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JFA会長 田嶋幸三さんに訊いた「スポーツを通じた人と地域社会の成長」~ビジネスパーソンにも響く、サッカー日本代表の指導者養成・強いチームづくり~

ひと昔前の指導方法では立ち行かなくなっているのは分かっているけど、どうしていいのかわからない…。
人を育て、強い組織をつくるためには、何を守り、何を変えていくべきか?

そこで、山下PMCがPM/CMを担当した日本サッカー代表の新拠点「JFA夢フィールド」をプロジェクト責任者の山下PMC 専務 木下雅幸と代表 川原秀仁が訪ね、JFA会長田嶋幸三さんにヒントを訊きました。

テーマは、スポーツを通じた地域社会への貢献、人の育成ですが、日頃、スポーツへの関心、プレイ・観戦習慣のない方でも、身近なビジネスシーンでの気づきにつながる普遍的なお話しです。

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日本サッカー協会会長
田嶋幸三さん

公益財団法人日本サッカー協会(JFA) 会長、国際サッカー連盟(FIFA)カウンシルメンバー。日本代表FWとして活躍したのち、ドイツに留学してサッカー指導者としての研鑽を積む。帰国後は立教大学や筑波大学で教鞭を執る傍ら、コーチとして活動。日本サッカー界の主要なポストを歴任し、若年層の育成に深く関わると同時に指導者育成の重要性を説き、統括的な人材育成システム構築に深く関わってきた。

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山下PMC 代表取締役社長 社長執行役員
川原 秀仁

農用地開発公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年より山下PMC(当時の社名:山下ピー・エム・コンサルタンツ)の創業メンバーとして参画し、国内のコンストラクションマネジメント技術の礎を築く。著書に『施設参謀』(ダイヤモンド社)、『プラットフォームビジネスの最強法則』(光文社)がある。

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山下PMC 取締役 専務執行役員
木下 雅幸
株式会社山下PMC 取締役 専務執行役員。山下設計、大手生命保険会社を経て、山下PMC 入社。事業会社の参謀としてビジネスモデル創出型のサービスを展開。「JFA 夢フィールド」「エスコン フィールドHOKKAIDO」「横浜市役所新庁舎」「エイベックス本社ビル」等を担当。著書『ムダな努力ゼロで大成長 賢い仕事術』。

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プレイヤー、職員、地域住民。老若男女問わずオープンな環境「JFA夢フィールド」

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「JFA夢フィールド」の施設内からは、通年ピッチが見渡せ、職員からも好評を得ている。

川原秀仁(以下・川原) ここを訪れるたびに思うのですが、すばらしい環境ですね。
田嶋幸三さん(以下・田嶋) ありがとうございます。完成から約9カ月経ちましたが、職員はみな、ここで働きたがっているんですよ。
木下雅幸(以下・木下) それは嬉しいですね。職とスポーツが一体化していますし、「夢フィールド」というネーミングがぴったりな場所だと思います。
田嶋 働く環境というのは、本当に大事ですよね。ここでは私の部屋もデスクもありません。アドレスフリーなんです。でも、いろんな職員と出会い頭に立ち話をしたり、お茶を飲んだりしたりして、「ああ、これなら垣根がなくなるなあ」と実感しています。
木下 コミュニケーションが取りやすくなれば、風通しもよくなりますね。新たなアイデアも生まれるでしょう。
田嶋 はい、まさにその通りです。それから、監督以下コーチやレフェリー、分析班まで全員ここにいるので、情報の共有がスムーズになりました。今までは、たとえばレフェリーと監督が話す機会はあまりなかったのですが、同じ施設内にいる今はすぐに情報交換ができます。「これって本当にPKになるんですか?」といった相談もしやすく、さっと外に出てデモンストレーションができるので、とてもいいですよ。
川原 インテリジェンス機能を1カ所に集めた結果、微妙なニュアンスの情報共有が分野を超えて瞬時に広がり、伝達のスピードが格段に上がったんですね。
田嶋 それからここは羽田と成田の間にあり、立地面でも恵まれた場所です。ヨーロッパ帰りの選手のアクセスもよく、帰国後速やかにコンディションを整えられます。
木下 なおかつ、一般の方も入ることができるオープンな環境を実現させた点がすばらしいですよね。老若男女を問わず、散歩に来た人がサッカーを間近に見ることが可能です。従来はクローズドな施設が一般的でしたから。
田嶋 以前、ここでオリンピック代表選手達の練習があったのですが、ピッチ外に設けた席に座られる人がいたり、ネット越しにお子さんが見ていたりして、あの風景を見たとき「ああ、僕らが意図して描いた景色だ」と感激しました。現場からは(練習を)非公開にできるように、という声が上がったのも事実です。でも、今どきドローンを飛ばされたら隠しても意味がないので(笑)、これからも基本的にはこのかたちでいこうと思っています。
川原 身近にサッカーに触れる人を増やすことでサッカーに興味を持つ人や競技人口が増え、結果的に代表チームを強化していくような、いいスパイラルになっていると思います。

