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移住者と町の将来

 早川町役場総務課長である藤本勝さんは、役場職員としてだけでなく、地元集落の住民としても移住者と関わってこられました。そんな藤本さんに、集落のことや移住者の受け入れのことについてお話を伺いました。(文・渡邊)

早川町役場の政策
 早川町では今年度第7次の長期計画を作っています。長期計画は10年の計画を立てるんですね。これからの町の将来像と目標に向けた計画です。
 もちろん長期計画には移住者の受け入れのことも入っていて、移住者向けの住宅の整備等もその中に盛り込む予定でいます。移住者の中には空き家を利用して住むって人もいれば、空き家じゃちょっとやだという人もいるので。
 とにかく移住を増やして、なおかつその移住の中に山村留学を増やして小中学校の存続を何とかしようっていうことが、今一番の課題でもあるし、マストですね。
 今、町の人口はまだ1000人とりあえずあるんですけど(*1)、1000人を割ったら、だんだん町が暗くなっちゃう。1000人が一つの目安で、そこ以下にしたくないっていうのが本音です。社人研の人口推計では2025年頃には720人(*2)とされています。高齢化が進んでるんで、亡くなる方が今後増えてくるのが予想されるんですよ。それはしょうがないことですが、長期計画では、移住者も受け入れつつ720人から下げないようにする計画を盛り込んでいます。

*1 インタビューは2020年12月実施。2021年3月1日現在の人口は1000人を切り994人となった。
*2 RESAS 早川町の人口 参照

人口維持するために
 集落の存続ということも本当に考えていかないといけない。町の人口が減ること以上に、集落の存続ってのは大事ですね。じゃあどうするかっていうと、住環境の整備や職場の提供をできるような環境も作っていかないとならないのかなと。県道もだんだん良くなってきたし、通勤で30分ぐらいは当たり前なんで、町内で仕事が見つからなかったとしても、町外で仕事を見つけることも可能だし、仕事さえ選ばなければそれは可能かなと思います。
 なるべく子育て支援を充実させようっていうところは考えています。義務教育無償化事業っていうのがあって、小中学生は修学旅行とかそういう事業にかかるお金は一切取らないです。給食も全部無料です。それを一番最初にやったところは早川町なんですよね。
 あとは今回(来年度の事業で)、18歳までの医療費の窓口無償化もやるし、それからインフルエンザの予防接種で補助金を出すとか、保育園の給食費を全額無償化にする予定です。こういうふうなやり方で、何とか受け入れの体制を整えていきたいっていうところですね。
 予算はやはり一般財源だけをあてにするとなかなか大変なんで、少子化対策基金っていうのを設けて、そこへ積み立てて、随時、事業に充てられるようにしています。その基金もだんだん少なくなってきてるんで、また今年度積み立てて、だんだんその基金で賄えるような形でしていこうかなと思っています。

黒桂集落について
 黒桂(つづら)集落は山村留学者が来る前の10年前には10世帯で20人しかいなかったんですよ。今は山村留学関係で8世帯23人、それ以外が8世帯16人です。だから本当にね、今まで住んでた人の倍なんで、賑やかになりました。
 黒桂は春祭りと秋祭りがあって、今までは数人で質素にやってたけど、山村留学者が来てくれたおかげで賑やかになった。そういう点は受け入れてよかったかなというふうに黒桂集落では思ってます。黒桂の人も和気あいあいで気難しい人もいないので、移住者に対しての受け入れにはすごくいい環境だと思ってます。
 移住者の基本的な考え方は、とにかく住んでもらうには、集落に溶け込んでもらうのが条件ですね。行事もあれば必ず参加してくださいと。皆さん行事も出てくれるし、両親も出て子供も出たりするからね。だから本当に集落が明るくなりましたね。今まで子供の声なんか聞けなかったから。集落の人たちも喜んでると思う。
 うちの集落も区長をやる人がもう少なくなってきていて、5年に一回、区長の役が回ってくるんですよ。今年は山村留学で来てる方に区長をお願いしてやってもらっています。来年から山村留学の人たちにもう一役買ってもらうってことで、区の会計をやってもらうってことで、今考えています。

