はパン屋で働き、娘の安澄は中学校でいじめられる毎日。

ある日、双葉は第四ステージの末期ガンであることを医師から宣告される。一浩の居場所が分かった双葉は、彼に会いに行き余命幾ばくもない事情を話すことで、浮気相手の娘鮎子と4人で暮らし始めることになる。

自分がガンであることを隠しながらも一生懸命に生きながら、安澄を学校へ行かせたり、戻ってこなかった母親に対して悲しみにくれる鮎子に寄り添ってあげたり、旅行先で知り合ったヒッチハイカーの拓海の目標を見つけてあげたり、安澄の本当の母親が君江であることを教えて挨拶するように言ったりする。

そして最期はみんなに暖かく見送られる。

いじめや夫婦問題、不倫問題による腹違いの姉妹という複雑な家族構成、親子愛の欠如、目標のない人生、聴覚障害などあらゆる社会問題を包括しながら上手く一つのストーリーにまとまっていた。
これでもかと思うくらい、心に突き刺してくる現実の連続に内心疲れはするものの、このくらい観客を引き込ませるストーリーの連続というのは、良く出来た映画だと思った。

【キャスト・キャラクター】
どのキャストも素晴らしかったのだが、一人一人見ていく。

まず、主人公の双葉演じる宮沢りえさんの演技はとても熱意がこもっていて素晴らしかった。キャラクターがとても強い愛に溢れる母という設定なので、演技に熱意がないとそもそも務まらないが熱演仕切っていて素晴らしかった。
ダメダメな一浩の家に踏み込んでおたまで血が出るほど殴り、玉ねぎの切り方にケチをつける恐妻家ぶり、学校に行きたがらない安澄に学校へ行くよう布団をむしり取るように奪って起こす母親としての強さ(ついつい娘に同情して休ませてしまいそうなところを学校に行かせるという強さ)、鮎子に対して黙って実の母親に会いに行った際にそこを同情せずちゃんと叱りつける姿、ヒッチハイカーの拓海に目標を持つように諭す強さ、そしていきなり君江へのビンタ、どの姿もやり過ぎではと思ってしまうが、余命幾ばくもない身からしたらお節介に思えてもそこまでみんなのことを真摯に考えて行動を起こすのかなと思った。生きる力すら貰える演技だった。
それと、少し細かいが最期の病棟で容態が悪化した時の顔色が、もう本当に死人のようでとても芝居だと思えなかった。特殊メイクでもしているのだろうか、気になる。

次に安澄演じる杉咲花さん、いやこれもホントに見事な演技だった。序盤のいじめられていていつも涙目でビクビクしている姿は本当に上手いなと思った。そして、双葉からの喝が入って徐々に人間として逞しくなっていく姿にとても感動した。制服が絵の具まみれになり涙を堪えながら、自分でやったと言うシーン、手話で君江と会話する所で手話は双葉からいつか役に立つと言って勉強したと話すシーン、容態の悪化した双葉を見て涙を堪えながら笑顔で接しようとするシーン、どれも涙なしでは見られなかった。

そして一浩演じるオダギリジョーさん、キャラクター設定が本当にダメダメな父親なんだけど、どこか憎めない優しい性格を持っている。そこを上手く演じ切れているオダギリジョーさんがお見事。君江、双葉と結婚している上にどこかのスナックで出会った女と子供(鮎子)をつくってしまう、色々家族が複雑になったのも彼のせいなのになぜか憎めない。その上、双葉が病気になってもいつもタバコを吸っている、双葉の親に会いに車を出したのも一浩ではなく滝本。そんな無責任だけど愛嬌のある役を演じられるのはオダギリジョーさんだからであり適役だと思った。

それ以外の、拓海演じる松坂桃李さん、君江演じる篠原ゆき子さん、鮎子演じる伊東蒼さんも皆非常に好演だった。

【作品の深み】
この作品の深みは、終盤で滝本が放つ台詞「双葉さんにだったら色々やってあげられちゃうんですよね、それって普段僕たちが何十倍もしてもらっているって思うからなんでしょうね」というような言葉が言い表しているように、人々に普段尽くしてあげたり出来る人間は、みんなから慕われ恩返ししてもらえるってことなのではないかと思った。
確かに双葉があんなにも娘でない子供たちや血の繋がっていない拓海などに対して熱い愛を注いでいるにも関わらず、双葉の本当の母親だとされるミワコは、そんな娘いないと突っぱねられて理不尽な部分はあるかもしれない。しかし、愛を注がれた人間はしっかりと恩返しをしてくれるということをメッセージとして伝えたいのではないのかと思った。

双葉の葬儀には、双葉が生前に愛を注いできた面々が勢揃いしてお見送りをしている。それは、血が繋がった繋がってないは関係なくみんな恩を返したいからなのではないかなと思う。
逆に血の繋がった家族でも、鮎子を置いてきぼりにする母親がいたり、ミワコがいたりする。君江のように事情があって娘に愛情を注げないことだってある。
しかししっかりと愛が伝われば、安澄や鮎子みたいに銭湯の番を毎日する、拓海のように北海道の北端へ辿り着いて報告に来る、君江は娘に会いに来る、一浩のようにピラミッドを何らかの形で見せてあげるなど、愛の形は様々かもしれないけどみんな何かしら愛で返してあげるようになるのだなと思った。

【印象に残ったシーン】
正直沢山あり過ぎる。一番印象深いシーンは、個人的には双葉の容態が悪化して顔が死んでいて、その姿に涙を堪えながらも笑顔でそばにいてあげる安澄のシーン。一番泣けるシーンだった。
あとは、鮎子が母親に会いに行ったけど会えずに玄関で泣いていたシーン、安澄が君江と手話で会話し、手話を勉強するように双葉から言われていたことを話すシーン、学校に行きたくなくて布団に隠れている安澄を叩き起こして「しっかりしなさい」と諭す双葉のシーン、どれも泣ける名シーン。

【総評・レビュー】
この映画は、キャスト陣の演技力の高さや演出面での上手さなども評価出来るが、なんといっても泣かせにかかるシーンが多いことに尽きる。ちょっとずるいなと思うくらい。そして、明日へ生きる活力にもなるとても良い映画だった。やはり人のために尽くすことは大事なことだし、それは後で恩として返ってくる。もっと他人の力になれることをしようと前向きにさせてくれる映画だった。2016年公開の邦画は本当に傑作揃い。

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