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JFA夢フィールドのクラブハウス正面。木の素材「和」を表現した。施設は中から通年美しいピッチが見渡せ、職員からも好評。

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サッカーだけじゃない。他競技・地域とつながる”オープンマインド”

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「JFA夢フィールド」は、日本代表選手、近隣の市民が一緒になって芝生の植え付けを行った。
提供:JFA

田嶋 ここは、千葉大学医学部附属病院と医療環境の確保を目的とした協定を締結しており、ここで検査や診療が必要になった場合、同病院の医療支援を受けることができます。実際、ヨーロッパに遠征するときに、ドクターと検査技師がここに来てPCR、千葉県で行われた柔道の体重別選手権でも検査を行いました。スポーツ界全体に貢献できれば、と思っています。
川原 本当にすばらしい!社会に貢献しつつスポーツ人口とを増やしていくというJFAの理念に大いに共感します。
木下 サッカーだけよければいいという発想ではなく、他競技団体への貢献や、まちや地域とどう関わっていくかという意識の面でも、オープンマインドですよね。建設プロジェクトが発足した当初からその気持ちが伝わってきました。
川原 だからこそ「近隣の人が利用しやすい温浴施設をつくって、賑わう場所にしていきましょう」という提案につながったのだと思います。
田嶋 あの温浴施設『幕張温泉 湯楽の里』はおかげさまで、地元のプロジェクトが発足した当初から方々に大人気なんですよ。
川原 私も地元住民ですが、いつも駐車場がいっぱいで、なかなか入れません(笑)。
木下 これからのスポーツ施設は、まちの人の暮らしの中で目的地になる仕掛けが必要です。ここは理想的な空間づくりができていますし、スポーツビジネスをやっている人達が学ぶべき点は多いと思います。
川原 ZOZOマリンスタジアムや、さらにいろいろな施設とつながることで、よりファンな場所になっていく可能性があります。我々もぜひご支援させていただきたいと思います。
田嶋 ありがとうございます。「サッカーだけではなく、すべてのスポーツの発展を」という発想は、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎(現JFA相談役)から引き継がれた理念であり、原点でもあります。

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JFA夢フィールド内にある『幕張温泉 湯楽の里』は幕張近郊の住民の憩いの場となっている。
写真提供:幕張温泉 湯楽の里

JFAの理念

【理念】
・サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する。

【ビジョン】
・サッカーの普及に努め、スポーツをより身近にすることで、人々が幸せになれる環境を作り上げる。
・サッカーの強化に努め、日本代表が世界で活躍することで、人々に勇気と希望と感動を与える。
・常にフェアプレーの精神を持ち、国内の、さらには世界の人々と友好を深め、国際社会に貢献する。

【バリュー】
・エンジョイ/スポーツの楽しさと喜びを原点とすること
・プレーヤーズファースト/選手にとっての最善を考えること
・フェア/オープンかつ誠実な姿勢で公正を貫くこと
・チャレンジ/成長への高い志と情熱で挑戦を続けること
・リスペクト/関わりのあるすべてを大切に思うこと

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これからのチームづくりは、自ら努力する選手を育てる、“プレーヤーズファースト“

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プロの練習を見るオープンな環境
壁や垣根をつくらず、まちの人に開かれた施設となったため、一般の人々も日本代表選手の練習風景を見学できる。一流選手の姿を身近に見ることで、子どもがサッカーを始めたり、関心をもつきっかけになる。
提供:JFA

