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Agoop代表 柴山 和久さんに訊いた「人の暮らしや移動を見える化するデータサイエンスの可能性」

感染症拡大抑制のため、人びとの行動データに大きな注目が集まりました。なかでもまちごとに訪れた人の増減を見える化したAgoop 提供の人流データは、分かりやすさと精度の高さが評価されています。同社を設立した柴山和久さんは、人びとの行動をリアルタイムかつ正確に把握し、その人の流れに対し、最適なまちや施設の運営のあり方を導き出します。建築とデータサイエンスの融合の先にはどんな未来が広がるのか。山下PMC 代表 川原秀仁が話を訊きました。

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Agoop 代表取締役社長兼CEO
ソフトバンク ビッグデータ戦略室 室長
柴山 和久さん(写真左)

1966 年、神奈川県生まれ。株式会社Agoop 代表取締役社長兼CEOを本務とし、ソフトバンク株式会社ビッグデータ戦略室室長を兼務。「地理情報システム(GIS)」を活用したデータ解析システムの企画開発やスマートフォンから位置情報ビッグデータを収集・解析し、世界初となるビッグデータを活用したネットワーク品質改善システムの構築などに携わる。近著に『AIの未来をつくる ビヨンド・ビッグデータ利活用術』(日経BP)がある。

①まちと人の関係を見える化する人流データ解析

川原秀仁(以下・川原) コロナの感染症拡大は、まちと人の関係を大きく変えました。密を避ける行動様式の変化が、身近なコミュニケーションにとどまらず、まちの賑わいにも影響を与えています。しかし、その日時にたまたまその場所に居合わせた結果でしかないまちの密度を個々人が把握するのは困難です。
 そうしたなか、TVなどのニュースで、主要都市の人出が、コロナ禍前や2度の緊急事態宣言によってどう変化したかが毎日報道されるようになりました。データ提供にクレジットされているAgoopは、柴山さんが設立した会社。ソフトバンクのビッグデータ戦略室室長と兼務されていますね。

柴山和久さん(以下・柴山)
 人流データ解析という情報処理の技術を用いたものです。実はコロナ禍以前から、総務省の依頼でオリンピック開催時のインバウンドの動態予測や防災科学技術研究所と協力して大規模災害時の被災者の動きを把握する研究のために提供していたものです。 2020年、政府がコロナ対策として人流データを見たい、さらには内閣府からは国民にも情報提供したいとの要請がありました。現在は内閣府のWebサイトで公開されています。それを見た各マスコミからの要望もあり、無償で提供し続けています。

川原 柴山さんは著書のなかで、ビッグデータを深掘りしたディープデータの可能性を説かれています。実は施設づくりの立場からとても興味をもちました。今日はじっくりとお聞きしたいです。

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データ提供:株式会社Agoop 
※平常時:2020/01/14~2020/02/14の15時台の平日平均
※平常時におけるメッシュ内の平均人口が100人未満の場合は非表示にしています。
人流データを「メッシュ流動人口」として表示。2020 年1月14 日~ 2 月14 日の15 時台の平日平均人口を平常時における基準とし、各集計期間と比較して増加した場合を赤色、減少した場合を青色で示す。図は1kmメッシュ内で表示。いずれも都心部での人口減が確認される。青色(人口大幅減少エリア)への経済支援、赤色(人口大幅増加エリア)への感染症拡大防止の施策を検討する資料となる。

②人流データを深掘りし人びとの行動背景を知る

柴山 ご紹介した人流データは、ある時間、ある場所の人の所在なので、この基礎データそのものはまだビッグデータの段階です。実は通信事業においては基地局をどこに置くかが重要です。単純に国勢調査の人口密度に合わせても、実際の通信の使用実態には対応できません。「輻輳(ふくそう)」といって、大勢の人がアクセスすると通信速度が低下、つまり、つながりにくくなります。これは話題の施設ができた、イベントが開催された、といった人の行動の背景にあるものが影響しています。

川原 そこです。当社も施設をつくるだけでなく、その後の運営も支援しています。人の行動の背景はどのように知るのでしょうか?

