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No.46 『オカムラ』 単なるオフィス家具メーカーではない、筋金入りのものづくり企業

赤坂の日枝神社に見守られる『いすの博物館』は、オフィス家具のオカムラが2009年に開設した。ここでは、同社が世に生み出した数多くの製品を見ながら、オフィスチェアの歴史や技術を学ぶことができる。子どもの社会科見学にも良さそうだ。

博物館の中に足を踏み入れると、真っ先に迎えてくれるのはイスではなく、意外にも1台のクルマである。可愛らしいデザインと朱色のカラーが印象的な『ミカサ ツーリング』。オカムラは1957年から60年に自動車分野への進出を企図したが、当時のメインバンクである三菱銀行の要請で結果的に本業のオフィス家具へ専心することになったらしい。同じく参入を表明していたホンダの支援を三菱銀行は選んだのだろう。オフィス家具の業界でトップに登りつめた今となっては、カーメーカーの夢を断念せざるをえなかった過去もあるいは懐かしい思い出なのかもしれない。

少し前にオカムラのIR説明会を聞いた。同じオフィスを相手にしながらも、キヤノンやリコーなどの事務機メーカーと比べて明るい話題が多いように感じる。オフィスの移転需要の恩恵に与かりやすいほか、事務機業界よりもプレーヤーの寡占度が相対的に大きい。加えて、新しい働き方の提案として注目できる製品も持ち合わせている。自動車メーカーを目指すほどの優れた技術力をベースに、世の中のトレンドを敏感に察知して変わり続ける柔軟性もオカムラは兼ね備えている印象だ。プレゼンテーションを担当した中村雅行社長は、ロマンスグレーのおしゃれな紳士で、温もりのある落ち着いた声の聞き心地が非常に良い。

2020年3月期の業績見通しは売上高2,500億円(前期比+1%)、営業利益130億円(同+5%、営業利益率5.2%)。売上高は過去最高、営業利益も18年3月期の最高益131億円に迫る見通しだ。オフィス用のイスや机などのオフィス環境事業が堅調に推移するほか、商品陳列棚や低温ショーケースなどの商環境事業も増益に貢献する。

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オフィス環境事業はそれこそ環境が追い風だ。東京23区の大規模オフィスビルの供給量は高水準で推移しており、特に2020年と2023年は100万㎡を大幅に上回ると予想されている。オフィスが動けば、家具の需要も膨らむ。とりわけ、首都圏に強みを持つオカムラは、移転需要の恩恵をフルに享受しているようだ。実際、需給の逼迫を背景に2020年1月から製品価格を7%値上げする予定。受け入れなければ、物流費の負担を顧客に求めるとしている。実に強気だ。

働き方改革に着目した新たな市場の創出にも力を入れている。いわゆる小型シェアオフィス『テレキューブ』を、テレビ会議システムを手がけるブイキューブと共同で展開中だ。テレキューブは、電話ボックスのような外観で防音性に優れるお一人様用の個室空間のこと。周囲の喧騒から逃れて資料作成や電話に集中できる。オフィス内の共有スペースのみならず、ビルのエントランスや駅構内などの公共空間にも導入し、テレワークの需要を取り込みたい考えだ。小田急線の経堂駅や西武新宿線の高田馬場駅にはすでに設置されているので、テレキューブを実際に見たことがある人もいるだろう。個人的にもぜひ利用してみたい。

オフィス家具のメーカーといより、オフィス空間のプロデューサーといったほうがオカムラの実態に近いのかもしれない。業績は堅調、テーマ性もある。にもかかわらず、PBRは1倍割れ。実に不思議である。


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