川原 私は熱烈なサッカーフリークとして、昭和40年代から日本のサッカーをウォッチングしてきました。この10年、世界のトップリーグで活躍する日本人選手を見て、「夢は叶うものだ」と勇気をもらってきました。
田嶋 チームの強化と選手の育成は重要課題です。ワールドカップで優勝した国は、ウルグアイから始まって、ブラジル、アルゼンチン……など、たった8か国しかありません。その8カ国に共通することは、老若男女を問わず、サッカー競技者の底辺の層が厚いということなんです。そして、100年に近いプロサッカーの歴史があるのです。
川原 なるほど、プレーヤーの層が厚い国ばかりですね。
田嶋 ですから、プルアップだけではなく、ボトムアップと両方やるのが僕らのやり方です。全国の優秀な選手をピックアップすることは必要ですが、サッカーの上手い子がそのまま成長してプロとして活躍するとは限りません。まずは裾野を広げ、サッカーだけでなく心技体を伸ばし、1ランク上の
スタンダードを目指していく。その積み重ねでサッカーエリートが育っていくのだと思います。
川原 メッシやクリスティアーノ・ロナウドのようなエリートが活躍する世界の舞台が見えていますから、そこをみんなで目指していこうということですね。
田嶋 そういう夢を持たせられるかということが、非常に重要なんですね。人の能力を伸ばすには、今ある天井をいかに高いところに引き上げられるかがポイントです。僕自身は1980年代から指導者養成を専門にやってきましたが、これからも徹底してやりたいと思っています。
川原 わが社も指導者養成がまさに重要課題です。よい指導者の育て方にコツはあるのでしょうか?
田嶋 たとえば、日本代表の森保一監督には日本代表チームを勝たせることが求められます。しかし、子どもを教える指導者は、勝つことを求めてはいけません。
川原・木下 なるほど。
田嶋 勝つことを求めたら、最近でこそ少なくなりましたが、怒鳴って力づくで走らせて……というような罰を使ったやり方の方が簡単です。でも、そんなやり方では決して上手くなりません。そもそも身体的な成長は個人差がありますし、心技体を同時に育てなければなりません。また、内発的動機付けで自ら努力する選手を育てない限り、世界では勝てないのです。つまり、「このタイプの指導者が成功する」という形はないんです。
川原 指導者もいろいろなタイプがいていいのですね。
田嶋 はい。大事なのは「選手に内発的動機づけをでき、選手の成長を考え、愛情を持って指導する」という“プレーヤーズファースト”をわかっているかどうかです。逆に、一番いけないのは「俺が勝ちたい。俺の面子のためだ」と思っている人。そういう指導者に人はついていきません。「この人は本当に私のことを育ててくれようと思っている」と思わせるかどうか。というより、心から思っていなければダメなんですね。選手も子どもも見抜くのが早いので、フリをしても通用しませんよ。
木下 「背中を見て育つ」とか「黙ってついてこい」というのはまったく通じない時代ですからね。
田嶋 時代の流れに合わせていくことも大事でしょうが、何かを犠牲にしてでも情熱を持って育ててくれる指導者に選手はついていくものです。

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ベクトルが同じ方向を向けば推進力に

田嶋 日本サッカー協会は今年100周年を迎えます。
川原・木下 おめでとうございます。
田嶋 やはり100年を刻んでこられたのは、志や理念、ビジョンが明確にあり、諸先輩方が一歩ずつ積み上げてきてくださったからです。ただ、今までと同じやり方を続けていけばいいかというと、そうではありません。インターネットの普及により、テレビの視聴率も下がってきていますし、なんとか次の100年に通用する新しい日本サッカー界をつくっていかなければ、と思っています。
川原 未来のために変わらなければいけない部分もあるのですね。今、コロナ禍の影響でワールドカップの予選がなかなか開けず、ご苦労なさっている部分も多いのではないでしょうか。
田嶋 はい。現場の指導者にとっては、ヨーロッパでプレイしている代表選手を集めてチームの戦術を徹底させる機会が必要なのですが、それができません。ただ逆に、こういう危機だからこそできたこともあります。去年の10月、11月に代表チームの国際親善試合を実現させたんです。たった2カ月で。
川原 通常は相手チームやスタジオを決めて交渉するだけでも1年近くはかかるでしょう。
田嶋 はい。みんなのベクトルがあちこちに開いてはダメですが、1つになったことで推進力に変わったのだと思います。僕が「やれるか?」と言ったことに対して、最初から「NO」と言わない職員がいっぱいいてくれたおかげです。
木下 今のお言葉はいろいろな示唆に富んでいますね。我々の建築のプロジェクトもある意味代表戦に近いわけですが、現実には各エキスパートがそれぞれのパフォーマンスを最大化するために努力しても、全体が最適に向かわないことがありますから。
田嶋 チームプレイでは「このチームは負けてもいい」と思っている人間が1人でもいたら勝てません。やはりみんなが“自分事”として受け止め、同じ方向を向けるかどうか。それをまとめるのがリーダーの重要な役割だと思います。
木下 みんなが自分事として捉えるような環境をどうつくるのか。我々がリーダーとして向き合わなければならない課題でもあります。
田嶋 リーダーは「結果が出せなかったら辞めればいい」というものでもありません。時には歯を食いしばってでもやり続けなければいけないときがあると思います。
川原 よくわかります。我々の責任というのは、辞めれば済む問題ではないんですよね。ビジネスは結果も大事ですが、目標に到達するプロセスも大事ですから。
田嶋 一方で、僕らは決定的な数字というのを受け入れなければいけません。試合では5対0でも、3対2でもPK戦でも、負けは負けです。僕らの夢は非常にシンプルで、「2050年までにワールドカップで優勝したい」、それだけです。
川原 私自身の夢もまったく同じです! ここから代表選手を送り出してください。

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JFA夢フィールド
JFA夢フィールドは、JFAが提唱する「選手育成・代表強化・指導者養成の三位一体+普及」の核となる拠点で、男女各カテゴリーの代表スタッフ、指導者や審判員のインストラクター、また、メディカルやフィジカル、テクニカルの専門スタッフが日々活動を共にする中で課題を共有し、それを解決していくことを目指しつくられた。



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山下PMCは、日本初のPM(プロジェクトマネジメント)/CM(コンストラクションマネジメント)専業会社。現在、総事業費3兆円以上の施設建築プロジェクトを担当。100名の一級建築士をはじめとする、建築のプロフェッショナル集団です。 https://www.ypmc.co.jp/