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No.138 『東芝』 苦難の末に得たもの

まったくもってルネサスエレクトロニクスは不運としか言いようがないですね。火災のあった那珂工場といえば、ちょうど10年前に東日本大震災の影響を大きく受けた主力拠点。確か当時は3ヶ月の操業停止を強いられたと記憶しています。なぜルネサスだけがかくも試練を与えられるのか。これは偶然か、それとも必然か。「目先の需給が逼迫しているからといって、車載用半導体にはあまりのめり込みすぎないほうがいい。かつてのパソコンや携帯電話と同じ憂き目を見ますよ。なるべく産業用途に力を入れなさい」。そんな宇宙からのメッセージがわたしには聴こえます。

それはさておき、東芝の個人投資家向けWEBセミナーを視聴しました。この手の動画は数多く観ていますが、上から目線で言わせていただきますと、東芝のコンテンツは非常に良くできていると思います。社長の説明がわかりやすい。資料のレイアウトが見やすい。そして、伝えたいメッセージが理解しやすい。個人投資家向け説明会の良い手本といえるでしょう。

車谷社長と直接お話したことはないのですが、画面越しに受ける印象はポジティブでした。なにより表情が柔らかい。気負いや深刻さがまったく感じられない。軽やかで自然体。「こちらが東芝の社長の・・・」と紹介されなければ、「あれ、総務担当の部長さんかな」と誤解してしまうほどにフツーなオーラの人物とお見受けしました。主導型より協調型。「talk to」より「listen to」。誠にイイ感じだなと思いました(実はとんでもなく強権的でトップダウンの人だったりして)。

それにしても東芝はものすごい変革を短期で実行したものだと改めて感じます。家電・テレビ、パソコン、原子力、メモリ、医療機器など、売上高で1,000億円を超える事業をこの4年間で7つも売却しました。結果として、グループ全体の売上高は2014年度の6.7兆円から2019年度には3.4兆円へ3兆円以上も減ったことになります。まさに大手術。まるで胃の半分を切除してしまったような。よくショック死しなかったなと思います。

ただ、キャラクターは大きく変わりました。喜怒哀楽の激しいヤンチャな性格は完全にナリをひそめ、陽だまりの縁側で緑茶を啜りどら焼きを頬張る成熟した大人のようです。「この世に生を受けて145年、わたしもようやく落ち着きました」。インフラを中心とするB to B企業となった東芝の現在を車谷社長がまさに象徴しているように感じます。

東芝のキャラ変をつまらないと評価するアナリストもいるでしょう。「波乱万丈サイコー、安心立命サイテー」みたいな。株価のボラティリティが低下すれば、それだけ投資妙味も薄らぎますから。「あーあ、商売あがったり」。

でも、個人的には今の東芝のほうが好きですね。確かに派手さはなくなりましたけど、修羅場を乗り越えた者のみが放つ静かな凄みをそこはかとなく感じます。冒頭のルネサスも東芝のような境涯に達すれば、浮沈の激しい半導体業界でも泰然自若とした存在になれるのではないでしょうか。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。


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