柴山
 POIと呼ばれるデータがあります。これは、官民の施設の座標をさらに業種や業態別に分類したものです。他にもさまざまなデータを集め、人流と重ねて分析する。これにより、低コストで正確な基地局設置が可能になりました。2012年当時、ソフトバンクが「つながりやすさNo.1」というCMを打ちましたが、こうした技術的背景があったからこそ実現したわけです。
 この解析手法には副産物がありました。たとえばスタジアムでイベントを開催し駐車場にキッチンカーを配置したが思ったほど利用されなかった。来場者の動きを見ると、少し離れた繁華街に流れ、飲食を楽しんだことが分かります。では、もっと近くに本格的に飲食が楽しめる施設があれば、スタジアムの運営と相乗効果が狙える。そうした判断が可能になります。

川原
 施設だけでなく、人流を行動背景も含めて分析する。まさに新しいマーケティングですね。そうしたデータサイエンスが、建築の世界にも必要だと日々痛感していました。
 当社は、2023年開業予定の「ES CON FIELD HOKKAIDO」(北海道ボールパークFビレッジ新球場)のプロジェクトに参画し、事業性の検討から施工までを担当しています。日本のスポーツビジネスの本格的な発展のオリジンとなる施設にしたい。そのためには、人流というビッグデータだけでなく、人びとの行動背景にまで目を向けるビジネスインテリジェンスを身に着けないといけない。

柴山 
おっしゃる通り、大切なことです。時代の感度の高い企業からは、このコロナ禍だからこそ、多くの問い合わせをいただいています。

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データ提供:株式会社Agoop
人流データを2020 年1月1日~ 2020年2月中旬まで、日別で集計。青色が平日、赤色が休日。
1 回目の緊急事態宣言は、2020 年4 月7 日の東京含む7都府県に発布。4 月16 日に全国に拡大された。5月25日に全国で解除される。その間の東京駅周辺の人流の減少、特に5月2日~6日の5連休の減少がよく分かる。テレワークなどの導入により、完全に元の人出に戻らない状況だった。
2 回目の緊急事態宣言は、2021年1 月7 日に東京含む1都3 県に発布。1 月13 日に全国11 府県に拡大された。1回目に比べ大きな減少にはなっていないが、感染症拡大 前よりも大きく減少していることが分かる。

③建築と人々の幸せな関係を築く

川原 これは大きな反省点でもあるのですが、建築産業は「つくり手側の視点」で考える傾向にあります。施設の稼働率を上げようと、IoT、AIなど、バズワードにすぐ飛びつくのですが、テクノロジーを活かす手法をもち得ていない。柴山さんの手法であれば、施設を利用する人々が「ここに来て
よかった」「楽しかったからまた利用したい」という心理的側面まで見えてきそうですね。その可能性はありますか?

柴山 だいぶ見えてきています。しかし、それは「あなた」という特定の個人の内心ではなく、ライフスタイルの変化という大きな流れの把握です。解析を続けて分かったのは、人の行動は「抜け道」を探すことで変わるのです。
 渋谷や歌舞伎町は密だから来ないでくださいと情報が出ると、本当に減るんです。一方で、荻窪や亀戸など、郊外は人が増えました。すると今度は、郊外の飲食店が足りないという状況が生まれてきます。そこに飲食店出店のビジネスチャンスが見えてくるのです。

川原 柴山さんの解析手法を知り、一番関心をもったのはそこです。今後、都心から人がいなくなるということにはなり得ない。都心には必要な機能がありますから。しかし、都心、郊外、田舎など、それぞれの役割に応じた移住や人流が進み、地域の「平準化」が起こると考えています。
 その上で、各地域のブランディングを行えば、魅力的な地域が点在するまちの広域ネットワークができるのではないでしょうか。

柴山 分散と平準化。私もそれに賛成です。それこそが、新しいライフスタイルとなるでしょう。リモートワークの在宅勤務が日常になったように、今後も働き方改革が進み、週休3日、通勤も週1回という暮らし方により、平日と休日という人流にも変化が起きます。一番影響を受けるのは施設の稼働率だと思います。
 これまでは人の行動変容をリアルタイムにアクチュアルに分析する手法がありませんでしたが、ディープデータはそれを可能にします。把握し、検証し、理解する。施設の活用は大きく変わるでしょう。

川原 ビジネスですから、コストを抑える、収益を上げる。その要は施設の稼働率です。しかし、従来はどうしても波が生じていました。建築業界がデータサイエンスを取り入れることで、施設同士の複合的な平準化に取り組めば、補い合って緩急なく稼働が効率化し、結果、全体が潤っていくはずです。

柴山 そこが大切な視点です。これまでのような一極集中では全体が潤わない。なぜなら、人が集まるだけで他へ動けないと疲れてしまう。幸せじゃないんです。情報が人を動かし、分散と平準を生み、社会の稼働率を上げる。そういう意味でも、施設とデータの掛け算には大きな可能性があります。

川原 私たちの次の一歩は、かなり距離を縮める。いや、互いを前進させる一歩になりそうですね。

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山下PMCは、日本初のPM(プロジェクトマネジメント)/CM(コンストラクションマネジメント)専業会社。現在、総事業費3兆円以上の施設建築プロジェクトを担当。100名の一級建築士をはじめとする、建築のプロフェッショナル集団です。 https://www.ypmc.co.jp/