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伊丹十三『タンポポ』

 先輩のすすめで、伊丹十三の『タンポポ』を観た。先輩まわりの美術界隈でも話題の伝説映画らしい。YouTubeで観たのだが、18禁シーンがカットされているらしく惜しかった(予告編で話題のシーンが観られる)。

 私が現在蕎麦屋に勤めていることや、ラーメン文化に触れる機会が増えた点で、何となく他人事ではない内容。制作で忙しい日々の合間でもすぐに着手し、案の定染み入るところも大きかった(厨房内での動線の訓練とか)。飲食業界に長い上司に翌日聞いてみれば「グルメという言葉(概念?)を広めた映画」だと教えてくれた。やはり、知る人ぞ知る…!

 あらすじは、シングルマザーが一人で切り盛りしてる売れないラーメン屋を、トラック運転手らがサポートしプロデュースするというもの。食がテーマでありながら、エロスを絡ませ全体にシュールである。関係のない挿話(そして気になる神話的メタファー)がかなり入っており、その謎展開は実験的でゴダールやキューブリックのよう。先輩が「実験性と大衆性の融合がうまくいってるという意味ではパルプ・フィクションにも通ずる」と言っていて、これはたしかに数多くいるであろうパルプ・フィクション好きの方々にも観てほしい。本作品は85年制作にしてはもっと古く見えるのだが(ちなみにパルプ・フィクションはその10年後制作)、あえて古風な作風&ベタな設定というのも、ある意味でパルプ・フィクションに似ているのかもしれない……

 これは同時にほっこりする人情喜劇である。「メタな視点から食と人間、人生を語っている感じ(先輩談)」で、心地良い。食オタクが沢山出てくるのだが、その食オタク自体の滑稽さも描いている(しかし敬意はある)。泣けるシーンもあるけれども、どこか滑稽さを忘れてなくて、これが伊丹節なんだろうか、と舌を巻く。滑稽な笑いと、生死の悲哀とを同時表現するスタイルについて、先輩は「笑いながら泣くことが生きること、と諭されてるよう」と言っていた。

 俳優陣も素敵で、山崎努も役所広司も渡辺謙もかなり若く、皆格好良い。キャラクターも、シングルマザーや妻に逃げられた男、などそれぞれ痛みのある良い人間であり、親しみが湧く。

 伊丹十三は映画だと『お葬式』『マルサの女』の方が有名のよう。今年は彼の監督作を漁ってみたい。監督本人の最期も、この作風を知るだけに衝撃を受けたが、エッセイも良いと聞き、彼の謳歌した生や大事にしたもの、文化やセンスについて知っていきたいと思った。(ちなみにタンポポ役は、監督の妻なんですね…美しく撮られていました)

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