黒桂集落の山村留学者専用住宅について
 黒桂集落には4棟の山村留学者用町営住宅があります。2012年に2棟、2013年に2棟できました。3DKで家賃が2万3000円。新築の一軒家なのでかなり格安だと思います。この住宅には、子どもが中学生までしか入れないんですよ。順番に入れ替えで、中学卒業したら退居してもらっている。そうしないとどんどん新しい人が入ってこれないから。
 町長から、黒桂集落内の土地に山村留学用の住宅を建てさせてもらえないかっていう話があったんですよね。他の地区で、家を借りて山村留学したんだけど全然集落との交わりもない家族がいたみたいで、あんまり身勝手な家族が入ってくるんじゃ困るよということで、最初はみんな不安はあったと思います。でも、受け入れについては反対はなかったですね。うちの要望としては、ちゃんと面接をしっかりして受け入れをしてくれって教育委員会の方に話はしてるんで。
 黒桂での住宅の増設は予定していません。黒桂ばっかりに移住者が集中しても町全体のためには良くないと思うんですよね。ほかの集落も集落の存続が危ぶまれるところだから。だからやっぱり分散化が必要かな。来年度から中洲っていう北小学校の一つ上流(北側)の集落にも6世帯用の町営住宅をつくるという計画でいます。

空き家について
 空き家は、貸しても良いよって家主さんがいれば、改修工事に町が上限50万円の補助金を出しています。黒桂としては、空き家があれば、家主さんはもう町外に出てるんで、改修事業で50万まで補助金が出るんで貸してやってもらえますか、みたいな話は会えばしています。ネックなのは、やっぱり仏壇とかいろいろ置いてあるじゃないですか。そういうのを片付けたり、撤収しなきゃならないことですね。

雇用の問題について
 就職のことで困ってるっていう人には、私のわかる範囲では声をかけてます。私が斡旋して仕事についてるのはとりあえず1人。私が振興課にいたときに、奈良田の集落に放置された古民家があって、それを改築して、古民家カフェにしたんですよ。そこで黒桂にいる女性に、古民家カフェやってみないっていう話をして、やってもらってます。かなりお客さんが多くて、なかなか評価良いですね。男性にしろ女性にしても、何かあったら私が力になれることは力になるんでって話はして、私のわかる範囲で仕事の紹介をしてます。
 最近役場の職員を募集するとみんな町外の人たちなんですよね。新任職員には「早川には慣れた?」なんて声をかけるようにはしています。今回保健師の女の子が入ったんですけど、もともと山村留学で早川町に来た女の子で、山村留学できた子が早川町に就職するっていうのは初めてのこと。「今仕事面白い?」って聞いたら「面白い、やりがいがある」って言ってくれますね。せっかく早川町に就職したから頑張ってくれよっていう話をしています。

これからの移住者の受け入れについて
 移住者はどんどん受け入れていきたいと思っています。これからどんどん人口が少なくなってきて一番危惧しているのは、小中学校の存続。今、早川北小学校なんか9割型山村留学の人たちでなんとかやっているんですよね。それに来年は入学生が1人もいないという話だし、本当に小中学校がなくなれば、一気に地域の衰退が進んじゃうと思う。 だから受け入れはどんどんしていきたいと思っています。
 役場としても集落の存続としても、やっぱり人がいないと町は活性化しない。役場でいろいろイベントとか催しをやったとしても、参加してくれる人がいないと役場の職員も意欲がなくなって、消極的になっちゃうよね。私もそれを感じたことがあります。 防災とか災害対策とかそういったことは人がいなくても一生懸命できるんだけど、町民を対象としたイベントとか事業っていうのに意欲がなくなってできなくなっちゃう。 開催しても人が集まってくれないから。
 移住者を受け入れるってことはメリットの方が多いから、メリットが多いことは町がどんどん進めていかないとね。だから受け入れ態勢はちゃんとしていこうって町の人たちに話すようにしています。

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