やまなしフューチャーセンターをつくろう〜その6「デザインからデザイン思考へ」


前回からの続きです。

設計のデザインとMind Labのデザインを比べると

1週間の欧州視察から帰国後、早速、視察先で頂いた資料を読み返しながら、デザインについて調べてみました。すると、いろいろなことが見えてきました。

既に数十年が経過していましたが、私が設計を携わっていた頃にイメージしていたデザインの考え方とは、このようなものでした。

まず、クライアントから建物の設計依頼を受けます。この時点で、住宅、オフィス、商業施設など、クライアントの大まかな依頼内容や敷地条件、工期、予算といった諸条件が与えられます。そこからすぐに設計に着手するかというとそうではありません。実際にクライアントがどのようなニーズを持っているのかを把握し、設計に必要となる要件を詰めていきます。この段階では、データや既存資料などに基づきながら、どのような仕様のどのような部屋がどれくらい必要なのか、それぞれの部屋はどのようなつながりを持っているのかなど、求められる機能を明らかにしていきます。その上で、この建物を通じて、クライアントやユーザーがどんな暮らし方や働き方、さらには社会との関わりを目指しているのかといったビジョンを描き、それに基づく建物のコンセプトを立てていきます。それを、パースと呼ばれる完成予想図や模型、図面などを用いてクライアントや関係者間で共有していきます。その作業を何度も繰り返しながら、少しずつ実際の設計を詰めていきます。そして、設計図書が完成したところで、実際の工事に取りかかるというプロセスを辿ります。

一方で、Mind Labによる問題解決のプロセスは、以下のようなものでした。

まず、対象となるサービスが抱える問題解決に向けたプロジェクトを立てます。そして、サービスユーザーの観察やインタビューなどの調査を通じてユーザー理解を深めるとともに、問題の原因などを分析します。調査分析を通じて得られた結果から、問題の解決に向けたアイデア出しやコンセプトづくりを行い、それに基づく改善策を試行してみます。それにより、実際にユーザーが抱える問題が解決しているかどうかを何度もテストしながら、改善策をブラッシュアップしていきます。そして、試行結果を共有したうえで、改善策の実施を判断していきます。

出所:Mind Lab資料

デザイン思考は共感から始まる

これら2つのプロセスには、果たしてどんな共通点があるのか、そのことを、デザイン思考のプロセスを通じて考えてみたいと思います。

デザイン思考とは、人間を中心としながら問題解決を行っていくものです。アメリカのスタンフォード大学にあるハッソ・ブラットナー・デザイン研究所によると、それは5つのステップから成り立っています。

ステップ1:共感
ステップ2:問題定義
ステップ3:創造
ステップ4:プロトタイプ
ステップ5:テスト

デザインというと、作り手の想いや作品に注目されがちですが、実はそればかりではなく、人間中心の立場に立ち、ユーザーの抱える問題や解決したいことは一体何なのかを共感することから始まります。

それは、単に問題を「理解する」と言うことではなく、自らを、問題を抱くユーザーの立場に置くことで、その問題を自分事として「共感する」ことなのです。建物の設計における現地調査に基づく要件整理、またMind Labにおけるユーザー理解は、ユーザーにとって問題であるのか、何を求めているのかを感じ取るフェーズなのです。そのうえで改めて問題を定義することが重要なのです。設計に例えると、それは単に「住宅」や「商業施設」をつくるということではなく、建物という手段を通じて満たすべきユーザーのニーズとは何かという彼らの本当の目的を明らかにすることです。また、Mind Labでのインド人移住者が抱える一つ一つの問題点を明らかにすることなのです。

そして、新たに定義された問題や解決すべき課題に対して、新たなアイデアを用いて提案していくことが、「創造」のフェーズです。この段階で、問題解決につながる新たなアイデアや想像力が必要となるのです。しかも、アイデアを言葉としてだけではなく、目に見えるものや触れることのできるものとして表現していくのです。ユーザーが表現されたものを疑似体験することで、彼らが本当に求めているものかどうかを擦り合わせながら、その距離を縮めていきます。設計に例えると、それがパース(完成予想図)やモックアップ(模型)、図面などであり、Mind Labのプロセスにある「コンセプト」とその「テスト」の段階となります。

このときのユーザーとは、サービスを提供する相手であると同時に、それを一緒につくっていく一員でもあることがわかります。対話を通じて相手に共感していくということ、また、テストを通じてユーザーがプロセスに参画していくことは、これまでのユーザーとサービス提供者という関係自体を大きく変えていくことと捉えることもできるでしょう。

こうして得られたフューチャーセンターとデザイン思考の考えは、その年の1月末に山梨県立図書館にて開催された大学COC事業のキックオフシンポジウムで発表されました。

この記事は、山梨県立大学理事(学生・地方創生担当)である佐藤文昭が書きました。(2018年8月23日)


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